「オール沖縄」の退潮――2つの市長選で敗北

ライター
松田 明

2つの市長選で与党側が勝利

 本年2022年は、沖縄県の本土復帰(1972年5月)から50周年の佳節となる。
 その沖縄県で、さる1月23日に名護市と南城市で任期満了に伴う市長選挙がおこなわれた。名護市は普天間飛行場の移設先となる辺野古を抱える。
 名護市長選では現職の渡具知武豊氏(とぐち・たけとよ氏=自民・公明が推薦)に、新人で前市議の岸本洋平氏(共産、立民、社民、社大、にぬふぁぶし、れいわ推薦)が挑み、南城市では現職の瑞慶覧長敏氏(共産、立民、社民、社大、にぬふぁぶし、れいわ推薦)に、前職の古謝景春氏(こざ・けいしゅん氏=自民、公明推薦)が挑むかたちとなった。
 結果は、いずれも自民・公明が推薦する渡具知氏と古謝氏が、共産党など「オール沖縄」勢力を破って当選した。
 注目を集めた名護市長選では、投票率が68・32%。渡具知氏が19524票で岸本氏が14439票と、5000票の大差がついた。

 米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設が最大の争点となった名護市長選での敗戦に加え、南城市長選でも現職の座を政権与党の自公勢力に奪還されたことで「オール沖縄」勢力の退潮が鮮明となった。保守系や経済人が相次いで離脱してきたオール沖縄は、自民、公明の巻き返しを止められずにいる。(『琉球新報』1月24日

現役世代が重視した政策

 今回の名護市長選挙では、有権者の4割を超す20755人が期日前投票を済ませていた。
 NHKや沖縄テレビなどの出口調査によると、期日前投票をした人のうち10代から50代までは過半数が渡具知候補に投票。60代以上では岸本氏が逆転して過半数。
 これは、先の衆議院選で立憲民主党と日本共産党に投票した人の過半数が60代以上だった構図と共通する。若者や現役世代が「経済」「子育て」「教育」など生活に直結する政策を重視するのに対し、シルバー世代はイデオロギー的な政策に関心が流れる。
 NHKの調査によれば、今回の名護市長選挙で「もっとも期待する政策」は、

「基地問題への対応」29%
「教育・子育て支援」25%
「経済・雇用対策」21%
「新型コロナ対策」13%
「医療・福祉の充実」8%
「財政健全化」4%
(「名護市長選挙 出口調査の詳細」NHK NEWS WEB)

となった。
 このうち、もっとも期待する政策に「基地問題への対応」を挙げた人の約90%は岸本氏に投票。「教育・子育て支援」「経済・雇用対策」「新型コロナ対策」「医療・福祉の充実」「財政健全化」を挙げた人は6~7割が渡具知氏に投票していた。
 名護市民全体の意識として、もちろん基地問題が深刻な課題であることは当然としても、同時に教育や暮らし、コロナ対策なども切実な課題になっている。それらの全体を考えたうえで、「基地問題」だけを争点化して政府と対決姿勢を見せる市政は望まないというのが、今回の選挙で示された民意なのだろう。
 あたりまえの話として「辺野古移設」に賛成か反対かという問題と、日々の暮らしや次世代のことをどうするかという問題は同列には語れないのだ。

社会を分断する政治手法

 そうした社会の複雑さを無視し、あえてワンイシュー化して扇動する政治手法の危うさを、人々は徐々に気づきはじめている。
 そもそも2009年の総選挙の際、普天間飛行場の移設先を「最低でも県外」と公言して人々を熱狂させ、政権交代まで至らせたのが当時の民主党だった。
 だが、それは何ら実現性の裏付けがあったわけでもなく、実際に国政を担っても米国との対話すらできなかった。それどころか、わずか9カ月後には当の民主党政権が日米共同宣言で「辺野古移設」を決定した。
 4年前の名護市長選挙でも、日本共産党は社会を分断する手法で選挙戦を進めた。告示前日の「赤旗」は、

「名護市民とオール沖縄」対「日米政権と基地推進派」の構図で、両陣営が総力をかけて1票を争う、かつてない大激戦、大接戦となっています。(『しんぶん赤旗』2018年1月27日

と書き立てている。
 名護市長選の有権者はすべての名護市民なのだ。それを「オール沖縄」という政治勢力に賛同する側だけを「名護市民」と呼び、対立する陣営を支持する名護市民には「基地推進派」というレッテルを貼る。
 まさに市民社会を分断する悪質な手法であり、地方自治の精神すらないがしろにするものではないか。
 今回の名護市長選でも、岸本陣営は「米軍コロナから命とくらしを守るニューリーダー誕生へ」と大書されたポスターをSNSに投稿した。
 沖縄駐留の米軍関係者からオミクロン株の感染が県内に広がったことは事実だ。だとしても「米軍コロナ」と書く感覚は「武漢肺炎」と呼ぶことと何ら変わりはなく、差別を助長するヘイト表現である。
 激しい批判を浴びて陣営は謝罪のうえ削除したが、差し替えられたものは「米軍由来のコロナ」というポスターだった。

負の感情を求心力にする

 人々の「怒り」や「不安」といった負の感情を政治的求心力にするやり方は、それが選挙結果にどう結びつこうとも社会を毀損して人々の政治不信を深めるだけだ。そして、学生運動の記憶がある高齢世代がそうした政治手法を支持しがちなのに対し、若い世代はもはや拒否反応を示しはじめている。
 名護市長選の敗北を受けて、日本共産党の志位和夫委員長はツイッターで、

相手候補は基地問題を語らず、この結果をもって「辺野古新基地建設への容認」とは決してなりません。
オール沖縄に連帯し、沖縄建白書実現のために、引き続き全力をあげます。
1月23日の志位氏のツイート

と述べた。
 有権者が投票にあたって何を優先課題としたかは、先の調査のとおりだ。
 むしろさまざまな政治課題を抱える自治体の首長選挙で、あえて「基地問題」だけを争点化しようとしてきたのが誰なのかを、よく物語っている。
 かつての「オール沖縄」勢力からすでにさまざまな人たちが離反し、今回2つの市長選挙で敗北したのも、「オール」とは名ばかりで、彼らが先鋭化の一途をたどっているからではないのか。
 本年は来月の石垣市長選はじめ、秋には沖縄県知事選、宜野湾市長選、那覇市長選など注目の選挙が続く。そこに暮らす人々の生活を無視してイデオロギー的なワンイシューで憎悪と不安を煽り、社会を分断する政治勢力が、はたして有権者の支持を受け続けるのだろうか。

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