旧統一教会問題を考える(下)――党利党略に利用する人々

ライター
松田 明

共産党の異様なシンポジウム

 安倍元首相が銃撃殺害された事件で、容疑者の犯行動機が世界平和統一家庭連合(以下、旧統一教会)への恨みだったと報道されると、7月21日に立憲民主党は「旧統一教会被害対策本部」(本部長:西村智奈美衆院議員)を立ち上げた。
 また日本共産党も同じ日に「統一協会問題追及チーム」(責任者・小池晃書記局長/共産党は「統一教会」を「統一協会」と表記する)を立ち上げている。
 臨時国会が開幕した8月3日、立憲民主党の辻元清美議員は、

政治と宗教の問題、統一教会の問題とか国葬の問題とかいっぱい出てきているので、早く国会でしっかりとした議論をしたい。(「テレ朝NEWS」8月3日

と発言した。
 リベラル派の憲法学者や被害者救済に関わってきた弁護士たちでさえ、「旧統一教会の問題は政治と宗教の問題というよりは、政治と不法行為を繰り返す団体の問題」と強調し、「政治と宗教」にミスリードしないよう注意喚起している。
 しかし、立憲民主党はこの問題を〝政治と宗教の問題〟と位置付けることで、与党にダメージを与えられると考えていたのだろう。だが早々に、旧統一教会との関連が立憲民主党内にも浮上。枝野幸男・元代表をはじめ14人の所属議員が旧統一教会系のメディアから取材を受けた等と発表した。
 いつもながらの立憲民主党らしいブーメランだ。

認証しなければ訴訟になる

 日本共産党の宮本徹・衆議院議員は8月20日、選挙区の東京・東村山市内で「政治と宗教を考える」シンポジウムを開催した(宮本衆院議員のツイート)。登壇したのは宮本氏と日本共産党機関誌『前衛』編集長、そして公明党批判を続けている二見伸明(元公明党副委員長)氏と、創価学会を中傷する言論を40年以上続けている乙骨正生氏だった。もはや日本共産党の意図がどこにあるのか、一目瞭然の顔ぶれである。
「被害者の救済」などを口実にしながら、野党がこの問題を政争の具として単なる与党攻撃に利用しようとしているのなら、きわめて不見識であり異常なことだと言わざるを得ない。
 立憲民主党と日本共産党、れいわ新選組などが開いた野党の合同ヒアリング(8月5日)では、天下り斡旋で文部科学省事務次官を退任したあの前川喜平氏が招かれた。
 前川氏は旧統一教会の名称変更問題に言及。自身が文化庁宗務課長だった1997年当時に教団側から名称変更の打診をされた際「実態が変わっていないのに変更はできない」として申請しないよう拒否したが、安倍政権時代の2015年に申請が受理され認証されたと発言した。

当時審議官だった前川氏は認証前、同課の説明に反対したといい「私がノーと言ったのにイエスという判断ができたのは、大臣か事務次官しかいない」と強調。申請から3カ月足らずで認証されたことについても「政治的案件だったので早かったんだろう」と述べた。(『東京新聞』8月5日

 前川氏は当時の下村博文大臣が関与したのではないかという〝推測〟を披露し、野党やメディアはこれに飛びついた。
 前川氏は『サンデー毎日』(8月14日号)で、

申請を受けて認証しないとなると訴訟に発展する可能性がある。できるだけ水際で食い止めようと、認証できないから受理もしない、という理屈で申請を出させなかった。

と述べている。彼は自身の対応が法規を逸脱していることを自覚していた。

前川氏らの「法の軽視」が原因

 旧統一教会は8月10日の会見で、

2015年の名称変更に際し、文化庁の申請拒否が続くなら「訴訟もやむを得ない」との意思を伝えたと明らかにした。政治家の介入は否定した。(『産経新聞』8月10日

 前川氏が語っていたように、宗教法人法は「認可」ではなく「認証」制なので、法に定められた要件を満たした申請をされれば、文化庁は裁量なく認証しなければならない。要件に不備があるなら宗教法人審議会に諮ることになっている。申請をさせないという前川氏のはじめた対応がそもそも法規的には問題があるのだ。
 2015年に文化庁が名称変更に応じざるを得なくなったのは、訴訟を起こされれば文化庁側の長年の対応こそ不法と認定されてしまうからだろう。前川氏は自ら法律に基づかない対応をした不当性を棚に上げて、「大臣の関与」を推量だけで語った。
 中央大学大学院の野村修也教授は、

喩えて言えば、婚姻届を出されると受理しない訳にいかないので、役所が婚姻届を出すなと指導していたようなもの。こうした行政対応は法律に基づかないので、変更を「申請させろ」と詰め寄られた。文化庁は前川氏が始めた行政対応を踏襲するのではなく、申請されても拒絶できる法改正をすべきだった。(8月9日の野村氏のツイート

私は、旧統一教会の名称変更は、団体の意図がどうであれ、客観的に見て過去の不正を有耶無耶にする効果があったと思う。だからこそ認めない方策が必要だったと考えるが、文科省は、申請させないという法律に基づかない事前指導でお茶を濁し続け立法を怠ったため、押し切られた。法の軽視が仇になった。(8月10日の野村氏のツイート

と、当時の前川氏ら文科省文化庁の〝法を軽視した対応〟が2015年の名称変更を許してしまったと指摘している。

自民党はコントロールされたのか

 立憲民主党や日本共産党、政権に批判的な人々は、恣意的にこの問題を「政治と宗教」の図式にしようとし、旧統一教会が自民党をコントロールしてきたというストーリーさえ作ろうと躍起になっているように見える。
 しかし、旧統一教会は「勝共」運動を展開する一方で、30年以上前から北朝鮮と合同事業をおこなうなど親密な関係を築いてきた。また同会の「原理講論」には、かつて朝鮮半島を植民地化して日本の神社に参拝させた日本は「サタン側国家」だと記されている。
 他にも事実関係を挙げれば、文在寅(ムン・ジェイン)政権時代(2017年5月~2022年5月)の日韓関係は過去最悪となっていた。防衛族を中心に、北朝鮮を念頭に置いた「敵基地攻撃能力」の必要性を訴える声は自民党内にある。
 政権交代となった2012年の総選挙の際、自民党総裁に返り咲いていた安倍晋三氏は、選挙前の時点で既に公明党との連立を明言していた。当時は石原慎太郎氏が共同代表を務める日本維新の会が「憲法改正」など極右的な主張をして人気を集めていた時期だ。
 実際、選挙結果でも日本維新の会が民主党に肉薄する議席を獲得したが、安倍氏が率いる自民党は連立のパートナーに公明党を選んだ。
 旧統一教会の政治的主張の一部や家族観が自民党の右派のそれと共鳴する部分があるのは事実としても、全体で考えると自民党の政策が旧統一教会に影響されてきたという議論は無理があり過ぎる。
 むしろ、安倍政権時代の2018年に成立した改正消費者契約法は、

霊感等による知見を用いた告知(第4条第3項第6号)
当該消費者に対し、霊感その他の合理的に実証することが困難な特別な能力による知見として、そのままでは当該消費者に重大な不利益を与える事態が生ずる旨を示してその不安をあおり、当該消費者契約を締結することにより確実にその重大な不利益を回避することができる旨を告げること。

と、旧統一教会が繰り返してきた「霊感商法」について、契約取り消しを可能にした画期的なものだ。
 旧統一教会は、正体を隠した布教や洗脳行為による財産の収奪に著しい反社会性と違法性が指摘されているから問題なのであって、あくまでその「違法性・不法性」を法に基づいて対処するしかない。一般論として宗教者が政治に関与することも、その理念を政治に届けようとすることも、それ自体は憲法が保障する国民の権利で何の問題もないからだ。
 本稿の(上)で述べたように、旧統一教会の問題を「政治と宗教」の問題に回収することは、日本国憲法の理念を捻じ曲げることにつながる。
 ましてや日本共産党が早速、「政治と宗教を考える」と称して創価学会・公明党攻撃を専門とする人物を担ぎ出してきたように、党利党略に利用するなど不見識も甚だしい。
 ことあるごとに憲法を守れと叫びながら、党派性のためなら憲法も法律も蔑ろにするダブルスタンダードの詐術に〝洗脳〟されてはならない。

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