文芸誌は儲からない。ある大手誌の編集長が月に800万円の赤字が出る、年間で1億円だ、とこぼしていたそうだ。それでも、大手出版社が文芸誌を出し続けるのは、自分たちが出版人であることのアイデンティティーを保ちたいからだろうとおもう。
僕ら小説家も儲からない。それでも小説を書くのは、書かなければ小説家でなくなるからだ。僕は小説に救われた。小説に生かされている。小説家のほかに仕事を考えつかない。だから、小説を書く。出版社も似たような事情だろう。
というわけで、書肆侃侃房(しょしかんかんぼう)という出版社から、この時勢に新しい文芸誌が生まれた。
『ことばと』。編集長は、批評家で、最近、小説を書き始めた佐々木敦だ。書肆侃侃房、新しい文芸誌、佐々木敦という組み合わせから、これは買いでしょう、とおもっていたら、なんとマーサ・ナカムラの短篇小説が掲載されていた。 続きを読む
