菅政権この1年の成果――圧倒的に実績残した政権

ライター
松田 明

次々に実施した改革

 菅首相が自民党総裁選挙に出馬せず、9月末の総裁任期満了をもって退任することになった。
 史上最長の長期政権となった安倍前首相のもとで、菅氏も歴代最長の任期となる7年8カ月、官房長官をつとめた。安倍前首相が持病の悪化で辞任。自分が首相の座に就くことなど、おそらく菅氏自身も想像していなかったのではないか。
 長引くコロナ禍と、オリンピック・パラリンピック東京大会の開催という難局。五輪への評価も政権の浮揚にはつながらず、無派閥の首相は自民党内で打つ手を失った。
 安倍前首相がテレビ映えする華やかさをもっていたのに対し、地味でメディア対応がお世辞にもうまいとは言えなかった点も、コロナ禍での支持率低迷に影響しただろう。
 ただし、首相個人への好悪とは別に、わずか1年の在任中に、政権としてきわめて多くの実績を残したことは率直に評価されなければならない。
 まず短期間のうちにデジタル庁を創設したこと。コロナ禍で日本の行政のデジタル化の遅れが浮き彫りになったわけだが、それに対して菅首相は就任時に対応を明言。通常ではあり得ない速さで法整備を進め、就任1年を待たず9月1日にデジタル庁をスタートさせた。
 携帯電話料金の大幅値下げも、早々に実現させた。リモートワークやオンライン学習の増加、多様なニーズのひろがりのなかで、各社から格安料金プランが出てきたのは菅政権の大きな実績といえる。
 また、少子高齢化のなかで未来世代のためにも多くの成果をあげた。
 国内の温室効果ガスの排出量を2050年までにゼロにすることを発表。現役世代の将来に備え、75歳以上の後期高齢者の医療費負担を1割から2割に増加。働く人の最低賃金も過去最大幅で引き上げた。
 改正義務教育標準法を成立させ、今後5年をかけて小学校の全学年で35人学級を実現することも決まった。
 不妊治療の助成制度の所得制限撤廃や助成額の大幅な引き上げなども、本年1月から支援を拡充。2022年4月からは保険適用を開始する。
 コロナ禍で孤立・孤独の問題が深刻化している状況に対しては、英国に次いで世界で2番目となる「孤独・孤立担当大臣」のポストも創設した。

世界4位のワクチン接種回数

 最大の成果は、ワクチンを確保し、国の大規模接種センターも開設するなどして、接種率を大きく上昇させたことだろう。接種回数は半年で1億4000万回を超え、世界第4位となった(「首相官邸ホームページ」ワクチン総接種回数・内訳)。ワクチン接種が順調に進んでいることで、8月下旬からは東京などでも新規陽性者数が下降に転じはじめている。
 一方で、先進国だけがワクチンを独占することのないようCOVAXファシリティーを通じて日本国内で製造されたワクチン約1100万回分を13カ国(8月3日現在)に供与。それとは別に、日本政府として台湾やベトナムにも無償提供。
 台湾へは現時点で予定されている5回目を含め、合計約390万回分。これは各国から台湾に贈られたワクチンとしてもっとも多い。
 さらに、第5波で感染者が拡大するなか、日本における抗体カクテル療法の適用範囲を拡大。軽症者の重症化を防ぐため、外来患者もこの治療が受けられるようにした。
 9月9日の東京都のモニタリング会議では、抗体カクテル療法を受けた患者の95%に改善がみられたことが発表されている。
 これらの菅政権の実績については、総じて連立与党の公明党が的確な提言をし、それを政府が迅速に取り入れてきたことが非常に功を奏している。
 また、外交・安全保障の面でも成果がみられた。
 コロナ禍にもかかわらず、昨年11月、オーストラリアのモリソン首相は日本を訪問。帰国後は14日間の隔離が義務づけられていることを承知で、「自由で開かれたインド太平洋」戦略を強固にするため菅首相との首脳会談をおこなった。
 米国でバイデン新政権が発足したあと、世界の首脳のなかで最初にバイデン大統領と対面で会談したのも菅首相である。米中関係が緊迫するなかにあって、バイデン大統領に「自由で開かれたインド太平洋」戦略を認識させ、日米同盟の深化をはかった。
 デルタ株の世界的感染拡大といった状況下で、オリンピック・パラリンピック東京大会を招致国として無事に開催し、世界のアスリートから感謝された。同時並行でこれだけの成果を1年間であげられたことは評価されるだろう。

ひたすら逆張りに走る野党

 一方、菅内閣のままで総選挙を迎えるつもりだった立憲民主党など野党は、菅首相がまさかの退任表明をしたことで慌てている。
 立憲民主党は枝野幸男代表が7日に記者会見を開き、次期総選挙での政権公約の第1弾として、「政権発足後、初閣議で直ちに決定する事項」7項目なるものを発表。
 しかし、「補正予算の編成」「新型コロナ対策司令塔の設置」「2022年度予算編成の見直し」といったものの中味は不明。「日本学術会議人事で任命拒否された6人の任命」「森友・加計・桜問題真相解明チームの設置」など、この期に及んでコアな政権批判層を意識したスキャンダルの追及が並んだことに、むしろ落胆の声が広がった。
 立憲民主党と共産党は、昨年ワクチン接種の特例承認にも反対している。

政府は当初、ワクチンがコロナ対策のゲームチェンジャーとなることを見越し、日本でも早期に接種開始できるよう、海外の臨床試験データに基づいて迅速に承認する『特例承認制度』の活用を検討していた。しかし、立憲と共産党が強く反発。ワクチンではなく、むしろPCR検査体制の拡充をと主張した。立憲や共産党はワクチンの効果には人種差があるという理由で国内での治験にこだわり、欧米各国で行われていたワクチンの緊急使用に猛反対した。(「AERAドットコム」6月17日)

 日本共産党にいたっては、ワクチンの確保や接種に必要な第2次、第3次補正予算に反対。国が自衛隊による大規模ワクチン接種センターの設置をした際も、立憲民主党の枝野代表は、

国が直接乗り出すならば、むしろ検査の拡大に乗り出すべき。(4月28日の記者会見)

などと否定的な発言をしていた。
 ともかく、ひたすら政府の逆張りだけに走る。8月に入っても原口副代表などは家畜用の坑寄生虫薬イベルメクチンを国民に服用させるべきだと主張。感染症専門医たちから猛批判を浴びた。

(イベルメクチンの)製造販売元であるMSDも「新型コロナ患者に対する臨床上の活性または臨床上の有効性について意義のあるエビデンスは存在しない」と声明を出している。
 さらに、イベルメクチンが新型コロナウイルス感染症に有効としたメタ解析の論文についてはデータ捏造疑惑が発覚し、論文撤回に追い込まれている。(「薬事日報」8月27日)

 SNSなどで効果があるとする虚偽情報が拡散し、米国では中毒症状が激増。米国食品医薬品局が8月に「服用しないよう」国民に呼びかけたばかりだ。
 こんな立憲民主党や日本共産党が、コロナ終息のために政権交代をと叫んでいるのだから、開いた口がふさがらない。

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