民主主義を壊すのは誰か――コア支持層めあての愚行と蛮行

ライター
松田 明

改正入管法が可決成立

 先週6月8日、「改正出入国管理・難民認定法案」が参議院法務委員会で自民、公明のほか、維新、国民を含めた賛成多数で可決。9日の参議院本会議で可決成立した。
 反対した政党や一部メディアは〝強行採決〟などと非難したが、与野党を含めた文字どおりの多数が賛成した採決であり、強行でも何でもない。自分たちの意に沿わない採決はすべて〝強行採決〟だと言い募るほうが、よほど民主主義を蔑ろにするものだろう。
 改正法は外国人の長期収容問題を改善するのが目的で、親族や支援者ら「監理人」の監督を条件に入管施設外で生活しながら、退去強制手続きを進める「監理措置」制度を導入する。入管施設に収容した場合でも3カ月ごとに収容の要否を検討する。
 またウクライナ避難民のような難民条約上の難民に該当しない紛争避難民などを「補完的保護対象者」(準難民)として保護する制度も新設した。
 一方、難民認定手続き中は強制送還を一律に停止する規定(送還停止効)に例外を設け、3回目以降の申請者を送還可能にした。
 というのも、実際には技能実習生や留学生、もしくは観光として来日しながら失踪し、不法滞在者となりながら難民申請をするケースが少なくないのだ。
 改正入管法は、真に保護されるべき人を保護し、法の抜け穴が乱用されることを防止するものだと言える。

人道的な法の運用を求める

 出入国在留管理庁の報道発表(2023年3月)では、昨年、難民認定申請をおこなった外国人は3772人で前年比1359人(約56%)増加している。
 このうち、約32%に当たる1202人が、過去に難民認定申請をおこなったことがある申請者だ。国籍は68カ国にわたり、主な国籍はカンボジア、スリランカ、トルコ、ミャンマー、パキスタンとなっている。
 これまで、難民申請は何回でもおこなうことができ、申請中は強制送還を免れていた。エンドレスで申請できることが難民申請業務全体をひっ迫させてもいた。
 今回、3回目以降の申請者を送還可能としたわけだが、じつは過去数十年のあいだで、3回目以降で難民認定されたケースは3例しかない。しかもそれは、2回目の申請の後でクーデターが起きるなど事情が急変したケースだった。
 立憲民主党などが今回の措置をことさら非人道的な〝改悪〟であるかのように主張しているのは、意図的な誇張と言わざるを得ない。
 なお今回の改正では、保護すべき人が送還対象とならないよう、「相当の理由がある資料」を提出した場合は送還停止効の対象となるとした。
 一方で日本の難民受け入れ数は欧米諸国などに比べて極めて少ない。衆参両院の法務委員会では、難民認定審査の充実を図ることを盛り込んだ条文修正や付帯決議がおこなわれた。
 また公明党は、在留特別許可の申請制度に関連し、「外国人の子どもの利益確保」や「家族分離の禁止」をガイドラインに盛り込むよう主張。斎藤健法相からは前向きに取り組みたいとの答弁があった。
 とりわけ与党・公明党には、適正かつ人道的な法の運用がなされるよう、引き続き十分な配慮と注視をお願いしたい。

望月衣塑子記者の不規則発言

 異様だったのは、参議院法務委員会で反対派が見せた議事妨害である。
 法務委員会には、法案に反対する立憲民主党や日本共産党、れいわ新選組などから、委員ではない議員たちが大挙押し寄せた。
 もちろん委員会は、議員のほか、報道関係者その他の者で委員長の許可を得た者は傍聴することができる。しかし、発言することはできない。
 ところが委員会が始まると、こうした部外者の議員たちが一斉に大声での不規則発言を繰り返した。それはマイクで話している委員長の声を委員たちが聞くのに、両手を耳の後ろにあてなければ聞き取れないほど騒然としたものだった。
 さらに、立憲民主党や日本共産党の議員が発言に立つと、取材者であるはずの東京新聞・望月衣塑子記者が記者席から大声で「そうだ、そうだ」という不規則発言を繰り返した。
 記者個人にどんな政治信条があろうと自由だが、記者として国会審議への入室を許可された立場で、特定の政党に同調して不規則発言を繰り返すというのは異常である。
 鈴木宗男議員(日本維新の会)は怒り心頭の様子で、委員長と与野党の筆頭理事らに善処を申し入れた。
 また自民党の世耕弘成参院幹事長は9日の会見で、

東京新聞の望月衣塑子記者を念頭に、「取材目的と称して入室している人が議事妨害に当たるような大声を出すのは言語道断だ」と述べた。(『産経新聞』6月9日

〝極端な有権者〟へのアピール

 この日の法務委員会では、委員長が採決を告げると、立憲民主党や日本共産党などの議員らが大声で喚き立てながら委員長席に押しかけ、委員長をガードする与党議員らと揉み合いになった。
 れいわ新選組の山本太郎代表にいたっては、委員でもないのにこの人垣に押しかけ、背後から危険なダイブを繰り返して委員長を襲おうと試みた。
 その結果、自民党の参議院議員2名が打撲などを負ったとして診断書を提出。TBSは他に衛視1人も負傷した可能性があると報じている。
 6月9日、自民党、公明党、日本維新の会、国民民主党に加え、法案に反対した立憲民主党まで含めた5党が、議事進行を妨害し参議院の秩序を著しく乱したとして、山本太郎議員に対する懲罰動議を尾辻秀久参院議長に提出した。

 動議提出に関し、山本氏は国会内で記者団の取材に応じ、「不当だ」と反発。自身の行為について「体を張ってでも(採決を)止めなければいけないと、やむにやまれぬ気持ちで行動した」と釈明した。(「時事通信」6月9日

 山本議員の行為は悪質であり、この釈明もまた詭弁としか言いようのないものだ。
 暴力で法案の採決が変わるわけではない。それを百も承知で、彼はメディア露出を見越したかのように派手なダイブを何度もおこなった。もちろん多数の良識派から非難を浴びることは織り込み済みなのだ。
 れいわ新選組はこれまでも牛歩戦術や焼香パフォーマンス、憲法を無視した天皇への直訴など、異常で非常識なパフォーマンスを繰り返している。
 政治家が議場内での暴力など特異な行動に出ることについては、海外の事例などを対象に政治学の分野でも研究がなされているという。

多くの有権者から悪く評価されることを知った上で、特定の政治家が議会で乱闘を起こす理由ですが、研究者はイデオロギー的に極端な選好を持つ少数の有権者の票を重視するためではないかと考えています。れいわは穏健派の票を重視しないことで他党と差別化戦略をとっているのでしょう。(政治学者・武内和人氏の6月9日のツイート

原理主義化する立憲民主党

 一部のコアな支持層へのアピールを狙って、あえて多数の良識的な有権者からの評価を捨てて〝差別化〟を図る。
 なるほど、山本太郎氏がこれまでおこなってきた数々のパフォーマンスを見れば腑に落ちるものがある。
 そして、この「コアな支持層狙い」戦略という意味では、残念ながら山本氏への懲罰動議に加わった立憲民主党もまた大差がない。
 旧民主党勢力から保守系議員が去った今の立憲民主党は、ほとんど55年体制下の社会党に近いものになり果てている。
 政権交代を口にしながら「ゼロか100か」の原理主義的な主張を繰り返し、実態としては政府与党への逆張りだけに走るイデオロギー政党なのだ。改正入管法やLGBT理解増進法の採決でも、立憲民主党は日本共産党と歩調を合わせてコア支持層へのアピールを重視した。
 毎日新聞社が5月20日、21日に実施した世論調査で、「立憲と維新のどちらが野党第1党にふさわしいと思いますか」という設問を立てた。
 その結果、「立憲」と答えたのは25%、「維新」が47%、「わからない」が27%となった(「毎日新聞世論調査」)。
 直近の各社世論調査でも立憲民主党は伸び悩んだままで、日本維新の会に水をあけられている。毎日新聞の世論調査は、もはや多くの人々が野党第1党としての立憲民主党に期待を抱かなくなったことを裏付けた格好だ。
 議会にあって異論を許さず、ルール無視の議事妨害や暴力に訴える人々。民主主義を毀損しているのは誰なのかと思う。

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