与野党の新たな結集軸へ――「政策5本柱」示した公明党

ライター
松田 明

来秋までに「中道改革ビジョン」を策定

 公明党は11月29日に開催された「全国県代表協議会」で、「政策5本柱」を打ち出し、「中道改革勢力の軸」として出発することを約し合った。

 公明党は29日、各都道府県本部の幹部を集めた「全国県代表協議会」を党本部で開いた。連立政権離脱後の党の理念や政策の5本柱を示し、1人当たり国内総生産(GDP)の倍増などを掲げた。来秋の党大会までに「中道改革ビジョン」を策定する方針も表明。斉藤鉄夫代表は「中道改革の旗を高く掲げ、与野党の結集軸として新たな地平を力強く切り開く」と意気込んだ。(『毎日新聞』11月30日

 周知のとおり、公明党は10月10日をもって足掛け26年に及んだ自民党との連立に「区切り」をつけ、石破内閣の総辞職と同時に〝野党〟の立場になった。
 自民党は日本維新の会との閣外協力による〝連立〟(国際的にも政治学の世界では閣内協力しない政党間による政権を「連立」とは呼ばないが、自維政権は合意文書で「連立」と呼称している)を組み、高市政権の樹立にこぎつけた。

 それでも過半数に3議席足りなかったところ、11月28日になって、自民党の鈴木俊一幹事長が衆院会派「改革の会」を組む無所属の国会議員3人と会談。3人は同日から自民党の会派に合流することで合意した。
 これで日本維新の会とあわせて過半数の233議席にぎりぎり届いたことになり、12月からの補正予算成立や内閣不信任決議案の否決にひとつの安心材料ができた。
 ただ、この3人はもともと日本維新の会を「除名」された議員。数合わせのためとはいえ、ここでも〝連立〟のパートナーに対する自民党からの配慮はなく、維新側からは不満の声が出ている。

無党派の望む政策にマッチする公明党

 日本総合研究所シニアフェローの翁百合氏は、

この約1年の国政選挙の結果を見ると、国民の不満の受け皿は最大野党ではなく、新しく登場した政党になり、政治の構造は多党制へと大きく変化しているように見える。こうした中では、より長期的な視野に立ち、党派を超えた合意をつくっていくことが求められるのではないだろうか。(月刊『公明』2025年12月号)

と多党制時代における政治の要件について述べている。
 多様な民意が可視化され、それらが国政の場で発言権を持てるようになったことは好ましい変化ではある。しかし「長期的な視野」で「合意形成」ができなければ、より刺激的な言葉で民意を操った者が優位に立つというポピュリズム政治によって、結果的には社会の分断と国力の衰退を招きかねない。

 今回の全国県代表協議会で、斉藤鉄夫代表もこうした政治状況を踏まえ、

多党化が進む時代を迎え、世論におもねるポピュリズム的な動きが広がる日本政治の中で、中道の固まりを形成し、多様化した価値観を調整して社会の分断を防ぐ意義は極めて大きい。わが国の政治の安定と発展のため、国家のためでもイデオロギーのためでもなく、「人間」のための中道政治を推進する政治勢力、すなわち「中道改革勢力」を再構築する必要があります。(代表協議会での斉藤代表挨拶『公明新聞』11月30日

と述べた。そして、「野党」として再出発する公明党について、「中道改革勢力の軸になる」と訴えた。
 この「中道改革勢力」については、既に9月11日に参院選の総括として西田実仁幹事長が「今後の党改革の方向性」のなかで、

「責任ある中道改革勢力」の軸として役割を果たす(『公明新聞』9月14日)

として発表していたものだ。
 とはいえ「中道改革勢力」といわれても、多くの一般国民には今ひとつピンとこない人も多いだろう。

 情勢分析に定評のある選挙ドットコム編集長の鈴木邦和編集長は、同社が約400万人(8割弱が無党派層で、40代以下が7割)から得た「投票マッチング」(自分の望む政策に一番近い政党を判別するシステム)で、この数年、公明党が常に1位、2位といった上位を占めてきたことを、この9月の「公明党のサブチャンネル」で初めて公表した(選挙のプロが未来の公明党をガチ予測!「公明党のサブチャンネル」)。

 有権者の政治的な意識は、全体では〝釣り鐘状〟のラインを描くように、中央の「中道」がもっともボリュームが厚く、左右の両極端にいくほどボリュームが小さくなる。
 SNSも含め、メディアではともすれば左右の両極端の声が目立ちやすい。しかし、サイレント・マジョリティ(発言しない多数派)は、やはり極端ではなく穏健な「中道」なのだ。
 とりわけ若い無党派層の望む政策に一番マッチした政党が圧倒的に公明党であるという調査結果は、公明党が自認どおりの「中道」政党であることを、客観的にも証明したかたちになる。

 政局や選挙になると、どうしても多くの政党は立ち位置を示すため、支持層に好まれそうな左右の色を鮮明にしがちである。
 しかし、実際には自民党のなかにもきわめてリベラルな考え方を持った議員は一定数いるし、逆に立憲民主党や国民民主党、日本維新の会のなかにも中道的な考え方の議員はいる。

 ただ、政党として「中道」を掲げている政党があるかというと、じつは公明党以外にないのが実情だ。
 今回、公明党が〈「責任ある中道改革勢力」の軸〉と自らを位置づけたのは、本来はもっとも多くの国民がイデオロギー的にも中道を支持しているにもかかわらず、そこが空席になっており、公明党こそがその中道の結集軸になり得ると自負しているからだろう。

 その結集軸になり得る2つの根拠について、斉藤代表は同協議会で次のように発言している。

公明党には、四半世紀にわたって政権の一翼を担った与党経験があります。また、地方議員も含めて、全国約3000人の議員ネットワークがあり、この力を生かして日本の政治を前に動かしてきた実績があります。(代表協議会での斉藤代表挨拶『公明新聞』11月30日

公明党は、党綱領に中道主義を明記した唯一の政党です。中道とは、理念としては「生命・生活・生存を最大に尊重する人間主義」です。政治路線としては、日本の政治における座標軸の役割を果たすことをめざし、具体的には ①政治的な左右への揺れや偏ぱを正し、政治の安定に寄与する ②不毛な対立を避け、国民的な合意形成に貢献する ③諸課題に対し、時代の変化に応じた解決のため建設的、クリエーティブ(創造的)な政策提言を行う――ことを基本としています。(同)

国民が求める政治へ「与野党の結集軸」に

 自民党はみずから引き起こした「政治とカネ」の問題で国民の政治不信を招き、先の衆院選でも参院選でも大敗した。
 それにもかかわらず、具体的な再発防止策には消極的なままだ。参院選後に明らかになった2つの問題(①有力議員の政策秘書が起訴され罰金30万円、公民権停止3年の略式命令を受けた、②「清和政策研究会」(旧安倍派)をめぐる裏金事件の公判で、旧安倍派の元会計責任者が証人として出廷し、2022年に一度中止が決まった政治資金パーティー収入の還流再開を求めた幹部名を明かした)についても、真相究明しようとしない。

 それが原因で公明党が連立離脱するという事態に至っているのに、その後も「政治とカネ」を具体的に改善する気配がない。
 それどころか、11月26日の党首討論で立憲民主党の野田佳彦代表から企業団体献金について詰められると、高市首相は「そんなことよりも、定数の削減をやりましょうよ」と発言した。

 自民党と日本維新の会は27日、企業・団体献金のあり方を議論する有識者会議を設ける法案を来週にも国会に提出する方針を確認した。一方、自民は同日、献金の存続を前提とする公開強化法案を今国会に提出することを決定。規制を求める他党に歩み寄る姿勢はなく、有識者会議の設置は時間稼ぎにすぎないとの見方も出ている。(『朝日新聞』11月27日

 高市首相は依然として高い支持率を誇っているが、一方で国民は「政治とカネ」への厳しい目を捨てたわけではない。
 2025年11月15、16日に実施した共同通信社の世論調査では、

高市早苗首相に「政治とカネ」問題解決への意欲を感じるかどうかを聞いたところ、「感じない」が64.7%で、「感じる」の27.6%を上回った。(『日本経済新聞』11月16日

 自民党政治のアキレス腱ともいえる「政治とカネ」に決着をつけないまま、目先をごまかし続けていても、必ずどこかで再び国民に大きな政治不信を与えるような「カネ」をめぐる不祥事が出てくるだろう。
 本来なら〝連立〟を組む日本維新の会が諫言すべきであるのに、同党はむしろ「議員定数削減」という目くらましを放って、自民党の「政治とカネ」から国民の視線を遠ざけることに懸命だ。

 このままでは早晩、日本政治は行き詰ってしまう。公明党はその先を見据えて、新しい政権の担い手となりうる「中道改革勢力」の構築を考えているのであろう。

その公明党が「中道改革勢力」の先頭に立ち、国民の利益と幸福に奉仕する国民政党として与野党の結集軸となり、国民が求める改革を主導する基軸としての役割を果たしてまいりたい。
公明党の動き次第で、日本に新しい政治の流れが生まれる――そう国民の皆さまに期待を持っていただけるよう、公明党の全議員が団結し、全力で働いていこうではありませんか。(代表協議会での斉藤代表挨拶)

 むろん、その「新しい政治の流れ」が今の野党だけを中心とした〝非自民〟になるのか、あるいは自民党そのものが自浄作用を起こして変容するのか、そこは誰にも予測できない。斉藤代表も〝野党の結集軸〟ではなく〝与野党の結集軸となり〟と発言している。
 また、次の衆院選でただちに政権交代になるのかどうかも、これまた予測はできない。
 ただ、いつまでも「政治とカネ」の問題を繰り返し続ける政治を、もはや国民は信頼しないだろう。そうであるならば、少なくとも今の「政治とカネ」を引きずった政治とは異なる政治の実現へ、新たな求心力が必要になる。

「中道改革の旗印となる5本の政策の柱」

 公明党は今回、「中道改革の旗印となる5本の政策の柱」として、以下のものを掲げた。

①「現役世代も安心できる新たな社会保障モデルの構築」
 医療や介護、教育など、生きていく上で不可欠な公的サービスに誰もがアクセスできる権利の保障をめざす、いわゆるベーシック・サービスの考え方を踏まえ、弱者を生まない社会づくりに取り組む。そのために、経済成長による税収増や税制改革に加えて、政府系ファンドの創設で財源をつくり出す。
 予防医療の充実、現役世代の負担抑制や単身世帯に配慮した制度設計、社会保障における居住保障の追加など、現役世代も安心できる新たな社会保障モデルを構築する。食料品の軽減税率の恒常的な引き下げを目指す。

②「選択肢と可能性を広げる包摂社会の実現」
 経済格差で進路が左右されない教育の無償化拡大と質の向上、男女賃金格差是正や共家事・共育児、男性の長時間労働の是正、選択的夫婦別姓制度の導入、女性リーダーの比率向上、性の多様性の相互理解などを進めるジェンダー平等施策。
 日本人も外国人も互いを尊重し共に安心して暮らせる多文化共生社会、持続可能な生存環境を未来に残す気候変動対策、生物多様性を守る環境政策など、個人の尊厳を守り、誰もが自分らしく輝ける、多様性に富んだ包摂社会の実現をめざす。

③「生活の豊かさに直結する1人当たりGDP(国内総生産)の倍増」
 日本のGDPは世界第4位だが、1人当たりGDPは第38位。豊かさのバロメーターである「1人当たりGDP」を政策目標にすることは、人間を手段とする経済から、人間の幸福を目的とする経済政策への転換でもある。
 科学技術予算を倍増し、AI(人工知能)やDX(デジタルトランスフォーメーション)等による生産性革命、教育やリスキリングなどの人への投資などを通じて、持続的な賃上げを力強く後押し、経済成長を分配へと繋げていく。

④「現実的な外交・防衛政策と憲法改正」
 多国間対話による信頼醸成を目的とした「北東アジア安全保障対話・協力機構」を創設するなど、紛争を未然に防ぐ平和外交や国連を中心とした多国間協調を推進する。
 あくまでも専守防衛の範囲内で、日米同盟を強化した平和安全法制に基づき、切れ目のない安全保障体制を構築する。憲法改正に向けては、緊急事態条項の創設や自衛隊の憲法上の位置付けについて議論を加速させる。

⑤「政治改革の断行と選挙制度改革の実現」
 企業・団体献金の受け手を限定する規制強化や政治資金の透明化を図る第三者機関の創設など必要な法整備を行うとともに、現行の選挙制度の課題を踏まえ、「民意の反映」を重視した選挙制度改革を実現する。

 

野党からも公明案に前向きな反応

 公明党は政策を練り上げる力量やその精度には定評がある。今般の「5本の政策の柱」も簡潔にしてよく練り込まれたものであり、中道改革勢力の軸として党派を超えて共感を得られるものになるに違いない。
 実際、立憲民主党の安住淳幹事長は公明党の主張に呼応する発言をした。

立憲民主党の安住淳幹事長は30日、埼玉県東松山市で講演し、公明党の斉藤鉄夫代表が呼びかけた中道路線を軸とした与野党結集に前向きな考えを示した。「新しい受け皿をつくる政治勢力として、話し合いを進めていきたい」と述べた。「ぜひ国民民主党にも加わってほしい」とも語った。
公明の外交・安全保障やエネルギー政策は「おおむね受け入れられる範囲だ」とし、各分野での一致点や相違点を整理するよう本庄知史政調会長に指示したと明らかにした。(『日本経済新聞』11月30日

 ただ、正直に言ってこのせっかくの公明党の主張が、そのまま多くの国民に伝わるかといえば、なかなか難しいものがあるだろう。ましてや、「ワンイシュー」の単純な主張がもてはやされる時流である。

 筆者は以前から「新たに選挙権を持った18歳が理解できる言葉で」ということを公明党に求めてきたが、この際、たとえばアニメーションを使った1分程度のショート動画を駆使するなど工夫して、中学1年生が十分に理解できるくらいの手法で、公明党の政策を発信したらどうかと思う。

 今月18日からはサポーター制度「チームRICE」の登録も始まる。皆が楽しんでシェアし合えるようなかたちで、公明党の目指す政治、めざす社会の姿が、より多くの人々に広がることを願う。

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まつだ・あきら●ライター。都内の編集プロダクションに勤務。2015年から、「WEB第三文明」で政治関係のコラムを不定期に執筆。著書に、『日本の政治、次への課題』(第三文明社)がある。