「現代」という時代の、所在のない希薄性を描く
吉田修一(よしだ・しゅういち)著/第127回芥川賞受賞作(2002年上半期)
何も起きない淡い色彩の物語
第127回芥川賞は、当時33歳だった吉田修一の「パーク・ライフ」が受賞。『文學会』に掲載された122枚の作品だ。同氏の作品はそれまで4回芥川賞候補となっている。
物語は淡々と進む。舞台は東京の日比谷公園。主人公が暮らす部屋も勤務先もその周辺で、仕事の空き時間などにぼんやりとした時間をそこで過ごす。そこで一人の女性と知り合うのだが、大きな出来事は何も起きない。色に例えるならば、透明に近い淡い色彩の物語だ。何か特別なことを強く訴えようとする気配もないわけだが、それが逆に都会で暮らす若い人たちの感覚をうまく描いている。
例えば、住む場所。主人公が生活する場所は、知り合い夫婦のマンションで、2人が不在期間、ペットの猿の面倒を見るという名目でその部屋で寝起きしている。そこは決して自分の世界ではない。例えば、人物。公園で知り合った女性との間には性的なものは皆無だし、他の登場人物を見ても手製の小さなバルーンを空にあげて公園の全体像を知ろうとする老人程度しか出てこない。そこにモチーフとして度々挟み込まれるのが、「死んでからも生き続ける臓器」を謳った臓器移植の広告や人体解剖図などの他人事のような希薄な肉体感覚だ。 続きを読む