核兵器不使用へ公明党の本気――首相へ緊急提言を渡す

ライター
松田 明

広島・長崎でのサミットを要請

 5月18日午後、公明党の山口那津男代表は首相官邸を訪れ岸田文雄首相と会談。核保有国に核兵器を使用させないよう日本政府に具体的行動を求める緊急提言を手渡した。
 会談の席上、山口代表は、核兵器のもたらす惨禍とその残虐性について、唯一の戦争被爆国である日本こそ世界に訴える責務があることを語った。
 その上で具体的な提案として、日本での開催が決まっている2023年のG7サミット(先進7カ国首脳会合)を広島でおこない、同時に開催される外相会合を長崎でおこなうよう求めた。
 これに対し、岸田首相は「これから検討していきたい」と応じた。
 核廃絶への世論形成を阻むひとつの要因は、核兵器がもたらす悲惨さが知られていないことがある。
 サミットが広島・長崎で開催されれば、首脳や外相たちがそれぞれの慰霊碑に献花し、あるいは平和祈念資料館、原爆資料館に足を運んで、その悲惨さの一端を直接知ってもらうことができる。
 当然、各国のメディアもふたつの被爆地に関心を寄せることになり、日本として核兵器の非人道性を世界に強く発信する責務を果たせる機会となるだろう。

 山口氏は会談後、被爆地でサミットを開催する意義について「保有国と非保有国の信頼を高め、相互理解を深める絶好の機会だ」と記者団に強調した。(「時事ドットコム」5月18日

「核なき世界」は首相の持論

 山口代表はさらに、6月20日にオーストリアで開催される「第4回核兵器の人道的影響に関する国際会議」に、被爆者の代表を含めた日本政府代表団を派遣するよう要請。また「第5回」の同会議を、被曝77年を迎える広島と長崎の平和祈念式典に合わせて開催することを求めた。
 ロシアによるウクライナへの侵攻が続いているなかで、プーチン大統領は核兵器の使用可能性を示唆する発言をしている。ロシアの同盟国ベラルーシは今年に入って憲法改正の国民投票を実施。これまで同国憲法が禁じてきた核兵器配備が可能になる改憲案が成立の運びとなった。
 目下、第二次世界大戦後でもっとも核兵器使用のリスクが高まっている。
 広島出身の岸田首相は「核なき世界」の実現をライフワークに掲げており、本年3月26日には新任のエマニュエル駐日米国大使と共に広島市の原爆死没者慰霊碑に献花。大使と共に平和祈念資料館も見学した。

首相とエマニュエル氏は、資料館内で意見交換。首相は、ウクライナ情勢について「核兵器を含む大量破壊兵器の使用は絶対にあってはならない。そうした中、被爆の実相に触れていただいた。国際社会に強いメッセージを発することになると確信している」と強調した。「日米が国際社会をリードしていかなければいけない」と連携を呼びかけた。(「朝日新聞デジタル」3月26日

 さらに首相は5月4日にバチカンでフランシスコ・ローマ教皇と会談した際も、「核なき世界」の実現に日本とバチカンが協力することで一致している。

破綻した「核抑止」の論理

 山口代表は首相との会談で、5月20日の日米首脳会談でバイデン大統領に「核なき世界」への日本の思いを伝え、核兵器禁止条約への理解を促すよう求めた。
 岸田首相からは、

「日米首脳会談の際にしっかり頭に入れ、(政府内で)何ができるかよく議論したい」(「公明ニュース」5月19日

との返答があった。
 これまで核兵器の存在が核戦争の抑止につながるという「核抑止論」が、核開発や核保有を正当化する論理として使われてきた。
 だが、今回ロシアがウクライナへの軍事侵攻に踏み切った背景には、軍事侵攻しても核大国である米国は核戦争を避けるために参戦することはないだろうというプーチン大統領の読みがあった。
 さらにNATO諸国が武器や兵器をウクライナに供給していることに対し、核兵器の使用も辞さないという恫喝をちらつかせている。
 図らずも今回のウクライナ侵攻によって、核保有による「核抑止」の論理は安全保障にとって機能しないばかりか、かえって核大国による一方的な現状変更を許すことを露呈してしまった。
 かつてないほど核兵器使用の可能性が高まっている今こそ、国際社会は古い発想を捨てて、核兵器廃絶への潮流へ大きく舵を切らなければならない。公明党の緊急提言は、最大の危機をチャンスに転換していくべきことを示すものだ。

「核廃絶」への世論の可視化を

 ウクライナ侵攻によって日本を取り巻く安全保障環境に不安が高まるなか、自民党の一部や日本維新の会など一部野党のなかから、「専守防衛」の見直し論や「核シェアリング」への議論を求める声が出ている。
「専守防衛」と「非核三原則」は日本が国是としてきたもので、唯一の戦争被爆国である日本がこれらを否定することは、国際社会における日本の信頼を大きく損なうことになろう。
「非核三原則」は公明党が大きくかかわって生まれたもの(参考記事:「『非核三原則』と公明党」)。
 その理念を国際規範にまで高めたのが核兵器禁止条約だ。
 安全保障への不安が強まるなか、夏の参院選を前に、日本維新の会は「核シェアリング」を公約に掲げると報道されている。
 昨秋の衆院選で議席を伸ばした同党は、より過激な極右路線をアピールすることで支持の拡大を狙っているのだろう。
 もともと自公が政権を奪還した2012年の衆議院選挙の際、日本維新の会は大きく議席を伸ばし当時の民主党に迫る勢いを見せていた。この時も共同代表が石原慎太郎氏と橋下徹氏で、同党は憲法改正要件の緩和など極右路線を示すことで支持を集めた。
 だが、安倍首相は政権発足直後から維新を上回る右寄りな言動を連発することで、わずかなあいだに日本維新の会の求心力を落とすことに成功した(参考記事:「自公連立政権7年目②――安倍首相の巧妙な戦術」)。
 あるいはここにきて安倍元首相が唐突に「核シェアリング」を叫びはじめた背景には、右に寄りつつある世論の危うい空気を自民党のなかでも自分の影響下に糾合しておこうという往時のような戦略があるのかもしれない。
 一方で日本共産党などは、かつて米国など資本主義国の核兵器は「侵略的」だが社会主義国の核兵器は「防御的」という論理を展開。公明党が自民党を説得して「非核三原則」の国会決議をおこなった際も、これをボイコットした黒歴史がある。日本の国是となっている「非核三原則」を語る資格のない政党なのだ。
 北朝鮮が水爆実験に成功したと報じたのは、志位委員長が「北朝鮮にリアルな危険があるのではない」と発言(2015年11月7日)した2カ月後のことだ。
 核兵器使用の危険性がかつてないほど高まっている今こそ、日本は核兵器廃絶への国際世論を押し上げていく責務がある。
 この夏の参院選の〝争点〟のひとつは、現実問題として岸田政権を核廃絶の方向にリードできるかどうかであり、その意味でも公明党の圧勝でこうした国民の強い思いを可視化することが重要になるだろう。

関連記事:
「非核三原則」と公明党――「核共有」議論をけん制
避難民支援リードする公明党――ネットワーク政党の本領発揮
高まる公明党の存在感――ウクライナ情勢で明らかに
公明党〝強さ〟の秘密――庶民の意思が議員を育てる
菅政権この1年の成果――圧倒的に実績残した政権
公明党はなぜ完勝したか――2021都議選の結果
都議会公明党が重要なわけ――政策目標「チャレンジ8」
都議会公明党のコロナ対応――ネットワーク政党の強み
ワクチンの円滑な接種へ――公明党が果たしてきた役割

「日本共産党」関連:
日本共産党と「情報災害」――糾弾された同党の〝風評加害〟
「オール沖縄」の退潮――2つの市長選で敗北
日本共産党と「暴力革命」――政府が警戒を解かない理由
暴力革命方針に変更なし——民主党時代も調査対象
宗教を蔑視する日本共産党——GHQ草案が退けた暴論
宗教攻撃を始めた日本共産党――憲法を踏みにじる暴挙
共産党が危険視される理由――「革命政党」の素顔
「共産が保育所増設」はウソ――くり返される〝実績〟デマ
共産党が進める政権構想――〝革命〟めざす政党の危うさ
西東京市長選挙と共産党―糾弾してきた人物を担ぐ
「共産党偽装FAX」その後―浮き彫りになった体質