第109回 正修止観章 69
[3]「2. 広く解す」67
(10)煩悩境④
(2)別釈③
④「止観を修するを明かす」(2)
「煩悩境」の段の別釈は四段に分かれているが、その第四段は「止観を修す」であり、この段はさらに「正しく十乗を明かす」と「異名を会す」に分かれる。今回は「異名を会す」段について紹介する。この段はさらに「煩悩即涅槃の三十六句」、「諸法般若の三十六句」、「四身の三十六句」の三段に分かれる。ここでは、「煩悩即涅槃の三十六句」についてのみ簡潔に紹介する。
(2)「異名を会す」
煩悩と涅槃の関係については、諸経に「非道を行じて仏道に通達す」、「煩悩は菩提である」、「煩悩を断ち切らないで涅槃に入る」などと説かれるが、これについて理解するためには、三十六句を知る必要があるとされる。
まず、煩悩を断ち切らず涅槃に入らないこと、煩悩を断ち切り涅槃に入ること、煩悩を断ち切りもし断ち切りもしないで、涅槃に入りもし入りもしないこと、煩悩を断ち切りもせず断ち切りもしないで涅槃に入るのでもなく入らないのでもないことという根本の四句を確立する。最初の句は凡夫を意味し、次の句は無学の人(阿羅漢)を意味し、第三の句は学人(阿羅漢に到達しない有学の人)を意味し、第四の句は理を意味するとされる。
この四句の一々の句について、さらに四句に分ける。内容は省略するが、全部で十六句が形成される。根本の四句を合わせると二十句になる。これと同じように、十六句の涅槃を提示している。根本の四句とは、煩悩を断ち切らず涅槃を出ないこと、煩悩を断ち切って涅槃を出ないこと、煩悩を断ち切りもし断ち切りもしないで涅槃を出もし出もしないこと、煩悩を断ち切りもせず断ち切りもしないで涅槃を出るのでもなく出ないのでもないことを意味する。この根本の四句の一々の句について、さらに四句に分ける。内容は省略するが、全部で十六句が形成される。根本の四句を合わせると二十句になる。二種の二十句を合わせると四十句になるが、二種の根本の四句を一つにまとめると、三十六句が成立することになる。
その後、諸法と般若の生・不生、法身・報身・応身・化身の四身について説いているが、説明は省略する。これで、「煩悩境」の紹介を終える。
(11)病患境①
次に、十境の第三の「病患(びょうげん)境」の段の説明である。この段は、総釈と別釈の二段に分かれる。
(1)総釈
総釈の冒頭に、「第三に病患の境を観ずとは。夫れ身有るは、即ち是れ病なり。四蛇の性は異にして、水火は相違す」(第三文明選書『摩訶止観』(Ⅲ)、近刊、頁未定。大正46、106上19~20)とある。そもそも身体があることが病であると述べ、身体を構成する地・水・火・風の四大を四蛇にたとえ、それらの本性が水火のように相違すると指摘している。
さらに、「病に二義有り。一に因中の実病、二に果上の権病なり」(同前、106上24~25)と述べて、病気には、実病(実疾)と権病(権疾)の二種があることを指摘している。『維摩経』では、維摩詰が菩薩の大慈悲心によって、衆生の病を我が病とするという病にかかるが、これを権病といい、注釈書によってはこれを「仮病」ということもある。また、釈尊も涅槃に際して病を現わすが、これも権病とされる。
ただし、「病患境」で扱う病は、このような権病ではなく、実際の疾患を意味する実病である。『摩訶止観』には、「今の観ずる所は、業報の生身にして、四蛇は動作すれば、聖道を修することを廃す。若し能く観察せば、弥(いよ)いよ用心を益(ま)す。上智利根は、前の安忍を解すれば、則ち病境に於いて通達し、重ねて論ずることを労せず。解せざる者の為めに、今更に分別せん」(同前、106上1~4)とあるように、業の報いとしての生身である。もし病患境を観察することができれば、病がそのまま法界であるという観心が確立すると述べている。また、すぐれた智慧を持ち、鋭い感覚機能を持つ者は、前の煩悩境の十乗観法の第九の能安忍を理解すれば、病患境について深く理解できるので、苦労して重ねて論じることをしないが、理解しない者のために、今あらためて病患境について説明すると示している。
さらに、病患境を用いる必要性について、いくつかの例を取りあげている。長期の病気にかかることや遠く旅行することは、禅定の大きな障害であり、もし身体の病気にかかっていれば、修めた福を失い、無量の罪を起こすと述べられている。また、「浮き袋を破壊し、橋を撤廃し、正しい思いを忘れ失う」という経典(出典未詳)を引用し、病気のために戒を破ることは浮き袋を破るようなものであり、禅定を破ることは橋を撤廃するようなものであり、膿や血にまみれた臭い身体を惜しみ、清浄の法身を破ることを正しい思いを忘れ失うことと名づけると述べている。また、人が平穏で健康であるときは、ゆったりとして怠けがちとなるが、病気が差し迫っているときは、いっそう心を用いて、多くの事柄を成し遂げることができると指摘している。(この項、つづく)
(連載)『摩訶止観』入門:
シリーズ一覧 第1回 第2回 第3回 第4回 第5回 第6回 第7回 第8回 第9回 第10回 第11回 第12回 第13回 第14回 第15回 第16回 第17回 第18回 第19回 第20回 第21回 第22回 第23回 第24回 第25回 第26回 第27回 第28回 第29回 第30回 第31回 第32回 第33回 第34回 第35回 第36回 第37回 第38回 第39回 第40回 第41回 第42回 第43回 第44回 第45回 第46回 第47回 第48回 第49回 第50回 第51回 第52回 第53回 第54回 第55回 第56回 第57回 第58回 第59回 第60回 第61回 第62回 第63回 第64回 第65回 第66回 第67回 第68回 第69回 第70回 第71回 第72回 第73回 第74回 第75回 第76回 第77回 第78回 第79回 第80回 第81回 第82回 第83回 第84回 第85回 第86回 第87回 第88回 第89回 第90回 第91回 第92回 第93回 第94回 第95回 第96回 第97回 第98回 第99回 第100回 第101回 第102回 第103回 第104回 第105回 第106回 第107回 第108回 第109回 第110回(2月5日掲載予定)
菅野博史氏による「天台三大部」個人訳、発売中!














