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『摩訶止観』入門

創価大学大学院教授・公益財団法人東洋哲学研究所副所長
菅野博史

第14回 修大行(3)

[1]四種三昧③

非行非坐三昧③

②悪に焦点あわせる

 悪を論じるにあたり、六蔽を悪としている。六蔽は、六波羅蜜を妨げる六種の悪心のことで、慳心(貪欲)・破戒心・瞋恚心・懈怠心・乱心・癡心をいう。これに対して、六波羅蜜が善と規定される。しかし、これは一応の定義であり、善と悪は相対的なものであることを説いている。たとえば、二乗が苦を脱却することは善であるが、自利のみの立場に制限されているので、慈悲に依って広く衆生を救済する蔵教の菩薩に比較すると悪となると説かれる。このような比較によって善悪の相対性が示されるのであるが、結局は円教のみが善と規定されて、次のように説かれる。 続きを読む

『摩訶止観』入門

創価大学大学院教授・公益財団法人東洋哲学研究所副所長
菅野博史

第13回 修大行(2)

[1]四種三昧②

非行非坐三昧②

 前回は、非行非坐三昧についての説明の途中で終わった。非行非坐三昧は、諸の経に約す・諸の善に約す・諸の悪に約す・諸の無記(善でも悪でもない性質のもの)に約すという四段落から成る。今回は、後の三段である善・悪・無記の三性の日常心を対境として止観を行ずる段について説明する。智顗(ちぎ)は、かなりの紙数を割いて、この段を説明しているが、議論が複雑で難解な点も多い。 続きを読む

『摩訶止観』入門

創価大学大学院教授・公益財団法人東洋哲学研究所副所長
菅野博史

第12回 修大行(1)

[1]四種三昧①

 前回までで第一章の大意の中の第一の発大心の説明が終わった。次に第二の修大行を説明する。
 ここでは、常坐、常行、半行半坐、非行非坐の四種三昧(※1)を説いている。これらの名称は、修行の際の身体の形態(身儀)に基づいたものであり、内容的には、順にそれぞれ一行三昧、仏立三昧、方等三昧・法華三昧、随自意三昧と呼ばれる。『摩訶止観』では、それぞれの三昧について、身の開・遮(許可と禁止)、口の説・黙(説法と沈黙)、意の止・観(止と観)という具体的な修行の方法を示し、さらに、修行を勧める段が設けられている。
 人間の行為全般を、仏教では行・住・坐・臥の四種に分けることがある。行は歩むこと、住は立ち止まること、坐は座ること、臥は横になることである。このなかで、四種三昧は、行と坐を選んでいる。坐は坐禅に相当する。行はたとえば仏像の周囲を歩むことを意味する。この坐と行を折衷したものが半行半坐であり、坐と行に限定されない、その他のあらゆる日常の行為が非行非坐と呼ばれる。この四種三昧は、現在も日本天台宗の一部では修行されており、それについての報告も読むことができる(※2)続きを読む

『摩訶止観』入門

創価大学大学院教授・公益財団法人東洋哲学研究所副所長
菅野博史

第11回 発大心(5)

[5]六即②

名字即・観行即

 名字即(みょうじそく)については、

 名字即とは、理は即ち是なりと雖も、日に用いて知らず。未だ三諦を聞かざるを以て、全く仏法を識らず。牛羊(ごよう)の眼の方隅(ほうぐう)を解せざるが如し。或いは知識に従い、或いは経巻に従いて、上に説く所の一実の菩提を聞き、名字の中に於いて通達解了(つうだつげりょう)して、一切の法は皆な是れ仏法なりと知る。(第三文明選書『摩訶止観』(Ⅰ)113~114頁)

とある。理即は、原理的に三諦、三智が備わっていても、まったく現実化していない。それに対して、名字即は、善知識(仏法を教えてくれる良い友人)や経典によって、知識としては三諦の名や一切法がすべて仏法であることを知っている。しかし、まだ知識にとどまっていて、実践修行の段階に入っていない場合をいう。 続きを読む

『摩訶止観』入門

創価大学大学院教授・公益財団法人東洋哲学研究所副所長
菅野博史

第10回 発大心(4)

[5]六即①

 五略の第一発大心のなかの「是(ぜ)を顕わす」(顕是)のなかの四諦、四弘誓願(しぐぜいがん)については説明した。今回は、六即(理即・名字即・観行即・相似即・分真即・究竟即)について説明する。
 これは、智顗(ちぎ)が創唱した円教の行位である。湛然(たんねん)『止観大意』には、この六即について「即なるが故に、初後は倶に是なり。六なるが故に、初後は濫(らん)ぜず。理は同じきが故に即にして、事は異なるが故に六なり」(大正46、459下4~5)とわかりやすく要所を押さえた説明をしている。行位を六段階に分けても、すべて同一の真理を証得するので「即」といい、その平等性の上に立って、真理を証得することに浅深の差異があるので「六」というものである。つまり「即」は同一の理を証得するという平等性を意味し、「六」は具体的な位の差異を意味している。 続きを読む