まやかしの〝消費減税〟――無責任きわまる野党の公約

ライター
松田 明

足並みが乱れる野党

 参院選の火ぶたが切られ、連日、各党各候補の舌戦が続いている。
 今回、目立つのは野党の足並みの乱れと、攻め手を欠くゆえの無責任な〝甘い言葉〟だ。
 6月9日、日本経済新聞は次のように厳しく指摘した。

7月の参院選を前に国会と選挙の両面で野党内の足並みの乱れが目立つ。衆院本会議での内閣不信任決議案の採決でも対応は割れた。立憲民主党が提出した決議案を日本維新の会と国民民主党は与党とともに反対に回って否決した。7月10日を見込む投開票日まで残り1カ月となってもなお候補者調整は進んでいない。(「日本経済新聞電子版」6月9日

 通常国会の終盤で、立憲民主党は岸田内閣への不信任決議案を提出した。だが、同じ野党内からも国会の時間を無駄に使うパフォーマンスだと批判を浴び、同調した主要政党は日本共産党だけだった。

自民党の茂木敏充幹事長は9日、党本部で記者団に「立民、共産は党利党略を優先する政党だと明らかになった」と強調した。公明党の石井啓一幹事長は野党の一部が不信任案に反対したことに「不信任案に理由がない、説得力がないことの証左だ」と唱えた。(同)

 選挙区の候補者調整も野党間でほとんど進まず。党綱領に掲げる「統一戦線」として「野党共闘」を進めようとする日本共産党の術中にはまり、昨年の参院選で政権協力まで口にした立憲民主党は、共産党もろとも大敗した。
 逆に党勢を伸ばした日本維新の会や国民民主党からすれば、あいかわらず日本共産党に擦り寄り、パフォーマンスを繰り返すだけの立憲民主党とは一線を画する方が、もはや得策ということなのだろう。

これまでの主張を転換した立民

 立憲民主党の前身である旧民主党は、2014年に平和安全法制の議論が始まると、日本共産党と一緒になって「戦争法案」と呼んで猛批判した。
「徴兵制が始まる」「自衛隊が戦場に送られる」などと国民の不安を煽りたてたが、あれから8年経って、彼らがいかにデタラメな批判で国民を幻惑していたのかは一目瞭然だ。
 平和安全法制の整備によって、日本は憲法9条の「専守防衛」の範囲内で日米同盟の信頼感と抑止力を格段に高めることができた。北朝鮮の相次ぐミサイル発射やロシアのウクライナ侵攻を目の当たりにして、国民の87%は日米安保条約が日本の安全に役立っていると評価(読売新聞)している。
 2015年9月に平和安全法制が成立すると、日本共産党はこの廃止を共通目標に掲げる「野党共闘」を民主党などに持ちかけた。以来、昨年の総選挙まで日本共産党の主張する〝平和安全法制の廃止〟は「野党共闘」を束ねる接着剤だったのだ。
 だが、総選挙に敗北した立憲民主党は、あっさり方針転換した。

 立憲民主党は3日、参院選の公約を発表した。公約の柱で「着実な安全保障」を掲げ、ウクライナ情勢で関心が高まる防衛力の整備を強調。これまで主張してきた安全保障法制の「違憲部分の廃止」は公約の末尾に触れるにとどまった。(「朝日新聞デジタル」6月3日

無責任な「消費税率引き下げ」

 さて、その野党だが、参院選の選挙公約で立憲民主党、日本共産党、日本維新の会、国民民主党などは消費税率5%への引き下げなどを掲げ、れいわ新選組にいたっては廃止を訴えている。
 だが、そもそも消費税を5%から10%に引き上げた増収分は、基礎年金の国庫負担や受給資格期間の短縮(25年⇒10年)、幼児教育・保育の無償化、大学など高等教育の無償化といった社会保障に活用されている。
 消費税率を5%引き下げることで生じる十数兆円の税収減を、どの財源で補うのか各党は明確に示せていない。

 消費税減税を掲げた政党も複数あるが、一度下げた税率を戻すことができるのか。その間、消費税収を充てている年金の国庫負担分などはどうするのか。(菊池馨実・早稲田大法学学術院教授/「読売新聞オンライン」6月16日

 物価高対策として消費減税などを掲げているが、代替財源が不明瞭だ。(白鳥浩・法政大学教授/「読売新聞オンライン」6月23日

野党も減税や賃金アップを訴えるが、実現までの道筋を示せていない。(経済ジャーナリストの荻原博子さん/同)

 しかも、仮に消費税率を引き下げるとすれば法改正が必要となり、一定の期間が必要になる。その間、国民には当然、住宅や自動車など高額商品を中心に〝買え控え〟が起き、消費が冷え込んでしまう。
 公明党の山口那津男代表は、日本記者クラブ主催の討論会(6月21日)で、

立憲民主党の泉健太代表に対し「消費税(の増収分)は年金の国庫負担や保育の受け皿などに使われ、(減税すれば)こうした社会保障の充実に使えなくなる。今それを放棄し、税率を上げ下げするのはいかにも無責任だ」と批判した。(『産経新聞』6月21日

立憲民主党内からも批判の声

 有権者の歓心を買おうと選挙めあてに無責任な「消費税減税」を主張していることには、立憲民主党の内部からも公然と批判の声が上がっている。
 同党の山内康一前衆院議員は「消費税の時限的減税は悪手です。」と題する自身のブログを更新。

立憲民主党が今年の参院選公約に「消費税を時限的に5%へ」を掲げています。これは問題だと思います。経済政策としても、選挙対策としても、悪手だと思います。(同氏のブログ/6月6日

 こう批判して、「立憲民主党の応援団と言ってもよい山口二郎教授」(山内氏のブログ)が2年前に『週刊東洋経済』に寄稿した一文を紹介している。

時限付きの消費税率引き下げは悪手である。一度下げた税率を再び上げる力を持つ政権は、当分日本には現れない。日本銀行引き受けで国債を出し続けるという実験に国民を巻き込むことは絶対に許されない。減税は福祉サービスや地方財源の削減にシワ寄せされる。(同)

 ちなみに、実際の山口教授の記事は、さらに次の文章が続いている。

玉木氏にしても、山本太郎氏にしても、消費税率引き下げを突きつけるのは、野党協力の主導権を取るためのセクト的発想である。(『週刊東洋経済』2020年8月1日号)

 立憲民主党の塩村あやか参議院議員も山内氏のブログを貼って「私も同じ考えです」とツイートしている(塩村あやか氏のツイート)。
 物価高騰対策として、既に公明党の強い主張を自民党が受け入れ、2兆7000億円規模の政府補正予算が5月31日に成立している。
 世界各国でガソリン価格が跳ね上がっているなか、日本は170円台に留まっているが、補正予算による補助金がなければ1リットル当たり40円以上高くなっていた。
 野党内からも公然と批判が上がる、無責任な〝まやかしの消費減税〟。野党内での主導権争いという党利党略の主張は、あまりにも国民を愚弄するものだ。

公明党関連記事:
物価高から暮らしを守る――公明党の参院選マニフェスト
若者の声で政治を動かす――公明党のボイス・アクション
雇用調整助成金の延長が決定――暮らしを守る公明党の奮闘
G7サミット広島開催へ――公明党の緊急提言が実現

関連記事:
醜聞と不祥事が続く立憲民主党――共産との政権協力は白紙
立憲民主党はどこへゆく――左右に引き裂かれる党内
負の遺産に翻弄される立憲民主党――新執行部を悩ます内憂
立民、共産との政権構想を否定――世論は選挙協力にも反対
ワクチン接種の足を引っ張る野党――立憲と共産の迷走

「日本共産党」関連:
日本共産党と「情報災害」――糾弾された同党の〝風評加害〟
「オール沖縄」の退潮――2つの市長選で敗北
日本共産党と「暴力革命」――政府が警戒を解かない理由
暴力革命方針に変更なし——民主党時代も調査対象
宗教を蔑視する日本共産党——GHQ草案が退けた暴論
宗教攻撃を始めた日本共産党――憲法を踏みにじる暴挙
共産党が危険視される理由――「革命政党」の素顔
「共産が保育所増設」はウソ――くり返される〝実績〟デマ
共産党が進める政権構想――〝革命〟めざす政党の危うさ
西東京市長選挙と共産党―糾弾してきた人物を担ぐ
「共産党偽装FAX」その後―浮き彫りになった体質