『摩訶止観』入門

創価大学教授・公益財団法人東洋哲学研究所副所長
菅野博史

第2回 『摩訶止観』の特徴(2)

[2]天台大師智顗の略歴(2)

天台山を下りる

 天台山に隠棲し、修行に専念していた智顗(ちぎ)も、陳朝の皇帝による再三の申し出を拒否し続けることができず、10年にわたる天台山滞在の後、とうとう585年に天台山を下り、再び建康の地を踏むことになった。智顗は歓迎され、勅命により『大智度論』の題目(「大智度」は、摩訶般若波羅蜜の漢訳)を講義し、また『仁王般若経』を講義した。皇帝ばかりでなく、皇后も皇太子も智顗に帰依し、菩薩戒を受けた。また、『法華文句』の講説を行なった。 続きを読む

芥川賞を読む 第25回『きれぎれ』町田康

文筆家
水上修一

ほとばしるエネルギーとスピード感で狂気を描く

町田康(まちだ・こう)著/第123回芥川賞受賞作(2000年上半期)

コラージュのようなストーリー展開

 ダブル受賞となった第123回芥川賞。その一つが、町田康の「きれぎれ」だった。
 昔、音楽雑誌の編集をやっていた私にとっては、パンクバンド「INU」のボーカル・町田町蔵のほうが作家・町田康よりも印象が強烈だったので、芥川賞受賞のニュースを聞いた時は、「あの町田町蔵が!」と非常に驚いたことを覚えている。彼の処女作「くっすん大黒」は、それ以前、興味本位で読んでみたことがあったのだが、わけの分からない、めちゃくちゃな感じが「さすが町田町蔵だ」と感心したことを記憶している。
「きれぎれ」も、まあ一言で言えば、わけの分からないめちゃくちゃな感じだ。 続きを読む

書評『よみがえる戦略的思考』――希代のインテリジェンス・オフィサーからの警告

ライター
小林芳雄

「価値の体系」「利益の体系」「力の体系」

 昨年(2022年)、コロナウイルスによるパンデミックが収束していない状況下で、ロシアによるウクライナへの侵攻は世界の人々を震撼させた。その影響は広範囲に及び、エネルギーや食糧の供給が危ぶまれるなど複合的な危機を生み出している。勃発から一年がたち終戦の気配すらなく、長期戦の様相すら呈している。こうした危機の原因はどこあるのか、どうすればこの状況から抜け出すことができるのだろうか。本書は元外務省主任分析官でロシア情勢に通暁したインテリジェンス・オフィサー、作家の佐藤優氏による優れたウクライナ危機の分析書である。 続きを読む

厳しさ増す安全保障環境と、日米韓の戦略的連携強化の必要性

ライター
米山哲郎

韓国・尹大統領と公明党・山口代表との会談を報じる公明新聞(1月4日付)

2023年における日本外交の責任

 2023年における、国際社会における日本の責任は極めて重い。G7議長国として5月に広島サミットを主催する。今年から2年間、国連安保理非常任理事国を務め、1月は議長国でもある。世界の平和と安定のため積極的に貢献する立場(※1)となった。
 世界を見れば、ロシアが核兵器の使用可能性を示唆したり、北朝鮮の核兵器開発も進むなど懸念は大きい。安保理での中国やロシアとの交渉は並大抵のことではないだろうが、唯一の被爆国として国際社会の平和と安全の維持のために大きな力を発揮してもらいたい。
 岸田首相は1月5日、政府与党連絡会議で、

我々の平和への強い意志を、歴史に残る形で世界に示したい

と力強く決意を述べた。そして1月9日からはフランス、イタリア、英国、カナダ、米国を相次ぎ歴訪、各国首脳と会談した。
 米国のバイデン大統領とは1月13日にワシントンで日米首脳会談。2022年年末に、日本は防衛力の抜本的強化を図る方針を決定してから初の首脳会談であり、ここでは日米同盟の一層の強化と自由で開かれたインド太平洋に向けた更に踏み込んだ緊密な連携を図ることを確認しあった。 続きを読む

『摩訶止観』入門

創価大学教授・公益財団法人東洋哲学研究所副所長
菅野博史

第1回『摩訶止観』の特徴(1)

[1]はじめに

 私は今、第三文明選書に『摩訶止観』の訳注を刊行中である。この「WEB第三文明」に、『摩訶止観』の全体像を解明する文章を連載する機会を与えられたので、読者の皆様にはしばらくの間、お付き合い願いたい。
 私はこれまで中国仏教の研究をしてきた。時代的には、主に南北朝・隋の時代の仏教思想が研究対象である。中国の南北朝時代は、北魏(386-534)・東魏(534-550)・西魏(534-556)・北斉(550-577)・北周(557-581)の北朝と、宋(420-479)・斉(479-502)・梁(502-557)・陳(557-589)の南朝が拮抗対立した時代を指す。この南北の対立を統一したのが隋(581-618)である。南北の統一を果たした割には、隋は短命で、それに取って代わったのが長期政権を保持した唐(618-907)である。
 日本では、隋唐仏教が中国仏教史の黄金期であるとよくいわれるが、これは日本の仏教各宗派の多くがこの時代の中国で成立したことによるものだと思われる。私の主な研究は、南北朝・隋代の大乗経典の注釈書を研究することであったが、なかでも最も力を入れて研究したものが『法華経』の注釈書にほかならない。 続きを読む