静かな筆で描く若い女性の孤独
青山七恵(あおやま・ななえ)著/第136回芥川賞受賞作(2006年下半期)
高齢女性と同居する若い女性の日常
芥川賞の選考会では、強く推す選考委員が1人、2人いて、否定的な人も同程度いるというケースが多いのだが、この回ではほとんどの選考委員が本作品を推していた。普段は手厳しい評価の多い石原慎太郎さえも驚くほど高い評価だった。23歳という若さで受賞した青山七恵。彗星のごとく現れた才能だ。
受賞作「ひとり日和」の主人公は、遠縁に当たる70過ぎの女性の家に居候する20歳のフリーターの「わたし」。春から冬までの1年間の暮らしを静かな筆で淡々と描いている。自分はいったい何をしたいのか、自分は何者かさえもよく分からない若い女性が、人生の春夏秋冬を味わい尽くした枯れた年齢の高齢女性と暮らす。
舞台は、都会の開発に取り残されエリアの一角に立つ古びた木造家屋。その小さな庭の垣根の向こうには、細い道を1本隔てて駅のホームが見える。主人公にあてがわれた辛気臭い部屋の一室から「わたし」は、ホームと電車を眺め、あるいは逆にホームから自分の暮らす古びた部屋を見る。
2人の恋人に順次去られるという出来事はあったものの、その生活は静かそのものだ。その静けさは、時代から取り残されそうでもあり、若ささえも吸い取られそうだ。
こうした淡々とした描写から浮かび上がってくるものは、若い女性の孤独や虚無感だ。「ひとり日和」というタイトルが絶妙である。 続きを読む