高市首相は1月23日、衆議院の解散を決定し、1月27日公示-2月8日投開票となる総選挙が本格的に開始しました。
2月1日発売『第三文明』3月号掲載の松田明氏の寄稿「中道改革連合結党の真意とは」を先行配信します。
有権者の多くは中道位置
日本政治に〝中道の固まり〟を作る第一歩にするとの決断のもと、新たな政党「中道改革連合」が誕生した。
新党結成が決まった1月15日の党首会談後、記者会見に臨んだ立憲民主党の野田佳彦代表は、
公明党から中道改革勢力の結集軸にという呼び掛けがあった。われわれも中道の思いは共有するということで協力していきたい
と語った。
この「中道」とは、どういう意味なのか。メディアの中にさえ「右と左の中間」「保守とリベラルの中間」といった雑な説明をしているところがあるが、これは的外れだ。
結論から先に言えば、中道改革連合の掲げる「中道」とは、
②人間の幸せを第一にし、人間の生命・生活・生存を最大に尊重する人間主義
③分断と対立を求心力にする政治手法ではなく、一人一人の生活に焦点を当てながら、多様な価値観に耳を傾け、粘り強い対話で合意形成を図る政治理念
である。
近年、世界的な傾向として左右のポピュリズム的な政党や急進的な政党が支持を伸ばしている。ポピュリズムは、既成の権力構造を特権的「エリート」と位置づけて〝悪〟とし、人民(市民)をこれに対抗し変革を求める〝善〟と位置づけて対立の構図を扇動する。そして自分たちは人民の側に立つと主張して支持を集める「分断と対立」をエネルギーにする政治手法だ。
特に欧米では2010年代から移民や難民をめぐって右派ポピュリストが、格差是正を求めて左派ポピュリストがそれぞれ台頭してきた。日本でも2020年代に入って、左右のポピュリズム政党が支持を伸ばしているのは周知のとおりである。
その結果、これも世界的な傾向として既成政党も支持拡大のためにポピュリズムに加担し、「分断と対立」を利用する流れが生まれている。
一方で『ポピュリズムとは何か』(中公新書)で第38回石橋湛山賞を受賞した千葉大学の水島治郎教授(政治学)は、
政治は右と左から遠心力がかかっているが、有権者の多くは、本来は『中道』付近に位置している(「朝日新聞デジタル」1月16日)
と述べている。
右でも左でも声の大きい極端な主張は耳目を引きやすいので目立ちはする。しかし社会を構成している人々の多くは、たいていどの国でも、極端には振れない中道的な位置にいるのだ。
このことは、選挙ドットコムがこの数年間実施してきた「投票マッチング」で、中道主義を標榜してきた公明党がマッチング率の1位、2位など上位にあり続けたことからもうなずける。実際の投票行動は別としても、日本の特に40代以下の若い無党派層が望む政策に上位でマッチしているのが公明党だった事実は、やはり中道主義の政治を多くの人が望んでいることを物語っている。
新党結成までの舞台裏
この「中道改革連合」の誕生を、選挙目当ての急ごしらえの政局的動きと評価するのも、事実を見誤っている。
自民と維新の連立合意が発表された昨年10月20日、立憲民主党の野田代表は会見で、
中道ど真ん中でいく。穏健な保守やリベラルも視野に入れ、賛同する勢力を広げたい
と、できるだけ幅広い政党あるいは議員個人に呼びかけ、新たな中道勢力の結集を目指すことを表明した。
一方、公明党は11月29日に「全国県代表協議会」を開催。斉藤鉄夫代表は、
多党化が進む時代を迎え、世論におもるポピュリズム的な動きが広がる日本政治の中で、中道の固まりを形成し、多様化した価値観を調整して社会の分断を防ぐ意義は極めて大きい。わが国の政治の安定と発展のため、国家のためでもイデオロギーのためでもなく、『人間』のための中道政治を推進する政治勢力、すなわち『中道改革勢力』を再構築する必要があります
と発言。
併せて「中道改革の旗印となる5本の政策の柱」として、
②選択肢と可能性を広げる包摂社会の実現
③生活の豊かさに直結する1人当たりGDP(国内総生産)の倍増
④現実的な外交・防衛政策と憲法改正
⑤政治改革の断行と選挙制度改革の実現
を発表した。この公明党の「5本の柱」は、中道改革連合の綱領に反映されている。
両党の水面下での協議は、じつは自維政権の発足直後から始まっていた。
「公明党との『統一名簿』はありだ」。11月中旬、立憲の野田佳彦代表はこうした考えを周囲に示した。衆院選の比例区候補者を同じ名簿に並べる手法で、すでに視線の先には新党構想をとらえていた。(「朝日新聞デジタル」1月16日)
公明党の斉藤代表も1月16日公開の「公明党のサブチャンネル」で、
昨年、連立離脱して以来、私たちは〝中道改革の軸〟になる、このように申し上げてきました。私たちは自由民主党の方にも、国民民主党の方にも、立憲民主党の方にも、この今、右傾化する日本の中で、中道の政治勢力を大きくしなければ、日本は大変なことになってしまう。経済が立ち行かなくなってしまう。そういう思いで〝中道の固まり〟に集まってきてくださいという意味で、各党の方にお話をしておりました
と舞台裏を明かしている。
ただ、本来は解散がもっと先だろうと想定していたのが、急遽の不意打ち解散となったため、さすがに座して待つことはできなくなり、取り急ぎ公明と立憲を軸に新党を立ち上げる結果となった。
一部には、なぜ公明党がこれまで与野党で敵対していた立憲と組むのかといった声がある。だが両党の政策が近いことは以前から政治学の世界ではよく知られていた話だ。与党と野党が対峙するのは当然のことだし、なによりも「公明と立憲が組む」という見方がそもそも正しくない。
公明党が早くから「中道改革の〝軸〟」と表明し、実際に自民党や国民民主党内にも声をかけているように、新党は時間をかけてでも各政党会派の中で中道改革路線に賛同する人々を増やし、結集しようと考えているようだ。
第二の新進党にはしない
斉藤氏は1月15日の会見で、
私たちは自民党と全面対決する党を作るというつもりはありません。自民党の中にも中道改革の考え方に賛同してくださる方がたくさんおります。そういう方々と新しい日本の政治を作っていく
とし、多党化の時代にあって2大政党制を目指すかつての新進党のような政党を作るつもりはないと明言。
むしろ「自民党とも連携しながら政策を進めていくということもあり得る」とし、新党の候補者がいない地域では人物本位で自民党候補を応援する可能性すらあることにも言及した。大きな目標は単なる会派ごとの議席数争いではなく、「中道改革」の理念を共有する政治家を増やしていくことになるからだ。
公明党は衆議院議員の全員が離党して新党に参加する。立憲民主党も同じく離党して新党に参加する。2つの党が合流するのではなく、正確には中道改革連合の理念と政策に賛同する議員が、従来の所属政党を離れて新たに中道改革連合に参画するのだ。
他方で、今回の選挙結果がどうなるにせよ、今後も日本政治の多党化は避けられず、より極端な方向へ国民を扇動して支持を得ようとする動きは左右を問わず続くと予想される。そして、有権者の多数が実際には中道的な政治を求めている事実がある以上、中道改革連合が各党の良識ある政治家を包摂していく器になり得ることも疑いない。
今後のためにも、国民のボリューム層の思いに合致した中道改革勢力が、今回の選挙で一定の存在感を示せることが重要になるだろう。
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