宗教攻撃を始めた日本共産党――憲法を踏みにじる暴挙

ライター
松田 明

「創価学会攻撃のシグナル」

 共産主義社会をめざす「革命政党」である日本共産党。
 1946年8月24日、日本国憲法の草案を国会で採決した際、政党として唯一これに〝反対〟したのが日本共産党だ。
 天皇制も含め、日本国憲法の全体をとりあえず容認したのは2004年のこと。
 しかし、現在もなお日本国憲法とは異なる「共産主義の社会」をめざすことを党綱領に掲げ、その革命が平和的になるか暴力的になるかは〝敵の出方次第〟という立場を否定しない。
 だからこそ民主党政権時代も含めて、公安調査庁は同党をオウム真理教や過激派と並ぶ「破壊活動防止法に基づく調査対象団体」としている。
 外務省の元主任分析官で作家の佐藤優氏は、

 共産党の危険な体質は、その宗教観にも表れている。(『公明』2021年8月号)

と指摘し、日本共産党中央委員会の機関誌『前衛』7月号が、公明党の支持母体である創価学会の宗教的世界観を攻撃していることを挙げた。

 日本共産党が本格的な創価学会攻撃を開始するシグナルとしての意味を持っていると筆者は見ている。この点についても警戒心を高めなくてはならない。(佐藤優氏/同)

都議選をめぐる経緯

 2017年の東京都議会議員選挙で、都議会公明党は発足したばかりの都民ファーストの会と政策合意を経て選挙協力をした。
 前年に小池百合子氏が都知事に就任した時点で、都議会内で知事への協調を示す都議は3人しかいなかった。知事としては安定した基盤をもつべく、主宰していた政治塾出身者などから17年に都民ファーストの会を立ち上げ、特別顧問に就任した。
 とはいえ実質は、ほぼ素人の集団である。すでに招致が決まっていた東京五輪の成功へ向けても、知事としては国との連携を深めたい。だが知事は都議会自民党を敵に回して当選した経緯がある。議会運営で頼れる先は都議会公明党しかなかった。
 そこで17年3月、

 今後、公明党の皆様には「都政の頭脳」としてのお力をお借りしたいと考え(当時の野田代表の共同記者会見)

都民ファーストの会は都議会公明党と政策合意をした。経緯の詳細は、当時の拙稿(WEB第三文明「小池新党と都議会公明党が選挙協力へ」)をご覧いただきたい。
 しかし4年後の今回の都議選で、都議会公明党は都民ファーストの会ではなく都議会自民党と政策協定し、選挙協力をむすんだ。
 その理由について東村邦浩幹事長は、

 目下の最重要課題である新型コロナ対策は、国政と都政の連携強化が不可欠との認識に立ち、都政でも自民党との信頼関係を再構築する必要がある(「公明ニュース」3月28日

と述べ、都ファと連携しない理由として、

①都ファとは幹事長同士でものごとを決めても履行されないことが多々ある
②都ファは会派としてまとまりがなく離党者が8人も出ている
③都ファが知事に敵対する共産党と連携している

などを挙げた。
 その憂慮と不信感を象徴するように、都民ファーストの会では候補者が選挙期間中に無免許運転を繰り返し事故まで起こし、それを隠蔽して当選。当選の翌日に〝除名〟になっている。
 都議会公明党が、もはや都民ファーストの会とは信頼が成立しないと判断したのは、きわめて妥当だっただろう。

宗教の世界観にすり替える

 問題の『前衛』論考は、この経緯にからめて創価学会の信仰そのものを嘲笑し批判した。
 論考は、まず前回選挙の経緯を、都議会公明党が「小池知事とその子飼いである都民ファーストの会との連携に走ったのである」と記述。
 今回、都ファではなく自民党と協力したことを「要するに、都議選に勝つための戦略だということのようだ」と評した。
 論評のレベルは捨て置くとして、問題はその次である。

 それまでの経過は横におき、目先の「実利」は確保する。それを可能にするのが徹底した「現世利益」主義だといえるだろう。牧口常三郎初代会長は「真・善・美」というカント哲学の価値観に対置して「美・利・善」の価値観を唱えた。その哲学的意味はさておき、兵庫と広島や大阪、東京で演じるのは俗流「美・利・善」の極みだといえそうである。(『前衛』7月号)

 公明党がどの政党とどの場面でどう協力するかは、あくまでも政党間の判断の問題だ。
 ところが、日本共産党はこれを創価学会の宗教的世界観にことよせて、〝俗流「美・利・善」の極み〟という、最大級の侮蔑で片づけた。
 政党が政党間で互いの政策批判を展開するのは、大いにやればいい。しかし、国会に議席をもち、政権奪取を公言する公党が、目障りだと判断した宗教団体の価値観の内実に問題をすり替え、勝手な解釈で罵倒してくるとなると話はちがう。
 執筆者は元「しんぶん赤旗」社会部記者で宗教ジャーナリストを名乗っている人物だ。

人々の信仰を侮蔑する政党

 この論考は、池田第3代会長が公明党を結党したことも、

 選挙それ自体が自己目的化し、選挙で組織をつくり、政治を利用して組織を守り、組織力の伸長で総体革命という〝天下取り〟戦略を展望するという路線だ。
 公明党議員の任務は第一に組織を守る、つまり学会=池田擁護であり、第二に学会員に現世利益=行政上の恩恵を功徳として届けること。選挙に勝って政治を利用することとなる。

などと論じている。
 日本共産党の宗教観、信仰をもつ人々への蔑視が、如実にあらわれているくだりだ。
 創価学会の信仰を「現世利益」と称して侮蔑する類の論評は、1950年代から見られた古色蒼然としたものだが、さすがに今のまともな宗教学者や宗教社会学者は用いない。
 むしろ近年では、『アメリカ創価学会〈SGI-USA〉の55年』(秋庭裕/新曜社・2017年)、『アメリカ創価学会における異体同心』(川端亮・稲葉圭信/新曜社・2018年)など、創価学会の世界宗教化について長期のフィールド調査を踏まえた真摯な学術研究も続いている。
 この『前衛』論考は、創価学会という宗教を〝選挙で組織をつくり、政治を利用して組織を守り〟うんぬんと論じ、創価学会の信仰における「功徳」を公明党が学会員にもたらすという〝行政上の恩恵〟と断じている。
 創価学会は192カ国・地域に広がっている。米国、ブラジル、タイ、インド、台湾をはじめ、韓国やマレーシアでは200前後の会館を有するほど発展。
 イタリアでは14年間の審査を経て、国家が「宗教協約」を締結した数少ない宗派となった。ヨーロッパ全体で、創価学会は最大勢力の仏教宗派になっている。
 当然ながら、日本以外の国では創価学会は政党をもっていない。『前衛』の雑な論理にしたがえば、政党をもたない日本以外の191カ国・地域では、学会の組織は伸長も維持もできないし、会員は「功徳」を受けられないことになろう。
 日本国内しか見えていない古ぼけた言説を、よく恥ずかしげもなく活字にできたものだ。

「内心の自由」踏みにじる政党

 蛇足ながら、この『前衛』論考は前述のように2017年の都議選をあげつらいながら、「前回(一八年)都議選」と誤記。
 あるいは「二〇〇〇年から〇二年にかけて、創価学会は税務調査の洗礼を浴び」など、まったく事実に反するデタラメを平然と載せている。
 書いた人間が原稿すら読み返していないのか、政党の機関誌でありながら校閲も校正も入っていないのか。いずれにせよお粗末のひとことに尽きる。
 日本共産党は、

 野党共闘を成功させ、次の総選挙で政権交代を実現し、新しい政権をつくるために、頑張りぬく決意です(「南関東オンライン演説会」での志位委員長発言/『しんぶん赤旗』4月11日

と、同党の夢である「統一戦線の政府」樹立をめざしている。
 人々の「内心の自由」「信教の自由」を守るため、国家や公権力が宗教の教義や世界観に介入しないというのが「政教分離」であり、民主主義の根幹だ。
 自公連立政権が発足して20年超。公明党が特定の宗教の教義や価値観に立ち入って攻撃したことなどない。
 だが、日本共産党は相手が目障りだと判断すれば、宗教の世界観まで好き勝手に解釈して侮辱し、信仰する人々を攻撃する政党だということが明確になった。
 日本共産党こそ、「政教分離」原則を平然と踏みにじる政党だ。このような政党が閣内であれ閣外であれ影響力を行使するような危険な政権を、絶対につくらせてはならない。

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