議員の社会保険料をごまかす手口
政権与党の一部に、所属議員たちが〝かぎりなくグレーな手法〟で健康保険料逃れをしていた疑惑が浮上している。
「身を切る改革」を声高に訴え、「社会保険料を下げる改革」を掲げている日本維新の会。その維新の地方議員のなかに、「一般社団法人の理事」に就くことで社会保険料の負担を低く抑えている者が複数いることが判明した。
しかも、この手口を宣伝して勧誘している悪質な「一般社団法人」の代表理事も、維新関係者だというのだ。
この問題が大きく注目を浴びたきっかけは、12月10日の大阪府議会定例会。占部走馬府議(自民党)の一般質問だった。
占部府議は、「フリーランス 社会保険」で検索すると出てくるというネット広告を議場のモニターに提示したうえで、次のように問うた。
通常、個人事業主や企業に属さない方は国民健康保険に加入していますが、この広告にあるように、一定の所得以上の方が最低額の社会保険に加入して、その費用を抑える手口があるようです。
その手法は、一般社団法人の理事に少額報酬を支払い社会保険加入資格を得させる、実質的な制度の悪用であります。
保険料を下げたい、厚生年金に入りたいフリーランスを集め、法人が理事報酬や取り分、法人負担分の保険料を「協力金」などの名目で徴収し、その資金で最低額の社会保険に加入させるという仕組みです。
実働はアンケート回答程度で、本来の趣旨をはずれた脱法的運用と指摘をされております。(占部府議の一般質問「大阪府議会定例会」12月10日)
個人事業主やフリーランスは国民健康保険や国民年金に加入することになっており、保険料は全額が「自己負担」である。歳費や議員報酬を主たる収入とする国会議員や地方議員も、これに該当する。
ところが、個人事業主でも法人などからの収入があるなどすれば、会社員と同じように健康保険に加入することができる。占部府議が指摘したのは、この制度を悪用し、意図的に法人役員の報酬を低く設定することで健康保険料を最低水準に抑える手口だ。
社団法人は徴収した「会費」と負担した「保険料」「報酬」の差額を利ザヤとして儲けている。
本来は国民健康保険料と国民年金を支払うべき議員が、こうした〝脱法スキーム〟の一般社団法人の理事に就任して低額の報酬を受けることで、その低額報酬にもとづく健康保険料・厚生年金を支払い、自らが負担する社会保険料を〝節約〟するという悪質な手法である。
「維新の議員も多く利用しているので問題ない」
占部府議は、この仕組みを知ったきっかけが、ビジネス交流会でこの〝脱法スキーム〟への勧誘を受けた人が自身の事務所に相談に来たことだったと述べた。
この法人というのは、登記簿によれば京都市下京区善長寺町に主たる事務所を置く2021年9月17日に設立された一般社団法人である。
その人は「違法ではないか?」と勧誘者に尋ねたが、勧誘者は「維新の会の議員も多く利用しているので問題ない」と説明したという。
「維新の会」というのが信頼の根拠として悪用されている可能性があり、これ、利用されているというのが事実でなければ注意喚起が必要だと思うんですけれども、一方でその勧誘者が示す法人の登記簿を取り寄せると、代表理事が維新の会の衆議院議員の元公設秘書であり、県議選の公認候補者でもあり、理事が660名もいるこの法人のなかには、維新の会の議員と同姓同名の方も複数おられました。これでは「維新の会の議員が多数利用している」という発言に一定の信ぴょう性を持ちかねないと思います。(占部府議の一般質問)
この一般社団法人の手口は非常に巧妙である。法人に理事が660名(報道によれば12月15日時点で登記簿では700名を超えた理事が確認されている)もいるということがそもそも異常だが、なぜ社会保険料を下げるために「理事」職が好都合なのか。
じつは職員であれば月額の賃金が8万8千円以上でないと社会保険に加入できない(2025年6月の法改正でこの要件は撤廃された。改正法は3年以内に施行される)。
しかし、理事は法人役員になるので、常勤でさえあればこの要件に縛られない。かぎりなく低い報酬に設定すれば、支払う社会保険料も最低額に抑えることができる。
たとえば年間1500万円近い議員報酬を受け取っている兵庫県議会議員でも、この制度を悪用して当該法人の理事に就任すれば、国民健康保険に加入せず、最低額の社会保険料で済ませられるわけだ。
法人の〝業務〟は仲間の勧誘
12月16日の参議院総務委員会では、国民民主党の足立康史議員がこの問題を取り上げた。
足立議員はこの一般社団法人が営業に使っている31ページもの冊子を提示した。表紙には大きく「~コスト削減の提案~」と書いてある。
これはですね、社会保険料を下げるために一般社団法人の理事になりませんかという提案書ですよ。
そうすると、その提案された、営業を受けた方はですね、個人事業主の方は政治家も含めてですよ。なんか業務が発生するのかと。規約にはこう書いてあるわけですよ。
一つは知識向上のために研鑽してください、勉強してください。これ業務ですか? それから簡単なアンケートに答えてください、業務ですか? そして、この社団法人の事業拡大への協力をしてください。
いやいや、ねずみ講とは言わないけど。要は、入ってきた人は、理事になった人は、さらに理事を勧誘してくださいということですよ。ひどい話だと思います。(足立康史議員の質問「参議院総務委員会」12月16日)
この一般社団法人は、なんらかの事業を目的とするものではなく、加入する人間の社会保険料の軽減それ自体を目的としているとしか思えない。
足立議員は、この冊子の「Q&A」に、〝代表役員以外の理事は何ら責任を問われない〟等と、法律が定める内容とは異なる虚偽事項が記されていることも指摘し、さらに続けた。
この事案はですね、じつは日本維新の会の関係者が代表理事でもあり、また理事に複数の地方議員さん、国会議員も含まれているかどうか、最終確認をずっとやってるんですが、逃げ回ってらっしゃって確認が取れてません。
だから国会議員が含まれているかどうかは未確認でありますが、地方議員さんは複数入っています。組織的に日本維新の会が、組織的に国民の社会保険料を下げる改革じゃなくて、自分たち政治家が自分たちの保険料を下げるためのスキームを開発してですね。これを令和3年にこの団体が、維新の会の関係者も関わる形で作ってらっしゃいます。(同)
年間86万円以上もの保険料逃れ
翌12月17日になって、日本維新の会の代表である吉村洋文大阪府知事は、維新に所属する兵庫県下の議員が4名(兵庫県議2名、神戸市議1名、尼崎市議1名)、この法人の理事になっていることを認めた。
毎日新聞は当該の法人の理事として「同姓同名」の維新議員に取材したことを報じている。
記者がこの法人登記を基に同姓同名の維新議員を取材すると、兵庫県議2人と神戸市議1人が理事に就き、健保に切り替えたと認めた。県議2人は「保険料が安くなった」と証言。いずれも「理事になったのは人脈を広げるためで、保険料を下げることが目的ではない」と説明した。
県議の1人は「維新関係者に誘われた。毎月4万数千円の会費を法人に支払い、アンケートに答えるなどして、法人から(保険料を差し引いた)数百円の報酬を受け取っている。保険料がいくら安くなったかは分からない」と話した。
毎日新聞はこの法人に取材を申し込んだが、期限までに回答がなかった。(『毎日新聞』12月20日)
じつはこの一般社団法人の前述の営業冊子には、社会保険料を圧縮できる事例として、総所得が1000万円超の弁護士なら、年間約86万7500円のコスト削減効果があり、総所得500万円の配送業の人なら年間約71万8500円のコスト削減効果があることを紹介している。
少なくとも兵庫県下の4人の維新議員たちは、本来納付が義務づけられている社会保険料を年間86万超も〝節約〟していたことになるのではないのか。
「やり方は色々あるから気にするな」
12月20日、足立康史議員は自身のⅩに、東京維新の会の政務調査会長だった松本光博氏(元区議。2025年の都議選で落選)が、維新のグループラインに投稿した内容等を公表した。
そこでは議員が社会保険料を下げるために、合同会社を設立して役員になる手口が指南されている。また足立議員は、松本氏が関与する会社が「議員の国民健康保険料軽減の提案」を業務としていることを示す画像も公表した。
さすがにこの問題から逃げられないとなり、日本維新の会は12月20日に開催した常任役員会で、党所属のすべての国会議員・地方議員への調査を決定した。
藤田文武共同代表は終了後、記者団に「実体がない脱法スキームだと認められるのであれば問題だ」と述べた。法人登記には県議2人のほか、神戸市議1人、尼崎市議1人と同姓同名の名前があり、維新はいずれも同一人物と認めた。(『産経新聞』12月20日)
維新の党内調査で兵庫県の地方議員4人がこの法人に所属していたことが明らかになっており、その他の都道府県でも類似の事案がないかどうか幅広く調査する必要があると判断したという。(『朝日新聞』12月20日)
2023年春の統一地方選で日本維新の会から立候補して当選した長崎県下の3人の市議が、同会のパワハラ体質を理由に3人そろって離党したのは同年11月。
そのうちの1人である大村市議の中村仁飛(まさたか)氏は、自身のXで「脱法スキームで国保逃れがある話も…初めて聞いた話ではない」「『自分の会社を通すとかやり方は色々あるから気にするな』と言われました…。』と、2年前に当選した直後から維新内で同様の手口を耳にしていたことを告白している(中村市議のポスト/12月20日)。
誰の「社会保険料を下げる」改革なのか?
日本維新の会が2025年の参院選に発表したマニフェストには、冒頭に「社会保険料の改革が、すべてを変える。」と掲げられ、このように記されている。
年々膨らみ続ける医療費。
社会保険料の増大という形で
現役世代の大きな負担になっている。
維新は、ここに本気でメスを入れます。このまま抜本的な改革に着手しなければ、
日本の社会保障制度の持続可能性が危ぶまれる。課題を先送りにしない。
次世代のために、社会保険料を下げることから
すべての改革を進めていきます。
(「日本維新の会」2025年 参議院議員選挙マニフェスト(政権公約))
このように訴える日本維新の会が、一般社団法人や合同会社の役員に就くことで国民健康保険と国民年金を免れ、自分たちの支払う社会保険料を年間数十万円も〝節約〟することに真っ先に取り組んでいたとすれば、とんだ〝茶番〟である。
それこそ、「日本の社会保障制度の持続可能性」を毀損する行為であるし、そのツケは「次世代」の国民が負担することになる。
日本維新の会はすべての議員を対象に調査するそうだが、維新の議員のなかにはさまざまな団体の役員を兼務している者も少なくない。
同様の手口で国民健康保険を逃れ、社会保険料を〝節約〟している者は、はたして兵庫の4人以外にいないのか?
大阪市議81人のうち国保加入者は45名
吉村代表は12月22日の会見で、調査結果については「とりまとめしだい発表する」と述べたうえで、年内に結果を発表できるかと問われると「それはちょっと難しいんじゃないですかね。ちょっと中司幹事長に任せていますんで、まずはですね。最終的な当然僕は責任を負ってやっていきますが、今調査中です。年内はちょっとどうなるかわからないですね」と答えた。
健康保険の資格情報は、「マイナポータル」で被保険者証の記号・番号、保険者名、資格取得年月日、負担割合などが即座に確認できる。年金に関しても、年金記録・見込額を確認することができる。
それぞれの議員は、自分でマイナポータルにアクセスすれば記録を取り出せるはず。年内にまだ1週間もあるのに、なぜそんな簡単なことが維新の場合は「ちょっと難しい」のだろうか。
12月23日に、公明党大阪市議団の西徳人幹事長が会見を開いた。同幹事長が市議会事務局に確認したところ、すべての大阪市議81人のうち、国保加入者が45名、国保以外の保険加入者が36名いることがわかったという。
ちなみに、公明党市議団17名は全員が大阪市の国民健康保険に加入していることが確認できた(公明党大阪府議会・西徳人幹事長の囲み会見/4分30秒)。
大阪市議81名から公明党の17名を引くと64名。内訳は大阪維新の会が43名で、そのほかの会派が21名である。そうなると、一番少なく見積もっても(仮に他会派の21名の全員が国保以外だった場合でも)、維新では15名が国保以外の保険に加入していることになる。
日本維新の会は政権与党である。もし歳費や議員報酬を主たる収入としていながら国民健康保険・国民年金に加入していない議員がいるとしたら、どのようなかたちでいくら社会保険料を支払っているのか。
国民の社会保険料負担の多さを嘆き、「社会保険の改革」を看板に掲げる日本維新の会である。ぜひとも調査の全容を国民の前に明らかにしてもらいたい。
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