饒舌な口語体で描いた人物描写が鮮やか
川上未映子(かわかみ・みえこ)著/第138回芥川賞受賞作(2007年下半期)
登場人物の鮮やかな描写が読者を引き込む
「乳と卵」で芥川賞を受賞した川上未映子は、その後もさまざまな文学賞を受賞。2024年上半期の芥川賞からは、選考委員も務めており、作家デビュー前の2004年には、歌手としてアルバムも発表もしている。
「乳と卵」は、そのタイトルから想像されるように〝女性性〟をひとつの題材としている。
主な登場人物は3人。東京で一人暮らしをしている主人公の「わたし」。大阪で暮らす姉の巻子と、その娘の緑子。2人は母子家庭。巻子は、夫と離婚して以降懸命に働いてきたが、現在は豊胸手術に執拗にこだわる。緑子は初潮を迎えたばかりの年代で、自らの胎内に無数の卵を持つことに違和感を持つ。
この母子のコミュニケーションは、筆談のみ。言葉を発せないわけではない。娘の緑子が、言葉によるコミュニケーションを拒んでいるからだ。そんな娘の気持ちを理解できない巻子。一方、母に伝えたい自分の思いが何であるのかさえ分からず自分自身を持て余す緑子。そんな母子が豊胸手術のために上京し、「わたし」のアパートで過ごす。その3日間を描いている。 続きを読む