手段が目的化した立憲民主党――信頼を失っていく野党①

ライター
松田 明

過半数が反執行部勢力に加わる

 日本共産党との「選挙協力」をめぐって、立憲民主党が大揺れである。
 昨年の参院選敗北に続き今年4月の衆参補選で完敗した立憲民主党では、泉代表ら執行部の責任を問う声が党内から噴出していた。
 5月15日、泉健太代表は民放のBS番組に出演。次期衆議院選で150議席を取れなければ代表を辞めると啖呵を切った。そのうえで、

次の衆議院選挙について「あくまで立憲民主党として、まず独自でやるものだ」と述べ、日本維新の会と共産党とは選挙協力や候補者調整を行わない考えを示しました。(「NHK NEWSWEB」5月15日

と、日本維新の会や日本共産党の選挙協力や候補者調整を否定した。
 すると〝壊し屋〟の異名をとる小沢一郎氏らは1カ月後の6月16日、党内に「野党候補の一本化で政権交代を実現する有志の会」を立ち上げた。あからさまな反執行部の動きである。ここに過半数の党所属議員が名を連ねた。
 前回の衆議院選で大敗し、昨年の参議院選でも負けた立憲民主党は、全国いたるところに〝浪人〟を抱えている。
 泉代表や岡田克也幹事長のように自力で選挙に勝てる議員は少ない。しかも、日本維新の会や日本共産党は、独自候補を各選挙区で立てる構えを見せている。かろうじて当選できた現職議員たちにしても、支持率が低迷するなか、次の選挙には暗雲が立ち込めている。
 今や、立憲の現職衆議院議員や浪人中の元職にすれば、理念や憲法観の不一致などどうでもいい。まずは日本共産党が候補者を取り下げて応援に回ってくれるか否か。これが切実な問題なのだ。

「執行部は有権者を欺いている」

 小沢一郎氏は、さらに執行部批判のボルテージを上げた。7月14日には横浜市内で開かれた立憲議員の政治資金パーティーで挨拶。

政権を取る気がないのに、ああします、こうしますって、有権者を欺いている。(「朝日新聞デジタル」7月14日

と、泉執行部を厳しい物言いで批判した。
 小沢氏はこの日、

 政権を本当に代えれば、根本から利権の構造や既得権の仕組みを変えることができる。(同)

とも語った。だが、かつて3年3カ月の民主党政権で、小沢氏らがやったことは何だったのか。
 日米関係と日中関係を〝最悪〟に冷え込ませたこと。「最低でも県外」のはずだった普天間飛行場の辺野古移設を決定したこと。政権を取れば出てくると大見得を切っていた〝霞が関の埋蔵金〟なるものが存在しなかったこと。事業仕分けによって国際競争力の低下を招いたこと。公約になかった消費増税を決めたことくらいではなかったか。
 それが「悪夢の民主党政権」というトラウマを有権者に植え付けて、政権転落から10年以上、旧民主党勢力が迷走する結果になったのだ。
 さらに言えば、小沢氏らが日本共産党との野党共闘を進めたことが、旧民主党勢力を分解させてしまった。

「社会主義・共産主義」めざす政党

 小沢氏らが主張する「野党候補の一本化」は、かぎりなく現実味がない。日本維新の会も国民民主党も、立憲との候補者調整には応じないとしている。最大のネックになっているのが日本共産党の存在だ。

日本維新の会と国民民主党は、安全保障政策などで隔たりがある共産党との調整を立憲民主党が否定していないことを踏まえ、選挙のために政策を置き去りにすれば、国民の理解は得られないなどとして候補者調整には応じられないとしています。(「NHK NEWSWEB」7月18日

 政権交代を実現可能にするためには、仮に政権が変わっても国家観や安全保障政策が基本的に揺るがないことが大前提になる。
 しかし日本共産党は、日本国憲法を守ると言いつつ、日本国憲法とはまったく相いれない〝社会主義・共産主義の社会〟をめざす「革命政党」だ。

私たちは、日米安保条約や自衛隊はもちろん、社会主義・共産主義もふくめて、選挙での国民多数の判断をふまえて、改革の階段をあがることを大方針にしています。(日本共産党『あなたの「?」におこたえします 党綱領と規約の話2023』)

 国民の多数の賛同を得て、日米安保を廃棄し、自衛隊を廃止し、日本国憲法とは全く理念の異なる社会主義・共産主義体制に移行するという。国会で多数を形成して憲法を改正すると主張しているタカ派の改憲勢力の理屈と何が違うのだろうか。

「野党共闘」は革命の第一段階

 多くの有権者は知らないが、その「革命」への道筋として、日本共産党は党綱領のなかで二段階革命論を唱えている。
 まず、現在の体制を打倒することを共通項に、さまざまな勢力と連携して「統一戦線」を形成する。その形成には、いくつかの一致点さえ見いだせればよいとする。

党は、その場合でも、その共同が国民の利益にこたえ、現在の反動支配を打破してゆくのに役立つかぎり、さしあたって一致できる目標の範囲で統一戦線を形成し、統一戦線の政府をつくるために力をつくす。(「日本共産党綱領」

 革命に役立つものは利用する。まさに彼らが2015年秋から進めてきた「野党共闘」こそ、この「統一戦線」というおどろおどろしい名前の戦略そのものなのだ。
 共産党が前面に出ず、この「統一戦線」で政権交代を果たすことが第一段階。

 このたたかいは、政府の樹立をもって終わるものではない。引き続く前進のなかで、民主勢力の統一と国民的なたたかいを基礎に、統一戦線の政府が国の機構の全体を名実ともに掌握し、行政の諸機構が新しい国民的な諸政策の担い手となることが、重要な意義をもってくる。(綱領)

 日本共産党の真の目的は政権交代だけでは終わらない。野党共闘すなわち「統一戦線」で政権を奪取したあと、〝統一戦線の政府が国の機構の全体を名実ともに掌握〟して、今度は社会主義・共産主義体制への移行を図る。これが第二段階だ。

 日本の社会発展の次の段階では、資本主義を乗り越え、社会主義・共産主義の社会への前進をはかる社会主義的変革が、課題となる。
 社会主義的変革の中心は、主要な生産手段の所有・管理・運営を社会の手に移す生産手段の社会化である。(綱領)

「手段」と「目的」のはき違え

 日本共産党と協力して政権交代を目指すというのは、共産党が思い描いている「統一戦線」戦略そのものに手を貸していることになる。
 政権交代をめざすからこそ共産党との協力などあり得ないと考える勢力と、次の選挙で自分の議席を確保するために共産党と手を組みたい勢力。ポスト泉の権力闘争もからんで、目下、立憲民主党は空中分解寸前に陥っている。
 立憲民主党を引き寄せたい日本共産党は、

 (次期衆院選で立憲との候補者調整が進まないのは)候補者調整はするけれども選挙協力はしないという、立憲の泉代表の発言に原因がある。(小池晃書記局長の発言/「朝日新聞デジタル」7月18日

と、背後から泉代表への批判を強める。
 本来は、実現したい新しい政治の姿という目的があるはずで、政権交代はその手段でしかない。
 かつての民主党政権があっという間に崩壊したのは、手段に過ぎない政権交代が目的化していたからだ。政権交代した途端に内輪で権力闘争が激化。なにより政権を担うだけの能力がそもそも決定的に欠けていた。
 その後は今の立憲民主党にいたるまで、やはり手段が目的化したままで、仲間割れと野合をひたすら繰り返している。そして、選挙になると日本共産党に引きずられていく。
 小沢氏にすれば、次の党代表の座を狙う若手を御輿に担ぎ、共産党の協力を得て1人でも落選者を減らせられれば、自分の影響力が強まる。さて、この党はどこに向かっていくのだろうか。

「信頼を失っていく野党」:
手段が目的化した立憲民主党――信頼を失っていく野党①
維新、止まらない不祥事――信頼を失っていく野党②
孤立を深める日本共産党――信頼を失っていく野党③
共産党VSコミュニティノート――信頼を失っていく野党④

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