負の遺産に翻弄される立憲民主党――新執行部を悩ます内憂

ライター
松田 明

すでに影響力持つ共産党

 泉健太代表率いる〝新生〟立憲民主党だが、あいかわらず有権者からの支持や期待が伸びない。それどころか旧執行部時代の「負の遺産」ともいうべきものに今なお翻弄され気味だ。
 昨年(2021年)10月31日におこなわれた衆議院選挙で、立憲民主党は日本共産党との「限定的な閣外協力」まで党首間で合意して共闘したが、大きく議席を減らし執行部が退陣する結果となった。
 日本維新の会や国民民主党が議席を伸ばしたなかで立憲民主党と日本共産党だけが議席を減らした。連合の芳野会長は、「連合の組合員の票が行き場を失った。到底受け入れられない」と厳しく批判している。
 11月9日に両院議員総会を開いた立憲民主党は、敗因の分析を約束した。

選挙前の議席を確保できなかったことについて、福山幹事長が共産党との連携がどのように影響したのかなどを科学的に分析し、新しい執行部に引き継いでいく方針を説明しました。(「NHK政治マガジン」11月9日

 およそ3カ月を経た1月25日、立憲民主党は常任幹事会で衆院選の「総括」をおこなった。

執行部が示した原案は共産党との協力に言及し「選挙戦における全体的な戦略の見直しを図っていく必要がある」と明記した。(『日本経済新聞』1月26日

 ところが、常任幹事会ではこの執行部が示した原案の公表について参加者の一部から異論が出され、25日に予定されていた「総括」の党としての了承が見送られた。

逢坂誠二代表代行は常任幹事会後の記者会見で、野党連携の成果などで原案に注文がついたと明らかにした。党内では共産党との関係を見直したい勢力と、協力を維持したいグループで意見に隔たりがある。参院選に向けて共産党との関係をどうするかが争点だ。(同)

 立憲民主党内にはすでに日本共産党の支援で当選した議員、あるいは今夏の参院選で日本共産党の支援に強く期待している議員がいる。
 支持団体である連合の猛反対はもとより、朝日新聞などを含めた各種世論調査でも、参院選で日本共産党と協力すべきでないとする意見が大きい。それにもかかわらず、調査した結果の「総括」まで了承が見送りになった。選挙で敗北したものの、早くも日本共産党は立憲民主党に強い影響力をおよぼしている。
 旧執行部が日本共産党との蜜月路線を選択した結果、党勢は凋落。代表が交代しても支持率が伸びない。おまけに日本共産党との距離をめぐってガバナンスが利かないほど党内が紛糾しているのだ。

「ヒットラー」と投稿した最高顧問

 1月21日、かつて民主党政権の首相をつとめ、現在も立憲民主党の「最高顧問」の地位にある菅直人議員が、自身のツイッターで日本維新の会を「ヒットラー」と揶揄した。

橋下氏をはじめ弁舌は極めて歯切れが良く、直接話を聞くと非常に魅力的。しかし「維新」という政党が新自由主義的政党なのか、それとも福祉国家的政党なのか、基本的政治スタンスは曖昧。主張は別として弁舌の巧みさでは第一次大戦後の混乱するドイツで政権を取った当時のヒットラーを思い起こす。(菅直人議員の1月21日のツイート

 これに対し日本維新の会側は当然のことながら猛反発。藤田文武幹事長が26日午前に立憲民主党本部を訪れ、撤回と謝罪を求める抗議文を手渡した。
 だが、立憲民主党の逢坂代表代行は、

基本的には菅議員の個人的な発言。党としてどうこうということは特段の必要はないかな、というふうに思っている(「J-CASTニュース」1月25日

 として、党として特段の対応は必要ないとの考えを示した。その上で次のようにも話した。

ただまぁ、私個人的には、ヒトラーを例に挙げてですね、様々なことを言うっていうのは、私個人は、あまり好まないやり方かなというふうには思っております。そんな感想でございます(同)

と述べるにとどまった。
 立憲民主党の党内からは、

「ヒトラーに喩えて批判するのは国際的にはNG」などと聞いたこともない珍妙な理屈を展開する御仁がおられるようです。(石垣のり子議員の1月26日のツイート

などと維新を批判し菅氏を擁護する発言が相次ぎ、さすがに学識者や法曹家から批判を浴びている。

「弁舌の巧みさでは第一次大戦後の混乱するドイツで政権を取った当時のヒットラーを思い起こす」という表現は「弁舌の巧みさ」という共通点を使って相手がまるでヒトラーと同じ悪行を行っているように印象操作するもの。かかるレトリックは典型的なReductio ad Hitlerumで国際的にも否定されています。(野村修也・中央大学大学院教授の1月26日のツイート

報道機関への資金提供が発覚

 新年早々、立憲民主党には別の厄介な問題も起きていた。元テレビマンらが立ち上げていたメディアであるCLP(Choose Life Project)に立憲民主党から1500万円を超す資金が流れていたことが、CLPに出演していたジャーナリストらの連名の抗議声明で明るみに出たのだ(Choose Life Projectのあり方に対する抗議)。
 出演者らが問題視したのは、CLPが立憲民主党という特定の政党から多額の資金提供を受けていることを秘匿したまま「公共のメディア」を標榜し、同時期にクラウドファンディングで多額の資金を集めていたことだった。
 立憲民主党の調査の結果、当時の福山幹事長が「CLPの理念に共感」し、個人の判断で党から資金提供したことが判明した。
 CLPの設立に関わり、この資金提供に関与していた共同代表の佐治洋氏は「語り得ぬほどの愚行だった」「モラルを著しく欠いた態度であった」として代表辞任を表明した(「Choose Life Projectのあり方に対する抗議」へのご説明)。
 一方、1月12日に調査結果を発表した立憲民主党の西村幹事長は、「適切ではなかった。国民に疑念を与える結果となり、反省すべきことだ」としたものの、福山幹事長が資金提供していたことについては「違法性があったとは言えず、処分は考えていない」と述べた。
 政党からの資金提供はいずれ収支報告書に記載されるため、基本的に支出そのものは隠匿できない。ただ、党内の議論を経ずに幹事長の一存で税金を原資とする1500万円超もの資金が使われたことや、「理念に共感して」資金提供を決めたのなら直接寄付すればいいものを、大手広告代理店とウェブ制作会社を二重に迂回してCLPに資金が流れていることで、さまざまな憶測が飛び交っている。
 福山元幹事長の責任を不問に付したことについても、

立民の若手衆院議員は「けじめをつけることが必要だ。曖昧な決着では、政府や他党の不祥事を追及できない」と批判した。(「読売新聞オンライン」1月14日

と党内からも異論が出ている。
 1月14日に会見した泉健太代表は、西村幹事長が調査結果を公表したことをもって「わが党の説明は終了した」と述べ、これで幕引きとすることを明言した。

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