立憲民主党の不穏な空気――党内にくすぶる執行部批判

ライター
松田 明

野田元首相の追悼演説

 10月25日。衆議院本会議場に、安倍晋三元首相への追悼演説を読む野田佳彦氏の声が響いた。立憲民主党の最高顧問。民主党政権時代の2011年9月2日から2012年12月26日まで、第95代内閣総理大臣をつとめた。
 2009年9月に生まれた民主党政権は、わずか3年あまりで、この野田政権をもって幕を閉じた。自民党総裁として政権をふたたび奪取し、野田氏から首相の座を引き継いだのが安倍晋三氏だった。
 野田氏は「もっとも鮮烈な印象を残す」記憶として、2012年11月14日の党首討論を挙げた。テレビ中継が入るなか、野田氏と安倍氏は激しい応酬をかわした。首相だった野田氏は衆議院の解散日を明言。そこから1カ月あまりで政権交代となる。
 両親ともに農家の出身で、自身もガス点検員などを経て政界入りした野田氏。片や祖父や大叔父に首相もいる政治家の一家で育った安倍氏。
 野田氏は安倍氏に、「私にとっては、仇のような政敵でした」と率直な心情を吐露したうえで、安倍氏が見せた人間的な優しさや気遣い、オバマ氏とトランプ氏という全くタイプの異なる米国大統領と親密な関係を築いた才覚を称賛した。

あなたに日米同盟こそ日本外交の基軸であるという確信がなければ、こうした信頼関係は生まれなかったでしょう。
ただ、それだけではなかった。
あなたには、人と人との距離感を縮める天性の才があったことは間違いありません。
「NHK 政治マガジン」-【全文】野田元総理 追悼演説 10月25日

 政治的な立場を越え、対峙するところは対峙するとしても、人間としての相手への敬意を忘れない、歴史に残る演説だったと思う。

「どうぞご自由にと言うしかない」

 野田氏の演説については、SNS上でも与党だけでなくさまざまな立場の人から「名演説」との声が寄せられた。立憲民主党でも泉健太代表はじめ首脳陣が相次いで賛辞を贈った。それが常識的な大人の対応というものだろう。
 しかし野党支持の識者のなかには、野田氏が安倍氏を称えたことに罵詈雑言を吐く者や、立憲民主党の幹部が野田氏の演説を褒めたことにさえ激しく非難する者も目立った。
 銃撃され非業の死を遂げた元首相への国会としての追悼演説であったとしても、安倍氏を称えることなど断じて許さないということなのか。
 過激化やテロリズムの形成プロセスを説いた大治朋子氏の名著『歪んだ正義』(毎日新聞出版)には、過激思考が強化されていく過程が描かれている。

世の中を善と悪、加害者と被害者など単純明快に「カテゴリー化」するプロセスといってもいい。(略)ここで起きるのは被害者意識の形成と、「外集団」は基本的に人間ではないという非人間化の認知の形成だ。(『歪んだ正義 「普通の人」がなぜ過激化するのか』)

 かつての民主党のブレーンであり、2015年以来「野党共闘」の仕掛け人の1人でもある政治学者の山口二郎氏はツイッターで、

野田さんの追悼演説は、今後の政治勢力の再編の分水嶺になると感じている。私も安倍的なものへの批判を続ける決意だし、野田さんも「あなたは、歴史の法廷に、永遠に立ち続けなければならない運命」と述べ、安倍政治を不問に付しているわけではない。(10月26日の山口氏の連続ツイート

しかし、それを無視、あるいは曲解し、野田さんに悪罵を浴びせる識者、市民もいる。私は嘆息するばかり。そういう市民もふくめて野党共闘の体制をつくれと言われれば、私にはそんな芸当はできない、どうぞご自由にと言うしかない。これからの野党の基盤について、白紙から議論しなおす必要を感じる。(

と、先鋭化する一部野党支持者への絶望感を記した。

立憲民主党内に高まる不満

 こうした「敵か味方か」の原理主義的な空気が蔓延しているからだろうか。自民党が旧統一教会問題で集中砲火を浴びているなか、野党のあいだでも不穏な軋みが日ごとに大きくなってきている。
 7月の参院選で6議席減らした敗北の責任をめぐり、立憲民主党では西村智奈美・幹事長が降板。小川淳也・政調会長も辞任した。
 立憲民主党は支持率が低迷しているにもかかわらず、参院選の神奈川選挙区で2人の候補者を擁立。期日前投票がはじまってから事実上の候補者一本化に方針転換するなど、党内の対立やガバナンスのなさを露呈していた。
 泉健太代表の退陣こそ避けられたものの、党内では執行部への不満がくすぶっている。9月14日の毎日新聞デジタルは、

立憲結党2年、もう行き詰まり 「決められない」泉氏に不満公然(「毎日新聞デジタル」9月14日

と題して、前日の両院議員総会で公然と執行部批判の声が出た様子を報じている。
 10月に入ると、これまで1年ほど〝休眠〟していた超党派議員連盟「立憲フォーラム」が会合を開いた。立憲民主党所属の左派系国会議員を中心としたグループだ。これまで日本共産党や「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会」などと歩調を合わせてきた。
 会合では、昨年の総選挙の敗北で退陣した枝野幸男・元代表が、新たにフォーラムの顧問に就任した。枝野氏の復権を目論む党内の動きと見られている。

このタイミングでの再始動には、岸田文雄政権が示す憲法改正や防衛費の増額方針と対峙するとともに、泉健太代表ら「中道」路線の現立民執行部を牽制する狙いも透ける。(『産経新聞』10月19日

泉代表と志位委員長のバトル

 一方、泉氏ら新執行部は、同じく新体制になった日本維新の会との接近を見せている。
 9月21日、立憲民主党の安住淳・国対委員長は国会内で維新の遠藤敬・国対委員長と会談。安住氏は遠藤氏に〝共闘〟への腹案メモを示したという。

20分後、報道陣の前に姿を見せた安住氏は「(立憲と維新が)それぞれの主張を繰り返すだけでなく、『共闘』することで緊張感を持った国会運営をする」。遠藤氏と「グータッチ」を交わし、周囲にこうつぶやいた。「連立までいくかもしれないよ」(「朝日新聞デジタル」10月2日

 10月21日には泉代表が講演で、憲法改正をめぐる日本維新の会との意見の違いについて「じつはそんなに、差があってないようなもの」「憲法審査会で議論すればよい」と発言。
 日本共産党の志位和夫委員長は23日にツイッターで、

維新の会が「憲法9条改憲の突撃隊」となっていることは明らかであり、もしも立憲代表が憲法をめぐって維新と協力の余地ありと考えているとしたら、とんでもない考え違いというほかない。
野党ならば「与党の補完勢力」「改憲の突撃隊」と正面から対決すべきです。(10月23日の志位氏のツイート

と泉代表を激しく非難。すると泉代表が即座に、

協力の余地?
憲法を「議論する」と言ったまでで、協力の余地ありなどとは一言も言っていませんが…。
ずいぶん見当違いな認識と批判です。

日々住民のために頑張る方々や各議員には素晴らしい方もおられるのですし、敵味方をすぐに色分けし、異論は許さないという考え方こそ改められては。(10月23日の泉氏のツイート

と反論。両党の代表があえて多くの人に見えるツイッターという公開の場を選んで、非難の応酬を見せる展開となった。
 立憲民主党では枝野執行部が日本共産党との蜜月路線を進んだものの、昨年の総選挙で大敗北した。日本共産党との〝政権合意〟を白紙に戻した泉代表に、日本共産党は苛立ちを募らせている。
 むこう3年は国政選挙のない期間。それだけに野党間には主導権争いのさまざまな思惑がうごめいているのだろう。とりわけ立憲民主党内で冷遇されている有力議員は、一様に形勢逆転の機会を狙っている。来春には統一地方選挙が控えている。
 民主党政権が下野して、まもなく10年。この間、仲間内で原理主義的に対立してはケンカ別れし、選挙が近づくと野合することをくり返してきた。日本共産党になびくグループと、日本維新の会に秋波を送るグループ。
 立憲民主党がふたたび内紛の末に分裂する日は、そう遠くないのかもしれない。

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