なぜ立憲民主は伸びないのか——社会党化した野党第一党

ライター
松田 明

〝敵失〟のなかで迎えた党大会

 さる1月31日、立憲民主党はオンラインで「2021年定期大会」を開催した(「立憲民主党」HP ニュース1月31日)
 昨年9月、同党はかつて〝ケンカ別れ〟して犬猿の仲であった国民民主党とふたたび合流。150人を超す大所帯にこぎつけることができた。
 11月以降、新型コロナウイルスの感染拡大があきらかに第3波を迎えると、当初は高かった菅内閣の支持率が急降下。
 Go To トラベルキャンペーンの全国一時停止を発表した夜に、菅首相や自民党の二階幹事長らが銀座のステーキ屋で多人数の会食をしていたことが発覚すると、12月下旬には内閣不支持の数字が支持を上回った。
 さらに、業者から多額の現金を受け取っていた元農水相が議員辞職。年が明けると、緊急事態宣言が発令されているなかで、複数の与党議員が銀座のクラブなどを訪れていたことが週刊誌に報じられた。政権与党側には、これでもかという失態と逆風続きである。
 定期大会であいさつに立った枝野代表は、

私は、今年中に必ず行われる総選挙において、政権の選択肢となり、多くの国民の皆さんとともに、自公政権を倒して、立憲民主党を中心とする新しい政権をつくる決意です。(「立憲民主党」HP 2021年定期大会 枝野代表スピーチ)

と鼻息荒く宣言した。

無党派層の支持率が下がる

 ところが、これほど政権与党に失点が続き、国民から厳しい目が注がれたにもかかわらず、2月に入っても立憲民主党など野党の支持率は伸びない。
 2月5日~7日に読売新聞社がおこなった世論調査で、主要政党の支持率は以下の通り(カッコ内は前月)。

自民党      37%(37)
立憲民主党     5%( 5)
公明党       4%( 3)
共産党       2%( 2)
日本維新の会    1%( 1)
国民民主党     1%( 1)
社民党       1%( 0)
(読売新聞社 2021年2月 電話全国世論調査)

NHKが同期間に行った調査でも、

自民党      35・1%
立憲民主党     6・8%
公明党       3・0%
共産党       3・0%
日本維新の会    2・6%
国民民主党     0・9%
社民党       0・6%
(NHK2021年2月 世論調査)

 むしろ次期衆院選比例投票先を問う選挙ドットコムとJX通信社の電話調査では、自民党や公明党が微増しているのに対し、立憲民主党は4・1%下落した。
 JX通信社の米重克洋代表取締役の解説によると、この下落は誤差の範囲というより有意な変化で、無党派層の支持が立憲民主党から離れた結果だという(「選挙ドットコムちゃんねる」2月16日の動画)

政権構想さえ示せない

 昨年9月に立憲民主党と国民民主党の大部分が合流したにもかかわらず、立憲民主党の支持率は合流以前と大差がない。
 つまり、支持しているのは以前からのコアな支持層だけなのだ。とてもではないが〝政権交代〟など口にできる状況ではない。
 野党第一党でありながら、なぜこれほど立憲民主党は国民から期待も信頼もされないのか。
 最大のネックになっているのは、政権交代を叫びながら、具体的な政権構想をいまだに示せないことだろう。
 定期大会でのあいさつで、枝野代表は前述のように〝自公政権を倒して、立憲民主党を中心とする新しい政権をつくる決意〟を語った。
 ところが、これに続く発言は以下のとおりである。

 まずは、私たちの理念と目指す社会像をもとに、今、なすべき政策を具体化した政権構想を作り上げます。(同党HP)

 政権構想をいまだに作っていないことを、枝野代表自ら認めているのだ。
 支持率が常に30%台を保ち、400人近い衆参の議員を擁する自民党ですら、この20年以上、公明党との連立で政権の安定を維持している。
 支持率が1ケタ台にとどまっている立憲民主党が、これに代わる政権の受け皿を作るとなれば、当然、他の野党勢力と恒常的な政権構想を打ち立てなければならない。
 小選挙区で与党に勝つためには共産党の協力が不可欠になるが、共産党はその条件として「野党連合政権」構想への合意を要求している。
 しかし、立憲民主党の最大の支持母体である連合には共産党への嫌悪が根強い。国家観や外交安全保障政策でもまったく異なる共産党と連立する政権など、国民の大多数からも同盟国からも受け入れられる余地がない。
 野田佳彦・元首相は、2月16日に出演したテレビ番組で、共産党との連立はあり得ないと執行部にクギを刺した。

 共産党との連立政権を掲げて次期衆院選に臨むことはできないとの考えを示した。「基本的な政策で一致していないと同じ政権は担えない。政策的にすっきりした中で勝負したい」と述べた。(『日本経済新聞』2月17日)

 各党の党勢を考えれば、立憲民主党には共産党と組む政権構想か組まない政権構想かの二択がまず迫られる。しかし、いまだに枝野執行部はそこさえ明言できないでいる。

「投票率が上がれば勝つ」という幻想

 選挙のたびに野党やその支持者側から語られるのが、〝投票率が上がれば野党が勝つ〟という話である。
 政治学者の菅原琢氏は、

 政治家にも誤った認識を持っている人がいますが、投票率は結果であって手段や要因ではありません。まして投票率が上がると野党が勝つというのは幻想です。他党支持者や棄権者が野党を支持するために投票所に向かったなら野党が勝ち、結果的に投票率も上がっている、という流れです。当たり前の話ですが、野党が勝つためには投票率が上がるよりも先に、まずは支持され、投票されることが重要なのです。(「毎日新聞政治プレミア」2020年11月6日)

と、この〝幻想〟を一刀両断している。
 有権者が投票に行かないから政権交代が起きないのではなく、野党にそのような投票行動を起こさせる説得力がないから、結果として現状追認の流れになるのである。
 政権構想でいえば、政策についてもよく分からない。枝野代表から出てくるのは「支え合いの政治」「あなたのための政治」というフワッとした情緒的な言葉ばかり。
 民主党政権で痛い思いをした国民からすれば、ふたたびリスクを冒してでも政権を交代させるには、具体的に何がどう今より良くなるのか、明確な根拠とともに示してもらう必要がある。
 政策も抽象的。政権の枠組みも未定。しかも、代表をはじめ党の主要な顔ぶれは旧民主党の執行部そのもの。これで政権交代をめざすと言っても、国民の大多数からスルーされるのは当然の話だろう。
 かつての「55年体制」では、労組に支えられた日本社会党が野党第一党として半世紀近く存続した。けっして現実的な政権政党の選択肢になることなく、ひたすら政権批判を自己目的化させることで彼らは生き永らえ、結果的に自民党の一党支配を補完し続けた。いまの立憲民主党は、この日本社会党そのものに見える。
 共産党に接近してでも野党第一党の座だけを守ろうとする枝野執行部と、共産党との接近に拒否反応を強くするグループの不協和音。さっぱり前途の開けないなかで、立憲民主党はどこに向かっていくのだろうか。

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