《先行配信》民主主義を機能させる生活者重視の「中道」思想

九州大学名誉教授
藪野祐三

 高市首相は1月23日、衆議院の解散を決定し、1月27日公示、2月8日投開票となる総選挙がいよいよ始まります。
 2月1日発売『第三文明』3月号掲載、九州大学名誉教授・藪野祐三氏による「民主主義を機能させる生活者重視の《中道》思想」を先行配信します。

平和憲法の理念を戦略的に使う

 日本における民主主義について考える際、第一に立ち返るべきなのは「理念」の問題です。戦後日本は、世界に冠たる平和憲法を掲げ、不戦の誓いとともに歩んできました。しかし、私たちはその理念を、世界に向けて積極的に発信する努力をしてきたでしょうか。国際秩序がこれほどまでに揺らぎ、力による現状変更が図られる時代だからこそ、平和の価値を再定義し、明確に言語化して、外交の資源へと昇華させる必要があります。
 今国際政治の場では、「目的が正当ならば、手段は問わない」といった、危うい論理が横行しています。台湾有事への懸念や、アメリカの内向きな論理が強まるなかで、日本の平和を単に「アメリカが守ってくれるもの」と受け身で捉える価値観は、もう払拭しなければなりません。日本の平和は、日本人が平和憲法を「作りたい社会像」として受け入れ、国会での承認を積み重ねてきた歴史の上に成り立っています。平和憲法の理念を国際社会で戦略的に使うことこそが、民主主義を守る第一歩です。

 その理念を支えるキーワードとして、私は「中道」という言葉に注目しています。中道とは、単に左右の真ん中に座ることではありません。対立を煽るのではなく、「共通の土台」を掘り起こしていく作業が中道であると私は捉えています。新党「中道改革連合」が、この局面で「中道」を旗印に、憲法の平和主義と現実的な外交・防衛政策を進めると綱領に掲げたことは、極めて正鵠(せいこく)を射た選択であると評価しています。

民主主義を蝕むもの

 第二に立ち返るべきは、手段としての民主主義です。どれほど崇高な理念があっても、それを実現するための手段である選挙、議会、解散権などの制度運用が歪んでしまえば、民主主義は形骸化してしまいます。
 昨今の政局、特に高市政権誕生後の動きを見ていると、解散のタイミングや政権運営が、果たして国民生活の視点から合理的と言えるのか、強い疑問を感じます。「制度上できること」と、「民主主義として妥当なこと」は同じではありません。たとえば、今回の衆院選についても本来であれば、暫定予算を成立させ、自治体の実務負担を最小化した上で、気候や時期も考慮して選挙に臨むほうが、生活者に対してはるかに誠実であったと思います。
 また、大阪府知事、大阪市長のダブル選挙も大義を欠き、国民生活の視点からは合理的ではないでしょう。

 他に、日本の民主主義を蝕んでいる大きな要因として挙げられるのは、SNS上の過激な言葉やレッテル貼りに象徴されるポピュリズムの蔓延です。高市氏が一定の高い支持を得ている背景には、既存の政治に対する不満が、彼女の「ハッキリとした物言い」への期待に変わっている面があるのでしょう。しかし、複雑な社会課題を単純化し、敵味方の構図へ回収していくような手法は、民主主義の本質であるはずの「熟議」や「対話」を破壊してしまいます。
 加えて、近年の政治改革で語られる「身を切る改革」や議員定数削減についても、冷静な吟味が必要です。これらは一見、国民の喝采を浴びやすい「見せ場」の政治ですが、国家財政全体から見れば極めて小さな話に過ぎません。
 極端なパフォーマンスに走る政治を抑え、選挙制度議論も含めて、地域の声と政策論争が両立する仕組みを真摯に構築し直すことが、民主主義という手段を磨くことになります。

人間主義の政治を

 そして第三に立ち返るべきなのは、民主主義を支える社会の実態に日本の民主主義がどう応えていくのか――すなわち、生活現場を起点にした民主主義の再生です。
 社会保険料の負担が増すなかで、議論が現役世代対高齢者という世代間対立に矮小化されることを私は危惧しています。社会保障を単なる数字の帳尻合わせではなく、一人の人生を支える「生活の制度」として再構成できるかが問われています。
 また、現代社会は個人がかつてないほど孤立しています。孤立死の増加など、孤立の影が見える現象は、その象徴と言えるでしょう。背景には「中間団体(地域、コミュニティ、NPOなど)」の空洞化があり、それがポピュリズムを増殖させる温床になっています。

 その意味では、公明党が長年培ってきた、個人と国家の間を繋ぐ中間団体としての機能を、立憲民主党が持つ市民参加のエネルギーとどう融合させるのか。新党の真価はこの「連帯」のあり方にかかっています。
 中道改革連合の綱領では、「一人ひとりの幸福を実現する、持続的な経済成長」を冒頭に据えています。これも重要な視点です。国家全体の経済成長という抽象的な数字ではなく、一人一人の生活が実際に豊かになることを図る、いわば「生活者主権」の経済政策は民主主義を実感できる社会を作ることに寄与します。
 同じく重要なのが、政策の優先順位と予算配分です。衛費の増額や積極財政を否定はしませんが、その投資先が軍需産業にばかり偏る「軍事ポピュリズム」には警戒が必要です。全国で老朽化が進む水道管の更新や、地方の交通インフラ整備、教育現場への投資など、地域の中小企業に仕事を生み出し、庶民の安全を守るインフラ整備にこそ予算を投じるべきです。それこそが、生活者の安心に直結する政策としての改革です。
 同綱領にある「現役世代も安心できる新たな社会保障モデルの構築」は、民主主義の持続可能性に直結する課題です。若者が未来に希望を持てず、投票所からも遠ざかってしまう現状は、民主主義の緩慢な死を意味します。教育への投資を惜しまず、若者が主体的に社会に参画できる環境を整えることは、数十年後の民主主義を維持するための先行投資なのです。

 民主主義は、一度手に入れれば永遠に続く「完成品」ではありません。それは、絶えざメンテナンスと、私たち一人一人の主体的な関与によって維持されるプロセスです。
 道は険しいかもしれませんが、地域の現場で汗を流し、他者を思いやる心を持った多くの生活者の声が、政治のど真ん中に届く日を私は信じています。そのための「中道」であり、そのための「改革」でなければならないと思います。その意味からも「中道改革連合」という新しい枠組みが単なる自民党の対抗馬ではなく、混迷する現代において「人間主義の政治」を再構築するための〝実験場〟になっていくことを期待しています。

《先行配信》:
新党「中道改革連合」誕生をどう見るか(作家・佐藤優)
中道改革連合結党の真意とは(ライター・松田明)
民主主義を機能させる生活者重視の「中道」思想(九州大学名誉教授・藪野祐三)

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