コラム」カテゴリーアーカイブ

芥川賞を読む 第65回 『百年泥』石井遊佳

文筆家
水上修一

百年分の記憶が入り乱れるマジックリアリズム小説

石井遊佳(いしい・ゆうか)著/第158回芥川賞受賞作(2017年下半期)

エネルギッシュなインドの混沌

「百年泥」で芥川賞を受賞した石井遊佳は、初候補での受賞。当時54歳。
 舞台は、インド南部の街チェンナイ。百年に一度の大洪水で街中が水浸しとなった。主人公の「私」は、勤務先である日本語教室に歩いていくため、川にかかる大きな橋を渡ろうとしたのだが、そこは行き交う人と車で大混乱。しかも、橋の両端には山のように積み上げられた泥と廃棄物で溢れていた。その泥は、川底に長年蓄積されてきた、まさに百年分の汚泥であり、その百年分の記憶が白日の下に晒されたのだ。
 作品は、現実世界をリアルに描写しながら非現実的で幻想的な要素を織り交ぜていくマジックリアリズム小説である。現実である日本語教室での授業の様子をベースに置きながら、大洪水で混乱する橋の様子の中にさまざまな幻想を入れ込んでいく。 続きを読む

書評『希望の源泉 池田思想⑧』――『法華経の智慧』めぐる語らい完結

ライター
本房 歩

「池田思想」としての『法華経の智慧』

 作家の佐藤優氏によって月刊誌『第三文明』2016年8月号から開始された連載「希望の源泉 池田思想――『法華経の智慧』を読む」が遂に完結し(2025年6月号)、その単行本化の最終巻となる第8巻(『希望の源泉 池田思想⑧』)が刊行された。

 まず『法華経の智慧』は、SGI(創価学会インタナショナル)会長でもある池田大作・創価学会第3代会長(以下、原則としてSGI会長と表記)が、1995年初頭から1999年6月までの期間に、法華経28品の全編を創価学会教学部の代表との座談形式で講義した書物である。
 法華経は大乗経典の代表的な経典として、その成立から約2000年間にわたって多くの地域で多くの言語に翻訳された。ゆえに「経の王」とも称されている。
 とりわけ鳩摩羅什訳の「妙法蓮華経」は、日本を含む東アジアの仏教体系、政治、文化にも多大な影響を与えてきた。創価学会が信奉する日蓮大聖人も、鳩摩羅什訳の「妙法蓮華経」を用いている。 続きを読む

『摩訶止観』入門

創価大学大学院教授・公益財団法人東洋哲学研究所副所長
菅野博史

第102回 正修止観章 62

[3]「2. 広く解す」 60

(9)十乗観法を明かす㊾

 ⑪能安忍

 十乗観法の第九の「能安忍」について説明する。安忍とは、内外の名誉と恥辱に対して安らかに忍耐することである。『摩訶止観』には、「若し此の意を得ば、九境を須いず。若し未だ了せずば、当に更に広く明かすべし」(第三文明選書『摩訶止観』(Ⅲ)、近刊、頁未定。大正46、99下13~14)とあるように、陰入界境に対する十乗観法のなかで、この第九の能安忍を実現できれば、煩悩境から菩薩境までの九境を必要としないこと、もしうまくいかなれば、九境について詳細に明らかにするべきであると述べている。 続きを読む

「空手の日」制定20周年記念イベント

ジャーナリスト
柳原滋雄

平和祈念公園内で行われた恒例の「奉納演武」

 沖縄県議会で「空手の日」を制定する決議が採択されたのは2005年3月29日。沖縄空手4団体の一つ、沖縄県空手道連合会の陳情で始まったこの動きは、2000年ごろ、具体的な取り組みが始まり、1936年10月25日、「琉球新報」主催の空手家座談会で表記や呼称がバラバラであった名称を「空手」に統一することを合議した日にちなみ、「10月25日」を空手の日として制定したものだ。「空手の日」と定める決議に関する提案理由を説明したのは前公明党沖縄県代表の金城勉県議(当時)だった。以来20年。

演武者8人と沖縄県議会関係者。前列右から4人目が上原章副議長、最後列右から3人目が松下美智子県議(いずれも公明党)

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前田幸男著『「人新世」の惑星政治学』―『人生地理学』発刊123年の位相と相関からの予備的勤考―

創価大学大学院国際平和学研究科客員教授
田中福一郎

 明治から令和へと思想史的時空間軸において、優に百年を超えたこの現代。地球規模に拡がる気候危機時代における気候正義教育と創価世界市民教育のための洞察の一書と思料される著作に出会うことが出来た。前田幸男著『「人新世」の惑星政治学-ヒトだけを見れば済む時代の終焉-』(青土社、2023年)は、まさに今日の時宜を得たものと考えられる。
 この混迷の世界に臨み、翻って地人相関哲理に通暁された牧口常三郎先生著『人生地理学』から謹んでの位相と相関の視座から、同著につき寄稿書評させていただけることに第三文明社編集部のご高配に深謝いたしたい。
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