公明党は〝媚中〟なのか――「勇ましさ」より「したたかさ」を

ライター
松田 明

海外の専門家は評価、国内世論は不満

 興味深い記事を読んだ。現代中国政治・外交が専門の高原明生氏(東京女子大学特別客員教授)が、最近の月刊誌『第三文明』で次のように述べていたのである。

 競争と協力を両立させて中国と付き合う日本に対して、EU圏の専門家などからは評価する声も聞こえてきます。日本がそうした範を示すことが、結局はアメリカや中国、ひいては国際社会に安定をもたらすのではないでしょうか。
 あえて表現するならば、米中という大国に挟まれた日本は、〝双方からうまみを得られるような〟強(したた)かな外交を展開してほしいです。(『第三文明』2025年6月号)

 近年の習近平政権は、対外的に強硬な姿勢をますます強めているように映る。
 日本にとっても、尖閣諸島沖への相次ぐ中国軍機や公船の領海・領空侵入が、安全保障上の不安を高めている。
  また、2023年には北京で働く日本の製薬会社の社員がスパイ罪の容疑で逮捕。今も当局に拘束されており、中国で暮らす日本人の安全が不安視されるなどの状況がある。
 他にも、国際社会からは国内の人権問題や周辺地域での軍事活動に懸念が表明されている。

 日本とまったく異なる国家体制や価値観を持った人口14億人の大国が、今や経済でも軍事でも米国に次ぐほどの国力を持っているのだから、不安が高まるのは当然だ。
 しかも、一方で中国は日本にとって最大の貿易相手国であり、日本企業による対中投資もきわめて多く、日中間の貿易・投資などの経済関係は、非常に緊密である。
 現実として日中の経済的な結びつきが大きいだけに、中国の動向や対日措置は、そのまま日本企業の死活問題にもつながりかねない。

 企業の営業でも国の外交でも、〝もっとも一筋縄ではいかない相手〟と、いつでも直接会えて腹を割った話ができる人間がいるところは強い。
 日本の場合、1972年の日中国交正常化にあたって、まだ小さな野党に過ぎなかった公明党が周恩来の信頼を得たことで、日本政府との交渉が進んだ経緯がある。
 この日中国交正常化への貢献を皮切りに、公明党はこれまで与党・野党時代を問わず、中国政府とのトップ外交を積極的におこなうなど、一貫して日中関係の構築と発展に尽力してきた。

 本来、日本の最大の貿易相手国である中国と、安定した協力関係を結ぶことは、日本の国益に大きく資する話である。
 ところが中国の国力が増し、強硬な対外姿勢が高まるにつれて、最近はネット上などで「公明党は〝媚中〟」といった非難がしばしば見られるようになった。

 公明党は中国政府と近い距離にあるにも関わらず、中国政府の目に余る言動は見て見ぬふりをして、ただ声高に〝日中友好〟と訴えているだけではないか――。
 公明党の従来の支持者の一部からさえ、こうした公明党への〝疑念〟と〝不満〟が漏れ聞こえてくることがある。

「われわれは超リアリズムの外交です」

 では、公明党は本当に〝媚中〟なのか。
『週刊文春』の元編集長である花田紀凱氏が創刊した、バリバリの保守系雑誌である『月刊Hanada』が、このほど公明党の伊佐進一前衆議院議員へのインタビュー記事を掲載した。

「公明党への批判、すべてお答えします」とのタイトルで、インタビューは編集長の花田氏によっておこなわれた。花田氏といえば、とりわけ『週刊文春』時代には、数多くの創価学会・公明党への批判中傷記事を書いてきた人物である。

 インタビューのなかで、伊佐氏は、過去の訪中時での山口那津男・元代表と中国側とのやりとりの一端について明かしている。

 外務省から非公開の議事録を取り寄せて、一言一句、全部読んでみた。そしたら、王毅外相とバチバチのやり取りをやってるんです。
「なんで日本の水産物を輸入しないのか」
「日本人学校の子供たちが危険に晒されている。中国国内で外国人の安全を守るのはあなたがたの仕事でしょう」
 議事録を公開できないのが残念なくらい、山口元代表はかなり厳しく中国にものを言っている。(『月刊Hanada』8月号)

 直近でいうと、今年の一月、日中与党交流協議会与党代表団の一人として、私も訪中させてもらいました。中国側との会談で、公明党の西田幹事長がいちばん強く言っていたのは、「日本人の安全を責任をもって守ってくれ」ということでした。(同)

 花田氏から、公明党はしょっちゅう訪中しているが、なぜ公明党は「親中」なのかと問われた伊佐氏は、こう明言した。

 われわれが訪中するのは、別に「親中」だからではなく、「超リアリズムの外交」をやっているからだと思っています。いま日本の外交安全保障を考えたときに、中国としっかり対話できる環境をつくっておくことは非常に重要です。(同)

 今年4月、斉藤鉄夫代表を団長とする公明党訪中団が、中国共産党序列4位の王滬寧全国政治協商会議主席と人民大会堂で会談した。
 その際、やはり斉藤代表からも、中国による日本周辺での軍事活動の活発化や邦人拘束事案、日本産水産物の輸入規制などの懸念が伝えられた。

 外交であるから、報道写真には基本はニコニコした笑顔の握手が出る。しかし公明党は、党独自の対話のチャンネルや、日中与党交流といった機会を活かして、中国政府の要人らに日本側の懸念を伝え続けてきているのだ。

日本の経済界から歓迎の声

 では、実際に公明党の申し入れはどの程度実現してきたのか。
 まず山口元代表らが粘り強く要望してきた日本産の水産物の輸入再開については、さる6月29日夜に中国政府から声明が発表され、福島県や東京都などの10都県を除いて、再開されることとなった。

 また、2023年11月の山口元代表の訪中時には、コロナ禍をきっかけに停止されていた、訪中日本人の短期ビザ免除措置の再開も要求。
 これも1年後の2024年11月に再開された。それまでビザ取得の手続きが煩雑だったために、中国への出張をためらう企業もあったことから、本件はとりわけ経済界から歓迎の声があがった。

 中国に進出する日系企業でつくる「中国日本商会」は「心から歓迎する」とするコメントを発表しました。
 そのうえで「今回の決定が日中両国の経済交流強化に不可欠である人的往来の活発化につながることを強く期待している」としています。(「NHK NEWSWEB」2024年11月22日

 公明党のサブチャンネルで伊佐前議員が明かしたところによると、スパイ法の運用についても、どのような行動が違法なのかを明確に示すガイドラインを作ってほしいと公明党が要望。
 これに対して、序列4位の王滬寧氏から、「しっかり受け止めます」との返答を引き出したという。
 なお、「スパイ罪」で起訴されていたアステラス製薬の日本人社員について、7月16日に判決が言い渡されるというニュースが、7月11日の未明に駆け巡った。

 外交には、その時々の国際情勢だけでなく、それぞれの国の内政も大きく関わってくる。特に中国政府においては、国内向けのアピールとして、対外的に強硬なメッセージを発するということも往々にしてある。
 さまざまな要素を的確に読み解き、複数の可能性を常に考慮しながら、日本は自国の国益の最大化を図らねばならない。

 こうしたテクニカルな作業は、一見すると地味で、人々の注目を引くことはほとんどないかもしれない。それよりも、多くの人が注目する場で、激しい言葉で相手の痛いところを非難する方が、強力なリーダーシップを発揮していると映るかもしれない。

 もちろん相手が誰であれ、党や政府として言うべきことは正々堂々と主張してしかるべきだろう。
 と同時に、だからといって相手との信頼や協力関係をむやみに損なうような言動をとる必要もまったくない。要は国益を手にし、地域と国際社会の安定を築いたものが勝者であり、そこには短期だけでなく、中長期のしたたかな戦略が求められる。

〝中国が最も恐れる男〟の回顧録

 たとえば米中は表面上では激しくやり合っているように見えるが、2024年の輸出入の貿易額を見ると、2022年のピークから減少したものの、両国は依然として世界有数の貿易相手国である。
 米中関係が今後、好転する可能性も大いにあるなかだからこそ、日本としても、より一層リアリズムに立ったバランス外交を展開していく必要がある。

 公明党の強みは、メンツの文化が根深い中国を相手に、独自のパイプを生かしながら、硬軟を織り交ぜた外交を行っている点だ。
 政治には常にある種の演劇性が伴う。報道を通して見える〝演出〟の施された部分だけがすべてではない。それと同じか、あるいはそれ以上に、水面下での接触もまたおこなわれているのだ。

 政治の演劇性といえば、「戦狼外交官」とも目されている中国の王毅外相について、日本の前・駐中国大使を務めた垂秀夫(たるみ・ひでお)氏の興味深い証言がある。
 独自のネットワークで驚異的な情報収集力を有することから、〝中国が最も恐れる男〟とも言われる垂秀夫・前大使。
 先日出版された、自身の外交官生活を振り返った回顧録のなかで、垂氏は王毅外相から受けた印象をこう振り返っている。

 レセプション終了後、王毅と単独で密談するチャンスが巡ってきたのだ。王毅はカジュアルな服装で登場し、時間を節約するため通訳を付けずに中国語を使って、一対一で約三十分間会談した。王毅と話し込んでいるうちに、私はこんな感慨が湧いてきた。
「ああ、この人はやはり『役者』だな。中国に異を唱える外国に対しては悪役を演じられるが、日中友好をかもしだす言動をいつでも演じられる」
(中略)
「役者・王毅」と私の密談の中身は実務的かつ非常に実り多いものだった。彼は日本を批判もしないし、言い訳もしない。私の大使在任三年間で、日中関係の改善に向け意味のある意見交換ができたのはこの王毅との密談一回だけと言っていい。(『日中外交秘録 垂秀夫駐中国大使の闘い』垂秀夫著/文藝春秋)

 多様なチャンネルを通じてトップ外交がおこなわれるというのは、単に相手の首脳部に直接こちらの要望を伝えられるだけでなく、相手の〝本音〟に触れられる機会もそれだけ多くなることも意味する。

 安全保障の面では多くの課題を抱えながらも、経済的には切っても切れないパートナーである日本と中国。
 両国が安定した協力関係を築くことは、双方の国益に資するだけでなく、地域の平和と安定にもつながっていく。逆に、勇み足で不用意に相手を刺激し、対話のチャンネルを閉ざされてしまうことの方が、どれほど国益の損失につながるか。

 公明党は決して〝媚中〟などではなく、そうした大局観に立って、対話を基軸にした、リアリズムの対中外交を展開している。
 その平和外交の精神は、中道主義を掲げる公明党の根本的な政治哲学を反映したものに他ならない。
 今回の参院選では外交は大きな争点にはなっていないが、多極化する国際社会にあって、外交の現場を知る公明党の果たす役割は非常に大きい。どのような価値観を持つ政治家や政党に、日本の外交を任せればいいのか。今一度、冷静に考えてみてほしい。

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まつだ・あきら●ライター。都内の編集プロダクションに勤務。2015年から、「WEB第三文明」で政治関係のコラムを不定期に執筆。著書に、『日本の政治、次への課題』(第三文明社)がある。