「維新」の強さ。その光と影(上)――誰が維新を支持しているのか

ライター
松田 明

「日本維新の会」統一地方選特設ページ

「維新はリベラル」という認識

 このところ日本維新の会の支持率が立憲民主党を抜いている。潮目の変化が起きたのは今年4月9日。統一地方選挙の前半戦で、大阪府知事選挙と大阪市長選挙の両方をふたたび維新が大差で勝ち抜き、府議会と市議会で単独過半数を獲得したところからだ。
 維新の支持率が瞬間的に立憲を抜いたことは過去にも何度かあったが、4月半ば以降はどの社の調査でも逆転が固定されている。
 過去40年ほどのあいだに、いくつもの「新党」が生まれ、「第三極」と呼ばれる勢力も伸びながら、いずれも長くは続かなかった。この点、維新は母体でもある大阪維新の会の結成までさかのぼれば、すでに13年も命脈を保っている。
 なぜ維新がこれほど強くなってきたのか。〝極右〟〝ポピュリズム〟〝在阪メディアを牛耳っている〟という維新への批判は、そもそも的確なのか。
 政治学的に各党の政策を分析評価した指標と、一般有権者の目に映っている各党のカラーは、必ずしも一致しない。そればかりか、世代によっても映り方は全く違う。
 たとえば読売新聞社と早稲田大学現代政治経済研究所が実施した調査結果では、40代以下は自民党と日本維新の会を「リベラル」な政党だと捉えており、公明党や共産党を「保守的」な政党だと捉えている(「BUSINESS INSAIDER JAPAN」室橋祐貴氏)。一笑に付すべきではない。どう見られているかは、きわめて重大な問題なのだ。
 毎日新聞が昨年の参院選の全候補者を対象にしたアンケートでは、「防衛費増額」「敵基地攻撃能力の保有」「自衛隊の憲法明記」など、いずれも維新候補者の賛成が自民を上回っていた。「非核三原則見直し」や「核共有への議論」を公言するなど、とりわけ安全保障政策では維新はまちがいなく最右翼にいるはずだ。
 しかし、有権者に各政党のイデオロギーを問うた2021年の調査では、維新は全世代を通して「中道」もしくは「ややリベラル寄りの中道」と見なされている(「Yahoo!ニュース」大濱崎卓真氏)。
 厳密な実態と有権者が抱くイメージは、それほどまでにかけ離れている。つまり日本維新の会の支持層は、右でも左でもなく中庸を標榜する人々なのだ。

「普通の人」が支持している現実

 このことは、『誰が「橋下徹」をつくったか』などの著者でもある神戸在住のノンフィクションライター・松本創氏も言及している。氏は長年、厳しい目で維新をウォッチしてきた。
 4月の統一地方選前半戦で維新が圧勝すると、松本氏はこうツイートした。

予想された通り維新完勝。一昨日の松井一郎氏最終演説のツイートに「動員だ、カルト信者だ、どこの異世界だ」みたいなリプがいっぱい付いてたけど、そうやって、普通の人びとがポジティブに維新を支持してる現実を見ようとしないのが非維新が勝てない理由だと思いますよ。(4月10日の松本創氏のツイート

 松本氏は朝日新聞のインタビューにも、

大阪の多くの人には、維新が行政を握ってから街が明るくなった実感がある。都市再開発が進み、天王寺公園や大阪城公園もきれいになり、コロナ前はインバウンドでにぎわった。(「朝日新聞デジタル」4月24日

しかも維新は、保守層だけでなく、左派の一部も取り込んでいます。街や生活を良くしてくれるという実感に根差した支持だから、イデオロギーは関係ないんです。(同)

と語っている。
 繰り返すが、氏は維新を批判的に見てきた代表的な論者のひとりである。だからこそ、世にあふれる「維新批判」の〝ズレ〟に警鐘を鳴らしているのだ。

〝市民感覚の党〟へのイメチェン

「白饅頭日誌」で知られる文筆家の御田寺圭(みたてら・けい)氏も、全く同様の指摘をしている。

維新の持つ「物語性」こそが、維新の計り知れない「根強い支持」の源泉となっている。(「現代ビジネス」5月15日

 その「物語性」とは、〝私たちは皆さんを見棄てません〟というメッセージだと御田寺氏は言う。

SNSをはじめとするネット世論では維新は「ネトウヨの投票先」「自己責任論者とネオリベラリストの巣窟」ということになっているようだが、現実はまったく異なる。維新は熱狂的・狂信的な支持ではなく、穏健で中庸な人びとからの投票先として信を得ている。(同)

 2012年に国政進出した当時の維新は、石原慎太郎氏を共同代表にして自主憲法制定を声高に叫ぶなど、むしろ「極右」を標榜することで、民主党に迫るほど議席を伸ばした。
 だが、政権を奪還した安倍晋三首相は、一方でさらに過激なナショナリストの自己像を演出し、他方で維新の首脳陣と頻繁に会食をするなど維新との親和性をアピールした。
 その結果、維新に流れていた右派票は自民党に吸収される。13年の都議選、参院選で維新は惨敗し、15年に都構想の住民投票が否決されると、党代表の橋下徹氏は政界を引退した。
 かくして安倍政権時代に自民党そのものは右に傾き、民主党とその流れをくむ立憲民主党は日本共産党に引き寄せられていく。
 自民党が右傾化しながらも、日本政治が世界的にも稀有な安定した中道路線を維持してこられたのは、ひとえに公明党との連立という「オーソドックスな政治学では説明し難い」(中北浩爾『自公政権とは何か』)絶妙なバランスの上にあったからだ。
 橋下氏が去り、松井・吉村両氏の二枚看板時代に入ると、日本維新の会は巧みにイメージチェンジをしていく。二大政党が左右に傾いて空白になったゾーンを狙い、〝市民感覚の党〟を演出していったのだ。
 その演出をする上で、維新は与党にも物申すが批判だけの野党にはならないという自己像を作り上げた。

現在の維新は「市民感覚」をまるで省みない「政治的エリート(自民党)」と、それを冷笑する「知的文化的エリート(立憲民主党・共産党)」に対して不満を持つ名もなき人びとの受け皿とみなされているのである。(前出・御田寺圭氏)

 大阪人の維新支持を冷笑してきた中央や左右エリートの声が、皮肉にも維新の勢力圏を大阪から関西へ、全国へと広げつつあるのだ。

社会の価値観は右傾化していない

 政治行動論などを専門とする京都府立大学の秦正樹・准教授は、2022年7月、NHK「クローズアップ現代」のインタビューで、

日本は今、保守化・右傾化していると言われますが、研究でそんなエビデンスは全くありません。むしろ外交安保以外の政策の流れとしては、社会的な価値観としてリベラルな方向に向かっていると見ています。(「クローズアップ現代」

と明言している。
 そして調査の結果、民主党政権が生まれた2009年当時は支持されていた「批判する野党」「政権に対抗する野党」の像よりも、今は「是々非々の野党」像が好まれるようになっていると語っている。
 ノンフィクションライターの石戸諭氏は、維新には①熱烈な支持層、②熱烈な反対層、③可視化されにくいが確実に存在する「積極的に支持もしないが、だからといって拒否もしていない」層があると指摘してきた。
 ここにきて維新の快進撃を可能にしてきたのは、この第3の「可視化されにくい層」からのフワッとした支持だ。そして、維新に票を投じる人の多くは、「ネトウヨ」でも「新自由主義者」でもない。なんとなく政治から置き去りにされたと感じ、左右のエリート臭にうんざりした感情を抱く、穏健で中庸な人々なのである。
 石戸氏は、

有権者がポピュリズムに毒されているからでも、あるいはメディアの影響でもない(『サンデー毎日』7月16日号)

と言いきる。
 事実、維新は支持を集めながら、都構想は2度にわたって否決されてきた。これをアンチ維新の人々が「市民の連帯の勝利」などと語ることは、単に社会を分断し、フワッとした維新支持層に燃料を供給するだけである。
 左派の人たちが脳内で考えているように、世のなかが右傾化して〝極右政党〟の維新が台頭しているのではない。社会の価値観が中道リベラルな方向に向かうなかで、多くの有権者から見ればそこに政党の空白が生じていた。維新はそれを理解していて、うまく立ち位置のイメージ作りをしてきたのだ。
 この点を見誤っているかぎり、維新への有効な対策はとれないだろう。では、そんなイケイケの維新に危うさや不安要素はないのか。
(「下」に続く)

「日本維新の会」関連記事:
「維新」の強さ。その光と影(上)――誰が維新を支持しているのか(本記事)
「維新」の強さ。その光と影(下)――〝強さ〟がはらむリスクと脆さ

維新の不祥事は平常運転――横領、性的暴行、除名、離党
維新「二重報酬」のスジ悪さ―まだまだ続く不祥事
やっぱり不祥事が止まらない維新――パワハラ・セクハラ・カネ
維新、止まらない不祥事――信頼を失っていく野党②

民主党政権とは何だったのか――今また蘇る〝亡霊〟

「立憲民主党」関連記事:
立民、沈む〝泥船〟の行方――「立憲共産党」路線が復活か
民主主義を壊すのは誰か――コア支持層めあての愚行と蛮行
レームダック化した立憲執行部――野党第一党の〝終わりの始まり〟
求心力を失う一方の立憲――広がる執行部への失望
立憲・泉代表のブーメラン――パフォーマンス政党のお粗末
旧統一協会問題が露呈したもの――宗教への無知を見せた野党
憲法無視の立憲民主党――国会で「信仰の告白」を迫る
枝野氏「減税は間違いだった」――迷走する野党第一党
立憲民主党の不穏な空気――党内にくすぶる執行部批判
2連敗した立民と共産――参院選でも厳しい審判
まやかしの〝消費減税〟――無責任きわまる野党の公約
醜聞と不祥事が続く立憲民主党――共産との政権協力は白紙
立憲民主党はどこへゆく――左右に引き裂かれる党内
負の遺産に翻弄される立憲民主党――新執行部を悩ます内憂
ワクチン接種の足を引っ張る野党――立憲と共産の迷走

「日本共産党」関連記事:
「革命政党」共産党の憂うつ――止まらぬ退潮と内部からの批判
共産党「実績横取り」3連発――もはやお家芸のデマ宣伝
共産の惨敗が際立つ統一前半戦――牙城の京都でも落選相次ぐ
暴走止まらぬ共産党執行部――2人目の古参党員も「除名」
日本共産党を悩ます〝醜聞〟――相次ぐ性犯罪と執行部批判
日本共産党の閉鎖体質――「除名」に各界から批判殺到
書評『日本共産党の100年』――「なにより、いのち。」の裏側
日本共産党 暗黒の百年史――話題の書籍を読む
日本共産党と「情報災害」――糾弾された同党の〝風評加害〟
日本共産党と「暴力革命」――政府が警戒を解かない理由
暴力革命方針に変更なし――民主党時代も調査対象
宗教を蔑視する日本共産党――GHQ草案が退けた暴論
宗教攻撃を始めた日本共産党――憲法を踏みにじる暴挙
共産党が危険視される理由――「革命政党」の素顔
共産党が進める政権構想――〝革命〟めざす政党の危うさ
西東京市長選挙と共産党―糾弾してきた人物を担ぐ
「共産党偽装FAX」その後―浮き彫りになった体質
北朝鮮帰国事業に熱心だった日本共産党の罪