立憲・泉代表のブーメラン――パフォーマンス政党のお粗末

ライター
松田 明

公明党の出した「再給付案」

 政界で「ブーメラン」と言えば立憲民主党。その立憲民主党・泉健太代表の〝ポンコツ発言〟に、党内からも批判と溜め息が出ている。
 ことの発端は、3月8日に公明党が記者会見で示した物価高への追加対策だった。
 順を追って説明する。
 ロシアによるウクライナ侵攻の影響で、世界的に燃料費や食料品価格が高騰。昨年10月に政府が閣議決定した総合経済対策には、公明党の主張が数多く反映された。12月に成立した今年度第2次補正予算には、電気・都市ガス代の負担軽減策など、公明党が政府に強く訴えてきた数多くの支援策が盛り込まれている。
 たとえば電気・都市ガス代は1月使用分(2月請求分)から値引きされ、燃料補助金によってガソリンの店頭価格も本来より30円安い170円程度に抑制されている。
 2023年度政府予算案でも、政府は新型コロナ・物価高対策予備費に4兆円を確保。出産育児一時金の50万円への引き上げなど、公明党の主張が随所に反映された。人々の生活のどの部分に特にしわ寄せがきているか、全国に張り巡らされた公明党の地方議員のネットワークは、どの政党よりも敏感に「声」をキャッチできる。
 8日に会見した公明党の高木陽介・政調会長からは、LPガスも含めた光熱費の抑制、飼料価格高騰対策、各地自体での地方創生臨時交付金を活用した低所得世帯への支援など、きめ細かい内容の追加策を政府に提言することが示された。
 この際、高木政調会長は、

(物価高で)特に大きな影響を受けているのが低所得世帯であり、中でも生活に困窮する子育て家庭への支援が急務だ(『公明新聞』3月9日

と指摘。コロナ禍の対応として児童扶養手当を受給するひとり親世帯などに子ども1人当たり5万円を支給してきた「特別給付金」に言及し、予備費を活用して「再度支給するべきだ」と訴えた。

党内から噴出した批判

 すると翌日の夕方、立憲民主党の会合で発言に立った泉健太代表は公明案について、支給される子育て世帯が困窮世帯に限定されていることは「線引きや分断」だと批判。立憲民主党は、すべての子育て世帯に5万円給付を検討していると語った。

公明は所得が低い世帯を対象に子ども1人につき5万円の再支給案を示したが、泉氏は「子どもの関係の給付は所得制限はあるべきではないと言ってきた。この主張をもっともっと政府の側に伝えてまいりたい」と述べ、立憲は全子育て世帯への5万円の給付を検討していると紹介した。(『毎日新聞』3月9日

立憲民主党の泉代表は、会合の冒頭のあいさつで「与党側は、また線引きや分断をしようとしていて、残念な思いだ。所得制限はあるべきでなく、すべての子育て世帯に5万円を給付する案を提示していきたい」と述べました。(「NHK NEWSWEB」3月9日

 ところが同じ9日の午前中、すでに同党の長妻昭政調会長が記者会見を開き、困窮世帯に限定して5万円を再給付する「『低所得子育て世帯給付金』再支給法案」を、翌10日に提出すると語っていたのだ。
 泉氏は党代表でありながら、その日の午前に自分の党が発表した政策を理解も認識もしていなかったようだ。
 立憲民主党の案も公明案を後追いしたかたちで、やはり支給対象を「困窮世帯」に限定している。なのに公明案を「線引き」「分断」と批判し、自分の党はすべての子育て世帯に給付する案を出すなどと、およそトンチンカンな話を記者たちの前でやってしまったのだった。
 直後に指摘を受けたのか釈明会見をし、「事務方から上がってきたペーパーに一部齟齬(そご)があったのに、それをそのまま話したところ、提出する法案の内容と違っていた」と、事務方に責任をなすりつけて謝罪・撤回した。
 これは事務方のペーパーうんぬんではなく、代表である自分が党の政策を把握していなかったというお粗末な話なのだ。さすがに党内からも批判が噴出した。

党内からは「代表の立場でありながら、自分の党が出す法案も把握していないのか」(ベテラン)とあきれる声が出ている。(『読売新聞』3月10日

 いつもながら、相手に向かって盛大に投げたブーメランが返ってきて自分の顔を直撃するという、立憲民主党の伝統芸である。

財源は自分たちが反対した予備費

 さらに立憲民主党が10日に出した「再給付案」は、単に公明党の後追いをしただけでなく、もっと〝筋の悪い〟話だった。
 というのも、立憲民主党が公開している資料によると、この「再給付案」の財源は公明党案と同じく「新型コロナ・物価高対策予備費」だ(「低所得子育て世帯給付金」再支給法案/立憲民主党HP)。
 自民・公明はこの予備費を使って、すでに2回、困窮子育て世帯への給付をおこなってきた。しかし、その予備費を計上した2022年度予算案に、そもそも立憲民主党は「反対」したのではなかったか。

政府案には予備費を余分に積むなどおかしな点がある。われわれは組み換え案を提示したうえで、政府案には反対した(2022年2月21日の泉健太代表の会見/立憲民主党サイト

 自分たちが予備費にイチャモンをつけて反対した政府予算。そこに計上された予備費を活用して公明党が困窮子育て世帯への再給付案を示すと、次の日に自分たちも予備費を財源に〝二番煎じ〟案を出す。
 しかも、政調会長が記者会見までして発表した政策を、党代表が同じ日の夕方になっても理解しておらず、公明案を批判して「すべての世帯に給付する」などと調子のいい大風呂敷を広げる。そして、直後の謝罪・撤回。
 3月14日付の公明新聞は「編集メモ」というコラムでこの醜態を紹介し、

立憲、「子育て世帯支援」本気なのか

と痛烈に批判した。
 自分たちが反対した予備費をあてこんだ、しかも党の代表がまったく理解も把握もしていない立憲民主党の再給付案。物価高騰のなかで大変な思いをしている人々のことを、この党が本気で考えているとはとても信じられない。
 公明党は3月15日にこの追加支援策の提言をおこなう。

追加の物価高騰対策をめぐり、公明党の山口代表は、低所得の子育て世帯を対象にした子ども1人当たり5万円の支給や、地域の実情に応じた支援の実施などを含め、数兆円規模の対策を政府に求める方針を明らかにしました。(「NHK NEWSWEB」3月13日

 3000人の議員ネットワークで「小さな声」を拾い着実に仕事を重ねる政党と、常にパフォーマンス先行でブーメランを繰り返す政党。同じ政党といっても、力量と質にこれほど差があるものかと、あらためて痛感した。

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