第73回 正修止観章㉝
[3]「2. 広く解す」㉛
(9)十乗観法を明かす⑳
⑥破法遍(1)
今回は、十乗観法の第四「破法遍」について紹介する。「破法遍」の段は巻第五下から巻第六下まであり、実に一巻半分の長いものである。それだけに、この段の科文は非常に複雑煩瑣であるので、ここでは便宜的な科文(完全には体系的でない)を設け、読者の便に供する。これでもやや複雑であるが、以下の通りである。なお、科文に付した番号は、「破法遍」のみに当てはまる番号であり、『摩訶止観』全体に適用する番号ではない。もし『摩訶止観』全体の番号とする場合は、番号の前に、「5.7.2.8.1.2.1.1.1.1.4.」を付けなければならない。( )の番号は、『大正新脩大蔵経』巻第四十六巻の頁・段・行である。
2. 広く破法遍を明かす(59b19)
2.1. 竪の破法遍(62a14)
2.1.1. 従仮入空の破法遍(62b1)
2.1.1.1. 見仮従り空に入る(62b2)
2.1.1.1.1. 見仮を明かす(62b3)
2.1.1.1.2. 空観を明かす(63b29)
2.1.1.1.2.1. 仮を破する観(63c1)
2.1.1.1.2.2. 得失を料簡す(69a29)
2.1.1.1.2.3. 見を破する位を明かす(69b)
2.1.1.2. 思仮を体して空に入る(70a6)
2.1.1.2.1. 思仮を明かす(70a6)
2.1.1.2.2. 体観を明かす(70a25)
2.1.1.2.3. 思仮を破して空に入る位を明かす(71b29)
2.1.1.3. 四門の料簡(73b25)
2.1.2. 従空入仮の破法遍(75b27)
2.1.2.1. 入仮の意(75b29)
2.1.2.2. 入仮の因縁(75c11)
2.1.2.3. 入仮の観(76a19)
2.1.2.3.1. 見思の病を知る(76a20)
2.1.2.3.2. 仮に入って薬を識る(77a19)
2.1.2.3.3. 病に応じて薬を授く(78b28)
2.1.2.4. 入仮の位(79a10)
2.1.2.4.1. 教に歴て位を判ず(79a12)
2.1.2.4.2. 入仮の利益(79c24)
2.1.2.4.3. 破法遍を結す(80a28)
2.1.3. 中道正観の破法遍(80b16)
2.1.3.1. 中観を修する意(80b26)
2.1.3.2. 中観を修する因縁(81a4)
2.1.3.3. 正しく中観を修す(81c11)
2.1.3.4. 中観を修する位(83a6)
2.2. 横の破法遍(83b17)
2.3. 横豎不二の破法遍(84b24)
2.3.1. 総じて一心を明かす(84c4)
2.3.2. 余に歴る一心三観(85b2)
(1)略して破法遍の来意を立つ
「略して破法遍の来意を立つ」の段については、
第四に破法遍を明かすとは、法性は清浄にして、合ならず散ならず、言語道断、心行処滅す。破に非ず不破に非ざるに、何が故に破すと言うや。但だ衆生は顚倒多く、不顚倒少なし。顚倒を破して、不顚倒ならしむ。故に破法遍と言うのみ。上に善巧に心を安んずれば、則ち定慧は開発す。更に破することを俟(ま)たず。若し未だ相応せずば、応に定有るの慧を用て、尽ごとく之れを浄むべし。故に破と言うのみ。(第三文明選書『摩訶止観』(Ⅱ)、634頁)
と述べられている。「合ならず散ならず」は、『輔行』によれば、「合」は一念、「散」は三千をそれぞれ意味する(※1)。法性は一念とも三千とも限定されない清浄なものであり、破や不破のどちらも超越しているが、衆生には顚倒(倒錯した考え)が多いので、これを破る必要があり、そこで、破法遍を立てると述べられている。十乗観法の第三の「善巧安心」がうまくいけば、智慧と禅定が開発されるが、うまくいかない場合は、禅定を備える智慧によって、顚倒を残りなく浄化するべきであると指摘している。
ここの説明にあるように、「破法遍」の「法」は、「顚倒」を指しているが、「法」の辞書的意味の一つである存在するもの、事物という意味を踏まえたものであろう。「顚倒」は、後の説明では、具体的には「見仮」、「思仮」などの煩悩の存在を意味する。
(2)広く破法遍を明かす
「広く破法遍を明かす」は、竪(たて)の破法遍、横の破法遍、横竪(おうじゅ)不二の破法遍の三段に分かれる。破法は、門に依る必要があり、この門には、教門、観門(行門)、智門、理門があるが、ここでは教門が選ばれる。この教門には、蔵教の四門、通教の四門、別教の四門、円教の四門があるが、法を遍く破ることができるのは、円教の四門だけであるとされる。四門とは、有門・無門(空門)・亦有亦無門・非有非無門であるが、ここでは、「空無生門」、「無生門」に依ると示している。「空無生門」、「無生門」は、四門のなかの無門(空門)と同義と考えてよい。
この無生門については、これを特に詳しく説明する『涅槃経』を引用して議論している。とくに四不可説(生生不可説・生不生不可説・不生生不可説・不生不生不可説)を詳しく説明しているが、ここではその説明を省略する。
(3)竪の破法遍
「広く破法遍を明かす」の冒頭の詳細な「無生門」に関する説明の後、竪の破法遍について、
次に破法遍を明かすとは、三と為す。一に無生門、始め従り終わりに至るまで、其の源底を尽くし、竪に法を破ること遍し。二に諸の法門に歴て、当門の始め従り終わりに至るまで、其の源底を尽くし、横に法を破ること遍し。三に横竪不二にして、始め従り終わりに至るまで、其の源底を尽くし、横に非ず竪に非ずして法を破ること遍し。(『摩訶止観』(Ⅱ)、658頁)
と述べている。つまり、全体を竪の破法遍、横の破法遍、横竪不二の破法遍の三段落に分けている。第一は無生門について、竪の破法遍を説く段であり、三段落のなかでもっとも詳細である。
この第一段の構成については、「一に無生門の破法遍とは、又た三と為す。一に従仮入空の破法遍、二に従空入仮の破法遍、三に両観を方便と為して中道第一義諦に入ることを得る破法遍なり」(同前)とあるように、従仮入空(空観)の破法遍、従空入仮(仮観)の破法遍、中道第一義諦に入る(中観)破法遍の三段落に分かれる。
(注釈)
※1 『輔行』巻第五之四、「故に『法性清浄不合不散等』と云うは、即ち是れ境の中の一念三千は四性の計を離る。是の故に略して『不合不散』と云う。『合』は一念を謂い、『散』は三千を謂う」(大正46、307下14~16)を参照。指摘している。
(連載)『摩訶止観』入門:
シリーズ一覧 第1回 第2回 第3回 第4回 第5回 第6回 第7回 第8回 第9回 第10回 第11回 第12回 第13回 第14回 第15回 第16回 第17回 第18回 第19回 第20回 第21回 第22回 第23回 第24回 第25回 第26回 第27回 第28回 第29回 第30回 第31回 第32回 第33回 第34回 第35回 第36回 第37回 第38回 第39回 第40回 第41回 第42回 第43回 第44回 第45回 第46回 第47回 第48回 第49回 第50回 第51回 第52回 第53回 第54回 第55回 第56回 第57回 第58回 第59回 第60回 第61回 第62回 第63回 第64回 第65回 第66回 第67回 第68回 第69回 第70回 第71回 第72回 第73回 第74回(2月5日掲載予定)
菅野博史氏による「天台三大部」個人訳、発売中!