フランスのセクト対策とは(下)――ヨーロッパでの創価学会の評価

ライター
松田 明

典礼法人としてフランスSGIを承認

 フランスにおける宗教法の権威であり、フランスSGIの法人機構の整備・統合にも携わってきたグザヴィエ・デルソル弁護士はインタビューに対し、

 2006年、最後となった第4次国会セクト報告書で、ついに、「創価学会は、その教義においても、事実関係においても、いかなるセクト的逸脱に該当する行為は存在しない」と断言されるまでになったのです。
 この点は本質的に重要です。というのは、創価学会には、何ら批判できるような教義を含んでいないと「議会」が認めたという点であります。
 その後は、学会に関して、いかなる国会の報告書でも言及されなくなり、「セクト」と同一視される教団と見なされていません。(『創価新報』2022年9月21日付)

と明言している。
 2007年、フランスSGIは本部を置くオードセーヌ県で、日蓮仏法による宗教儀礼を実践する「典礼法人」に認められた。その後5年ごとの更新を受けて、今日に至るまで典礼法人として承認され続けている。
 ミビリュード(関係省庁セクト逸脱行為監視取り締まり委員会)の会長は3年の任期だが、

同委員会の歴代の会長が、2008年、2011年、2013年と、3度一貫して、SGIへの公式の書簡で、「創価学会にはセクト的逸脱行為で提訴されたようなことは一度もない」と明言しているのです。(グザヴィエ・デルソル弁護士/

 フランスSGIは長年、最高水準の法曹家たちとともに法人機構の透明化を積極的に推進してきた。もちろん、それはあくまでフランス社会に合わせた外形的な改革であり、フランスSGIの典礼と信仰実践は草創期から一貫している。
 典礼法人として認可され続けているのは、フランスSGIの日蓮仏法の信仰実践そのものの一貫した継続が、フランス社会から評価されていることを示している。

イタリアでは国家と協約を締結

 他のヨーロッパ諸国で創価学会がどう認識されているかにも、よく注意を払っておく必要がある。
 米国で同時多発テロが起きた4日後の2001年9月15日。36人のノーベル賞受賞者を名誉会員に迎え、2000人以上の会員から構成される国際ネットワーク「ヨーロッパ科学芸術アカデミー」(本部はオーストリア)は、緊急の「4大宗教間対話」を開催した。キリスト教、イスラム教、ユダヤ教徒ともに、仏教の代表として唯一ここに招待されたのが創価学会だった。
 2015年、フランス国営放送(第2チャンネル)の朝の人気番組「テレ・マタン」は、「Sokka Gakkai en Italie. Quatrième religion en Italie.(イタリアの創価学会。イタリア第4の宗教)」と題するルポを放送した。ヨーロッパ最大の仏教施設となるミラノ池田平和講堂の開館式典の模様とともに、カトリックの国でイタリア創価学会が社会の信頼を得て発展している様子を報じたのだ。
 イタリアでは、カトリック、イスラム、プロテスタントに次いで創価学会が「第4の宗教勢力」として発展している。放送のなかでは明確に、「創価学会は過去にフランスでセクトに挙げられたことがあったが、現在そのようには見なされていない」と言及された。
 同年6月27日、イタリア共和国は14年間の審査を経て、イタリア創価学会と共和国の間にインテーサ(宗教協約)を締結した。これは共和国憲法第8条に基づき、信教の自由の擁護を前提として、国家がカトリック以外の影響力のある宗教団体との間に、教育・研究機関の設立など諸権利を認める協約だ。
 レンツィ首相(当時)がフィレンツェにある創価学会イタリア文化会館を訪問。フィレンツェ市長ら多数の来賓が見守るなかで、署名式典がおこなわれた。
 なお、現在までインテーサを締結している教団は13団体。イタリア創価学会は12番目で、2019年に13番目として締結したのはイギリス国王が首長をつとめる英国国教会である。
 ローマ教皇フランシスコは、創価学会を核廃絶への重要なパートナーのひとつと見なしている。核兵器禁止条約が採択された直後の2017年11月、ローマ教皇庁が「核兵器のない世界と統合的軍縮への展望国際会議」を開催。SGIはこの会議の協力団体となっている。
 バチカンのシノドスホールで開かれた会議には、世界から数百名が参加。記念撮影の最前列には、教皇フランシスコを中心にノーベル賞受賞者、国連軍縮担当上級代表、池田博正SGI副会長、日本の被爆者の代表らが並んだ。(「National Catholic Reporter」2017年11月21日
 2017年にICANがノーベル平和賞を受賞した際に、ノルウェーのノーベル賞委員会は、ICANの国際パートナーとして重要な役割をはたしてきたSGI代表を授与式に招いている。
 これらの重要な事実を見ても「フランスではカルト」という言説が、いかに馬鹿げたものかわかるだろう。

「宗教が政治へ提言することは必要」

 ここまで「上」「中」「下」と本稿を読んでくださった方々は、既に理解されたと思う。フランスSGIを含む173団体を「セクト」としたリストは、2005年の首相通達で「不当」として廃止されている。
 それ以前のフランスでの2度にわたる国会報告書も、国内外の法曹家や伝統宗教、米国国務省などから厳しい批判を受けた杜撰なものだった。
 フランスにおけるセクト対策について、日本ではきわめて断片的に、しかも誤情報が幾重にも塗り重ねられてきた。
 いずれにせよ、今もって〝創価学会はフランスでセクト認定されている〟などと語る者がいるならば、もはや自分の「情報リテラシーの低さ」を宣伝しているに等しい。
 同志社大学神学部の小原克博教授は、日本国憲法第20条の「いかなる宗教団体も国から特権を受け、政治上の権力を行使してはならない」について、

 20条を文字通り解釈すれば、政治家が宗教団体に対して、便宜を図ってはいけないが、宗教団体が政治活動をすることを禁じているわけではない。
 政治家や三権分立、法的な規制だけで民主的な社会ができるわけではない。国と個人との間でさまざまな団体が健全に働くことが必要だ。その中に宗教団体もある。
 それぞれの宗教団体が理念に基づいて、より良い社会をつくっていくためにはどうすべきかを考え、政治家に提言していく。それはむしろ社会のためには必要だ。(「時事ドットコム」9月24日

と述べ、民主的でより良い社会を作っていくために、中間団体としての宗教団体が理念に基づいた提言を政治に届けていく役割の重要性を強調している。
 野党から宗教法人法に基づく解散命令を出す検討や、「カルト規制」への法改正の必要が語られていることについても、

「大きな逸脱」とはどんな場合かなど、細かな基準が法律に記されているわけではない。
 それをしっかりと議論し、曖昧過ぎて基準がない場合には、法律の一部改正も視野に入れた議論が必要になる。日本でフランス型の「カルト規制法」を新たにつくるのではなく、まずは現行法の運用だ。(同)

と、安易な判断に飛びつかないよう戒めている。
 日本社会の「宗教に対する無知」が旧統一教会による不法行為の被害を拡大させ、今度は「宗教に対する無知」によって過剰な宗教規制に走るようでは、私たちの社会が毀損するだけだ。
 人々を普遍的な価値や他者との連帯の方向に開かせていく宗教なのか、特殊な価値観に閉じ込め教団への犠牲的献身を強いていく宗教なのか。
 カルト的な教団の被害を撲滅していく一番の近道は、宗教をやみくもに忌避するような幼稚な態度ではなく、「宗教のあるべき姿」「宗教を持つことの意義」について、日本社会で日常的な議論や啓蒙が活発におこなわれていくことしかない。
 旧統一教会をめぐる問題が再燃した今こそ、宗教に対する認識をアップデートし、より良い社会へ宗教が貢献する方向に、議論を重ねていかねばならない。

フランスのセクト対策とは(上)――創価学会をめぐる「報告書」
フランスのセクト対策とは(中)――首相通達で廃止されたリスト
フランスのセクト対策とは(下)――ヨーロッパでの創価学会の評価

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まつだ・あきら●ライター。都内の編集プロダクションに勤務。2015年から「WEB第三文明」にコラムを不定期に執筆している。著書に『日本の政治、次への課題』(第三文明社)。