欺瞞と反目の野党共闘――早くも「合意形成」能力なし

ライター
松田 明

連合「共産の閣外協力あり得ない」

 立憲民主党、日本共産党、社会民主党、れいわ新選組の4党は、9月8日、衆議院選挙にむけ市民連合と「基本政策」で合意した。
 低迷を続ける旧民主党勢力の焦燥感を見ながら、2015年秋から野党連合政権樹立のための共闘を執拗に迫り続けてきたのが日本共産党だ。
 9月30日、立憲民主党の枝野幸男代表は志位和夫委員長と会談。次期衆院選で政権交代が実現した場合、日本共産党と「閣外協力」する方針で一致したことを発表した。
 共産主義革命を目指す政党と、閣外であれ共に政権樹立することを公言した政党は、日本の憲政史上で立憲民主党がはじめてだ。
 立民の最大の支持母体である連合の新会長に就任した芳野友子氏は、

「共産の閣外協力はあり得ない。(立民の)連合推薦候補にも共産が両党合意を盾に、共産の政策をねじ込もうという動きがある」(「時事ドットコム」10月7日

と強い不快感を表明した。
 日本共産党は各小選挙区で1万から1万5千票を持っている。この支援を受けて当選した立民の議員は、共産党の意に沿う政治行動をしなければ次の選挙が危うくなる。
 連合の不快感は、立民が実質的に共産党の影響下に陥ることへの強い危機感だ。芳野会長は枝野代表と11日に面会し、あらためて「連合として閣外協力はあり得ない」と申し入れをした。
 支持率低迷に焦りを募らせる立憲民主党の執行部は、政権を担おうとする政党としては絶対に渡ってはならないルビコン川を、ついに渡ってしまった。

れいわと立憲の罵り合い

 さて、その日本共産党主導で動き出した「野党共闘」だが、早くも合意形成能力の欠如を露呈させている。
 れいわ新選組の山本太郎代表は、8日夜の街頭演説で、自身が「東京8区」から出馬することを発表した。東京8区は、2012年に山本氏が国政に初挑戦し、自民党の石原伸晃候補にダブルスコアで敗北した選挙区だ。
 しかし、東京8区では立憲民主党と日本共産党がすでに候補者を擁立。両党間の話し合いで立民の候補者に一本化する方向で調整が進んでいた選挙区。
 突然、山本氏が出馬表明したことに、立民の党員らは猛反発。「野党統一候補は地域で根を張って活動してきた人物がなるべき」などとする意見書を党本部に持参したが、執行部は面会拒否。押し問答の末、都連職員が受け取ったという。

 東京8区をめぐっては、山本氏が8日夜の街頭演説で同区からの出馬を宣言。「調整しないとこんなことできない。立民側とは話を進めている」と説明した。一方、枝野氏は8日午前の記者会見で「現時点で申し入れはない」と発言しており、双方の主張が食い違っている。(『産経新聞』10月9日

 わずか1カ月前に笑顔で「政策協定」に署名した公党の党首のあいだで、早くも言っていることが180度違う。

 山本氏は「事前に話し合っていたにもかかわらず、決定していたにもかかわらず、もめ事として表面化してくる。関わる政党がしっかりと整理できていないのは、党内のコントロールができていないと見るのか、それとも『はしご外し』なのか」と主張した。(「朝日新聞デジタル」10月9日

 野党間で話し合ってきた結果だと主張する山本氏は、立憲民主党の党内ガバナンスを痛烈に非難した。
 対する立憲の陣営では山本太郎氏への抗議の街頭活動が続き、

「知名度がある俺なら勝てるという独善的な考え方をひけらかしながら、『弱者を救う』といっても誰も信用しない」と訴えた。(「朝日新聞デジタル」10月10日

 大混乱を招いた立候補の発表からわずか3日後。山本代表は、今度は横浜市内で街頭演説に立ち、「東京8区での立候補を取りやめる」と発表した。
 その際、東京8区からの立候補の打診は2019年に立憲民主党側からあったこと。今年の8月以降も、両党間で協議が重ねられ、合意していたと内情を暴露した。
 山本氏は、そうした経緯にもかかわらず、枝野代表が党内調整できなかったばかりか、突然エイリアンがやって来て困惑しているというような口ぶりの発言をしているのは心外だと、およそ40分にわたって痛烈に批判。
 最後に立憲民主党への〝脅し〟ともとれるセリフを付け加えた。

 私からできる情報公開はできた。ただひとつ情報公開してないのは、こういったやり取りの時に私たちが録っていた録音のみです。反論していただくならば反論していただいても結構ですが、その時には泥沼です。それは避けたい。墓場まで持っていきたい。(10月11日、日吉駅前での街宣で)

共産党候補者のツイート

 怨嗟に満ちた根深い対立は、これだけではない。
 石原伸晃氏の弟の石原宏高氏が自民党から立候補する東京3区。ここには、立憲民主党と日本共産党の候補者がすでに立候補を表明している。
 立民候補者は、新自由クラブ→無所属→自民党→新生党→新進党→民主党→民進党→希望の党→無所属→社会保障を立て直す国民会議→立憲民主党と、9つの会派を渡り歩いてきた政治家だ。
 前回2017年の衆院選では希望の党から出馬して石原氏に敗れ、比例復活した。
 一方、日本共産党の候補者は過去3回の衆院選に出馬したが、その立民候補者にさえ大きく水をあけられて連続落選している。
 今回この東京3区でも野党統一候補の調整が難航している。立民で一本化する動きが出ているのか、共産党候補者は苛立ちを隠しきれない。
 自身のツイッターに激しい言葉で感情をぶちまける投稿をしては削除する行為を繰り返している。

スジの通らない野党共闘などやるか!クソ食らえ!!(9月24日22:54投稿/のちに削除)

立候補を取り下げるつもりは私も党もありませんから(9月25日5:28投稿/のちに削除)

改憲団体である日本会議に所属し、それを目標にしている人が「憲法に基づく政治の実現」という共通政策の実現のために働くことができるのでしょうか?また前回は希望の党に入って共闘を破壊しようとしました。相応しい人とはどうしても思えません。それだけの話です。(9月25日12:44投稿/のちに削除)


 前回の選挙では「寛容な改革保守政党を目指す」「現実的な外交・安全保障政策を展開する」との綱領を掲げた政党から出馬した政治家が、今度は日本共産党との閣外協力を公言し平和安全法制を廃案にしようと訴える政党から出馬する。
 このメチャクチャな〝共闘〟に、野党共闘を主導する側の日本共産党予定候補者が「野党共闘などやるか!クソ食らえ!!」と罵倒しているのである。
 日本共産党が強引に主導する「野党共闘」なるものが、いかに欺瞞に満ちた見せかけの〝共闘〟にすぎないか、この2つの選挙区だけを見てもよく分かる。
 かつて政権交代だけが目的化していた民主党は、政権を獲った途端に激しい内部抗争をはじめて分裂。政治は迷走し、民主党は国民から見捨てられて崩壊した。
 同じように現政権を倒すことだけが自己目的化している今度の「野党共闘」にいたっては、選挙の前から最低限の合意形成もできずに罵り合っているのだ。
 弱者の味方のような顔をしつつ、有権者をバカにした見せかけの〝共闘〟を演じて票を狙う。張りぼての「共産党閣外連合政権」など許してはならない。

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