書評『今こそ問う公明党の覚悟』――日本政治の安定こそ至上命題

ライター
本房 歩

首相に物申せる重み

 本年7月の参議院選挙は、今一つ争点が見えにくい選挙だと言われている。
 ワクチン接種の普及などでコロナ対策もなんとか奏功し、6月10日からは外国人観光客の受け入れも条件付きで再開することになった。また世界的に見ても手厚い各種給付支援策が実施されてきたことで、経済にも回復の兆しが見えはじめている。
 来年の主要先進国首脳会議(G7サミット)の広島での開催決定など外交面での成果もある。岸田政権発足時にはギクシャクして見えた自公連立の関係も、すでに緊密で安定したものになった。国際情勢がきわめて緊迫するなかで、各種世論調査でも内閣支持率が高止まりを見せているようだ。対する野党には、いまだ政権担当能力はお世辞にも見出せない。
 では、今夏の参院選は国民にとってどのような意味をもつ選挙になるのだろうか。先ごろ毎日新聞出版から刊行された『今こそ問う公明党の覚悟』は、日本を代表するジャーナリスト・田原総一朗氏が、山口那津男・公明党代表と激論を交わしたもの。
 予定調和の対談ではない。両者の見解はところどころでぶつかり合う。冒頭から公明党元衆議院議員による不祥事について田原氏が切り込むなど、歯に衣着せぬ内容になっている。
 自公連立政権になって20年以上。山口氏は自公が衆院選で大敗し民主党に政権を奪われた2009年9月に公明党代表に就任した。党の主要幹部の衆議院議員が軒並み落選したことで参議院議員である山口氏がピンチヒッターに立ったわけだが、結果的にはこれが幸いした。2012年に再び自公政権になって以来の公明党の存在感、連立与党の安定感は、国民が目にしてきたとおりだ。
「一強」といわれた安倍元首相の時代を含め、日本の首相に対して、ここぞという場面で重みのある進言ができる人物として、この10年、山口代表にまさる存在は与野党を見渡してもいなかったのではないか。

自公には「政治を前に進める力」

 この自公連立について、山口氏は本書でこう語っている。

20年続いたということは、それなりの理由があるわけです。両党ともカラーも違うし政策も違うところがあります。しかし、連立政権を組んで何かの政策を実行しようとするとき、お互いきちんと議論ができる。それも言いっぱなしではなく、しっかり合意を取りつけ、それを政策に反映していくことができる。そうやって、政治を前に進める力がある。つまり経験値があるのです。(本書。以下同じ)

 さらに、両党は選挙協力で互いの目標議席を確保することができる関係に成熟している。双方の支持層の違いを信頼関係のなかで活かせるようになっているのだ。
 山口氏は「じゃあ、維新と自民党との間でそういう関係が作れるかというと、まず難しいのではないでしょうか」と語る。
 昨年の総選挙で躍進した日本維新の会は、党の成り立ちからして自民党の亜流であり、自民党批判をすることで求心力を得てきた。しかも「核共有」を主張するなど過激な方向に舵を切ることで党勢拡大を図ろうとしている。大阪を中心とした地域政党であり、全国的な地方組織はまだまだ脆弱だ。
 公明党は選択的夫婦別姓に一貫して賛成するなど、多様性を認める社会をめざす点では、むしろ伝統的家族観を重視する自民党とは一線を画す。ただ、これも本書での山口代表の次の指摘は核心をついている。

一人っ子の家庭が増えてきて、一人っ子同士で結婚するというケースも多くなっています。どちらも自分の姓を残したいと思っているにもかかわらず、同姓を強要されたらどうなるでしょうか。(中略)譲ったほうの家名は絶えてしまいます。これは家系やファミリーを重んじる自民党の保守的な考え方に、少々そぐわないように思えます。

「核なき世界」という共通のビジョン

 本年6月、核兵器禁止条約第1回締約国会議がオーストリアのウィーンで開催される。これに日本がオブザーバーとして参加するよう公明党は主張してきた。山口代表も岸田首相に繰り返し提案してきたという。
 田原氏は、岸田首相が本年正月のテレビ番組のインタビューで、その意向を示したことに言及した。

岸田さんは(中略)公明党が締結国会議にオブザーバーとして参加しろと強く勧めるので、日本も核兵器禁止条約に参加することを前提に、さらに核を持っている国の人たちも参加するように働きかけるつもりだ、それが日本の役割だと言っていましたよ。

 この田原氏の言葉に山口代表は、岸田首相が施政方針演説で「核兵器のない世界に向けた国際賢人会議」を創設し、今年中に第1回会合を広島で開催すると宣言したことに言及。「外務省は全然聞いていなかったようで、びっくりしていましたけど」と明かしている。
 人類の悲願の一つであった核兵器禁止条約が発効した一方で、2022年は第二次世界大戦後でもっとも核戦争のリスクが高まっている。本年は広島・長崎の被爆77年であり、唯一の戦争被爆国である日本は、今こそ核保有国と非保有国の橋渡しとして対話の道筋を先導しなければならない。
 菅首相に比べて公明党との関係が脆弱だと言われてきた岸田首相だが、「核なき世界」への信念という点で、広島出身の岸田首相と公明党のスタンスは一致している。

「政権内野党」としての公明党

 自民党と公明党は成熟した関係を築き上げ、政策的に必ずしも一致しないなかでも合意形成して政治を前に進める能力を持っている。半年前までは日本共産党との政権協力を語っていた立憲民主党が、選挙に敗けるや早々に「共産党との政権はあり得ない」と衣替えしたこととは対照的だ。
 山口代表は「おわりに」で、こう綴っている。

新型コロナウイルスの感染拡大によって、息苦しさを感じながら暮らしている人も大勢いると思います。ときに前を向く力を失いそうになることがあるかもしれませんが、必ずまた希望を持てる日がやってきます。
そのために、我々政治家は尽力しています。

 今夏の参院選の〝争点〟は、一にも二にも日本の政治が安定するか否かであろう。かつて「失われた20年」と呼ばれた時期、民主党政権も含めて首相の顔が毎年のように変わった。
 国際社会での日本の信頼は衰退し、政治は常に自分の次の選挙ばかりを気にするものになって長期的な政策遂行ができなかった。
 コロナ禍を終息に向かわせ、経済の再生を図ること。国民の小さな声、とりわけ若者や女性、弱者の声を政策に反映させること。安全保障環境が厳しくなっているなかで必要な防衛力を維持しつつ、今こそ「核なき世界」へ踏み出していくこと。
 現実の政治において公明党が〝政権内野党〟として果たしている役割は想像以上に大きい。しかも、合意形成できること、政策を国民の暮らしの現場に丁寧に実装することにおいて、公明党を超える能力をもつ政党は見あたらない。
 参院選での公明党の躍進に期待したくなる一書だ。

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