公明党が都議選で得たもの――「北多摩3区」に見る希望

ライター
松田 明

都議選が示した明暗

 今年は12年に1度、東京都議会議員選挙と参議院議員選挙が重なる「巳年選挙」の年。
 さる6月22日に投開票を迎えた都議選は、以下のような結果となった。数字は改選前議席から当選議席への推移である。

都ファ 31 ⇒31
自民  33 ⇒21
公明  23 ⇒19
共産  19 ⇒14
立民  12 ⇒17
国民   0 ⇒9
維新   1 ⇒0
参政   0 ⇒3
れいわ  0 ⇒0
保守   0 ⇒0
社民   0 ⇒0
再生   0 ⇒0
諸派   0 ⇒0
無所属 11 ⇒12

 これまで都議会に議席のなかった国民民主党と参政党が、支持率の堅調に支えられて新たに議席を獲得。立民も5議席増。
 一方、自民党は過去最低議席となる大惨敗。共産党も野党第1党から転落する敗北。公明党は候補者を22人に絞って挑んだものの36年ぶりに完勝を逃す結果。維新、れいわ、再生は候補者全員が落選。保守、社民もそれぞれ1人を擁立したが落選した。

有権者の〝怒り〟を直視すること

 端的に見れば、自民・公明・共産が議席を減らし、国民・立民・参政が議席を獲得し、そのほかの政党は不発に終わった選挙となった。
 自民党の大敗は、国政ばかりか都議会でもパーティー券不記載をめぐる「政治とカネ」問題を起こしていたことが最大の要因だろう。出口調査では自民党支持層の半数近くが他党に投票していた。
 6月に入って小泉農水相が備蓄米の市場放出に手腕を発揮して支持率も回復していたが、有権者はシビアに審判を下していたといえる。

 共産党の敗因はおそらく2つ。1つは、党内部からの改革を求める声に対し、執行部が一貫して強権的に排除にかかってきたことで、離党者が相次ぐなど党内の士気が下がり続けていること。もう1つは、これまで政権批判票として同党に入っていた票が、より過激な新興勢力に流れていったこと。

 さて、公明党の結果をどう見るか。まず、直視しなければならないのは、無党派を中心とした有権者、とりわけ若者や現役世代の「国政与党」に対する〝怒り〟と〝不信感〟であると思う。
 もちろん、公明党の側からすれば不本意に違いない。実際、教育や子育てはじめ、若者・現役世代への政策をきめ細かくカタチにしてきた。そもそも都政と国政は違う。
 しかし大事なのは、この世代層が公明党に対しても国政与党であるがゆえの憤まんを抱えている事実と、正面から向き合うことだ。

 若者・現役世代の公明党に対する感情は、その年代別支持率の低さに如実に出ている。ほんの数年前、安倍政権の末期にはまだ高かった若者の与党への支持が、わずかのうちに大きく変容しているのである。
 内心で怒っている相手を前に、その部分を曖昧にしたまま何かを訴えたところで、言葉が刺さるはずがない。相手の奥底の感情をスルーして、公明党の良さや実績を語っても、コミュニケーションのズレは深まるばかりであろう。

人気急上昇の「サブチャンネル」

 昨年10月の衆院選で、公明党は大きな敗北を喫した。自民党の不祥事の「もらい事故」だと言いたい気持ちもわからなくはないが、与党そのものへの厳しい審判と受け止めなければ、今後も打つ手を誤りかねない。
 衆院選後、党内や支持者から出たひとつの総括は、党の発信力の弱さだった。
 堅牢な支持基盤があり、日刊の機関紙を持っていることで、党としての情報発信そのものは大量になされていた。

 ところが、その自前のネットワークの強さが、いつのまにか身内だけのエコーチェンバーになっていることに気づかなかったのである。
 膨大な情報を発信しながら、すべて〝党員・支持者を介して〟外に伝えるという感覚が習い性になっていて、支持層の外にはほとんど公明党の発信が伝わっていなかった。

 一方で、世の中は大きく変化していた。長いコロナ禍もあって、SNSが若者だけでなく中高年世代にも大きく広がった。
 陰謀論めいた言説によるビュー稼ぎのビジネスも増え、新聞やテレビよりもユーチューブなどの情報を信頼する層が増えるという現象も広がった。
 いくつかの政党が支持率を伸ばしている背景には、動画やライブ配信を含むSNSで認知と支持を広げる戦略の巧みさがある。

 公明党も今年に入って「サブチャンネル」を開設した。忖度なし、台本なし、ギャラなしで、さまざまなゲストとのやりとりを発信する手法は、公明党の〝外部〟からも注目を集めている。チャンネル登録者数も12万人になろうとしている。
 ごく一部の生真面目な支持者から苦言がくるという話も聞いたが、「サブチャンネル」はそもそも公明党に興味も関心もなかった人々へ向けた情報発信が主眼なのだとご理解いただきたい。

外へ開いて勝った「北多摩3区」

 今回の都議選でも、公明党の各陣営はこれまでにないほどSNSに注力し、切り抜き動画やライブ配信など、さまざまな工夫を凝らした。
 正解のないなかで、各陣営が試行錯誤しつつ新しい試みに挑戦したことは、反省点も含めて党の次への財産になると思う。
 SNSを通して公明党の活動や実績が可視化された結果、それこそ新たに公明党の熱心な支持者になったという人も現れるようになった。

 筆者が注目したのは、22候補中でも一番厳しいと見られていた「北多摩3区」(調布・狛江/いいだ健一候補)である。
 定数3で、都ファは元都議会議長の超有力候補。立民が擁立を見送ったことで元狛江市議会議員の共産も盤石。自民党は現職で元調布市議会議長という地元の大物。さらに再生の新人もここでは自民に並ぶほどの票を集めた。公明党はまったく知名度のない若い新人候補だった。

 その候補が、先行していた自民と再生の2候補を逆転して勝った。
 むろん、党幹部や支持者の応援にも並々ならぬ熱が入ったことは事実。候補自身がコンサル会社の起業を経て党本部で広報業務に従事していた「広報の達人」ということも大きい。選挙期間中もこまめに熱量をもって自ら情報発信し、あえて笑顔を絶やさなかった。
 それでも最終盤でさえ勝機は見えず、最後の週末は若い支持者たちが街頭に立って自らマイクを握り、若者世代の代表として彼を都議会に送りたいのだと口々に語った。最終日の最後のライブ配信の視聴者は1200人を超えた。

 今回、公明党はどの選挙区でも前回比で得票数を十数%減らす苦戦を強いられたが、じつは「北多摩3区」だけは120票余り、0.5%減に踏みとどまっている。絶対得票率では、「北多摩3区」だけが前回をわずかに上回った。
 単純に他選挙区との比較で考えれば、十数%以上の〝新しい票〟を従来の支持層の外に獲得した可能性がある。
 次点の自民、次々点の再生との票差は、千数百票の僅差。21745票の公明候補が仮に10%得票数を減らしていたら次々点になっていた。

 重量級の他党候補者ばかりのなかで、どう考えても勝機が見えなかった公明党の新人の陣営が、これまでの支持層の外へ外へと声を届け、共感を広げて勝ち抜いた。このことは、次の参院選も含めて、今後の公明党の新しい希望のように思われる。
 むろん、勝負は〝時の運〟であり、公明党は過去何度も「負けるが勝ち」で、大敗するたびに新たな舞台を大きく開いてきた。惜敗した陣営は、ここからが正念場である。

『失敗の本質』が語る旧日本軍の病理

 さて、戦後80年ということで、日本軍の組織論を研究してベストセラーとなった『失敗の本質』(中公文庫)が再び読まれているという。
 旧日本軍の抱えていた病理が、戦後も長く日本社会のいたるところに生きつづけていることを露わにした不朽の名著だ。昨年末には「文庫版あとがき(2024年)」を収録した改訂版も出た。
 同書からいくつかの文章を紹介して終わりたい。

 日本軍の戦略策定は一定の原理や論理に基づくというよりは、多分に情緒や空気が支配する傾向がなきにしもあらずであった。(『失敗の本質』)

 海軍は従来の大型戦艦同士による艦隊決戦思想、そのための大艦巨砲主義から脱却すべきであったにもかかわらず、伝統的な作戦思想を抜け切れなかった。(同)

 日本軍には、悲壮感が強く余裕や遊びの精神がなかった。これらの余裕のなさが重大な局面で、積極的行動を妨げたのかもしれない。(同)

 およそイノベーション(革新)は、異質なヒト、情報、偶然を取り込むところに始まる。官僚制とは、あらゆる異端・偶然の要素を徹底的に排除した組織構造である。(同)

 組織は進化するためには、新しい情報を知識に組織化しなければならない。つまり、進化する組織は学習する組織でなければならないのである。(同)

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まつだ・あきら●ライター。都内の編集プロダクションに勤務。2015年から、「WEB第三文明」で政治関係のコラムを不定期に執筆。著書に、『日本の政治、次への課題』(第三文明社)がある。