〝3勝〟でも追い込まれた枝野代表―生殺与奪を握った共産党

ライター
松田 明

「想定を上回る逆風」

 4月25日に投開票された3つの国政選挙は、いずれも野党系候補が当選した。
 まず、元農水相(自民党を離党)が在宅起訴された衆議院・北海道2区の補選では、自民党が候補擁立を見送り。野党統一候補(国民、社民、共産道委員会推薦)となった立憲民主党の元職が、維新の候補らを破って当選した。
 立憲民主党の参議院幹事長だった羽田雄一郎氏の急死に伴う参議院長野補選では、立憲民主党が羽田氏の実弟を擁立(共産、国民民主、社民推薦)。事実上の「弔い合戦」となり、自民党の候補(公明推薦)を破って当選した。
 公職選挙法違反で有罪が確定した河井案里氏の当選無効による参議院広島再選挙では、「政治とカネ」をめぐる有権者の憤りと不信感が根強く、諸派「結集ひろしま」新顔の元キャスター(立憲、国民、社民推薦)が自民党の新人(公明推薦)を破って当選している。
 菅政権としてはじめての国政選挙で、不戦敗も含めて自民党が全敗した。新型コロナウイルスは変異株の感染拡大が続いており、国民のあいだにはフラストレーションが強い。
 そのうえで、とくに参議院広島再選挙での自民党敗北については各紙の論調も厳しい。

想定を上回る逆風となったのは、自民党が事件の影響を甘くみたことが一因だろう。(『読売新聞』4月27日「社説」

 朝日新聞の出口調査では自民党候補は自民党支持層の25%を取りこぼしたうえ、無党派層からは20%の投票しか得られなかった。
 自民党は〝政治腐敗〟と訣別する強い覚悟を示さなければ、有権者の信頼は回復できないだろう。

「共産党隠し」徹底した立民

 一方で、今回の3選挙は勝った野党の側にもシビアな問題を突きつけている。それが共産党の存在だ。
 いずれの選挙区も共産党が独自候補の擁立を見送ったことで、いわば共産党主導の〝野党統一候補〟が実現した。
 とりわけ広島選挙区の場合、今回の与野党候補の得票差は約34000票。2019年の参院選で共産党は約70000票を獲得しており、共産党の協力がなければ選挙結果は逆転していた。
 しかし、日本共産党は「社会主義・共産主義の社会」(党綱領)をめざしており、暴力革命の可能性を否定しない体質から、公安調査庁が破壊活動防止法に基づく調査対象団体(「共産党が破防法に基づく調査対象団体であるとする当庁見解」)としている政党だ。
 立憲民主党の最大の支持母体である連合や、ケンカ別れした国民民主党などには強烈な共産党アレルギーがある。共産党の票は欲しいが、共産党が横に並ぶと今度は無党派層の票が逃げてしまう。
 北海道2区で共産党の推薦だけを「道委員会」にしたのも、共産党色を薄めたいからだった。
 長野の補選では、立憲民主党候補が共産党長野県委員会と「日米同盟見直し」などの政策協定を結んだことで、連合が反発。枝野代表が連合会長に陳謝に出向いて、新しい確認書で協定を〝上書き〟するという意味不明の収拾に追われた。
 国民民主党の党内や支持層にも反発が広がり、玉木代表がいったんは推薦を白紙にすると表明するなど、不協和音が露呈した。

そこで、参院広島選挙区の再選挙では共産には推薦願を出さず、街頭演説でも立民と共産の幹部が並んで立たないよう「共産隠し」を徹底。「政治とカネ」という敵失があったとはいえ、連合関係者は「長野のケースが良い薬となり、広島では共産カラーを薄くすることができた。保守層を含む幅広い菅政権批判票の受け皿になれた」と確かな手応えを口にする。(『西日本新聞』4月27日

 共産党は、独自候補を立てないことで「野党統一候補」を主導したにもかかわらず、「共産隠し」を徹底されるという屈辱的な扱いを受けたのだった。

めざすは「統一戦線の政府」

 共産党がそれでも嬉々として「野党統一候補」を主導したのは、それによって事実上、共産党が野党の〝盟主〟になれるからである。
 7月には東京都議会議員選挙があり、10月21日には衆議院の任期を迎える。立憲民主党の支持率はあいかわらず低いまま。とりわけ衆議院選挙では共産党が独自候補を立てるか立てないかの胸先三寸で、「野党統一候補」の成否が決まる。
 4月27日、立憲民主党の枝野幸男代表は国民民主党の玉木雄一郎代表、共産党の志位和夫委員長と、それぞれ個別に会談した。
 野党候補の一本化に向けた協議をはじめたいと語った枝野氏に対し志位氏は、政党間の共闘というのは「対等」「平等」「相互尊重」が大事だと応じた。
 3つの補再選で野党が完勝したのは共産党が協力したからこそであり、総選挙で「野党統一候補」を1人でも多く立てたいなら、共産党を「対等」に遇するべきだと強気でクギを刺したのである。
 さらに志位氏は枝野氏に、一本化を進めるなら「共通政策」「政権のあり方」「選挙協力」の3つの分野で話し合いをおこないたいと踏み込んだ。
 志位氏の会見によれば、枝野氏は「互いに尊重することが大事だ」「政策の一致する点、しない点は何なのかということの協議を開始したい」という、当たり障りのない返答にとどめたという。
 日本を現在の日本国憲法とは異なる「社会主義・共産主義の社会」に革命することを目標としている日本共産党は、そのための具体的な手順として、

現在の反動的支配を打破してゆくのに役立つかぎり、さしあたって一致できる目標の範囲内で統一戦線を形成し、統一戦線の政府をつくるために力をつくす。(共産党綱領

と定めている。
 共産党にとって、米国と同盟を組む今の体制を転覆させるのに〝役立つかぎり〟は、立憲民主党などと〝さしあたって一致できる目標の範囲内〟で野党連合政権を樹立することこそ最優先事項なのだ。
 今回、3つの選挙ともに共産党のハンドリングで「野党共闘」が成立し、野党が勝利した。実はこのことで、立憲民主党はいよいよ共産党との関係を明確にしなければならない袋小路に追い込まれたのである。
 立憲民主党が本気で政権交代をめざそうとするなら、圧倒的な数の「野党統一候補」を擁立しなければならない。だが、それは共産党を「対等」に遇し、共産党との「共通政策」「政権のあり方」「選挙協力」を明示することが大前提になった。
 枝野代表との会見後に国民民主党の玉木代表は、

「連立政権に共産党が入るのかどうか、枝野氏にはいずれかの段階で明確に示して頂くことが必要だ」と伝えたことを明らかにした。(「朝日新聞デジタル」4月27日

 枝野執行部がめざす〝政権〟とは、日本共産党の言う「統一戦線の政府」なのか、共産党の影響を排除した政権なのか、ハッキリと国民の前に示してもらいたい。

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