書評『日本共産党の100年』――「なにより、いのち。」の裏側

ライター
本房 歩

未来の選択を誤らないために

 本書『日本共産党の100年』は日本共産党が創立100周年を迎えた2022年7月に合わせ、朝日新聞出版から刊行された。著者の佐藤優氏はキリスト教徒の作家であり、モスクワの日本大使館に勤務していた元・外務省主任分析官である。

日本共産党は「普通の政党」ではない。革命を目標とした結社で、独自の理論、規則、さらには掟がある。日本の未来の選択を誤らないようにするためにも日本共産党について知っておくことが重要だ。
本書では、日本共産党が組織として刊行した公式党史、綱領集などの資料、機関紙「しんぶん赤旗」、党幹部が実名で公刊した書籍を主要な情報源とし、これらによりこの党を批判的に分析するという方法をとった。(「はじめに」より)

 長引くコロナ禍。ロシアによるウクライナ侵攻。それに起因する物価高。急速な円安傾向。佐藤氏は、近い将来に日本がインフレの嵐に襲われ、国民生活が苦しくなる可能性を指摘する。
 そして、そのときに政府の経済政策に異を唱え、米国主導の戦争に反対する日本共産党に魅力を感じる人が出てきても不思議ではないと見ている。

だからこそ、このタイミングで私は日本共産党の真実の姿を一人でも多くの国民の皆さんに知っていただきたいと思っている。(同)

各地でテロを起こした歴史

 日本共産党は、この国を社会主義・共産主義の体制に転換することをめざす「革命政党」だ。佐藤氏は史料をひも解きながら、あらためてこのことの深刻さを示す。
 第一次世界大戦中の1917年、革命によってロシアに世界初の社会主義政権が誕生した。レーニンは革命を〝輸出〟するために1919年、コミンテルン(共産主義インタナショナル)を設立する。これはロシア共産党を中心に、世界各国の共産党を「支部」とする中央集権型の国際組織だ。
 じつは日本共産党は、このコミンテルン日本支部として発足している。活動資金や武器もコミンテルンから流れていた。
 2020年に改訂された同党の最新の「綱領」では、巧妙な言い換えで「革命」という言葉は使われていない。だが、日本共産党が日本の体制を社会主義・共産主義に変えることを最終目標とした政党であることは紛れもない事実である。
 たとえば本書が刊行された翌月、日本共産党中央委員会は「しんぶん赤旗」に次のように声明を発表している。

ここで強調したいのは、日本共産党が、日本の政治を根底から変革する民主主義革命を綱領的任務とし、さらにすすんで社会主義・共産主義社会を築くことを目標にかかげる変革の党であり、革命政党だということです。(「しんぶん赤旗」2022年8月24日強調は筆者)

 同党は「民主主義革命」を経て「社会主義革命」に至るという二段階革命論を掲げている。
 この社会主義・共産主義体制への革命の方法として、日本共産党は1951年に武装闘争を掲げる綱領を発表した。
 実際、ここから日本共産党は全国各地で大規模な暴動や警察署の襲撃、警察官の射殺などを起こす。1952年に破壊活動防止法が制定され公安調査庁が設立されたのは、この日本共産党による数々のテロを受けてのものだった。

善意の人々が作る巨悪の支配する社会

 国会での議席を失った日本共産党は綱領を変更。武装闘争路線を表向きには否定してみせた。しかし、公安調査庁は民主党政権時代も含めて、今日まで一貫して日本共産党を調査対象団体とし警戒を緩めていない。

革命の形態が平和的になるか非平和的になるかは敵の出方によるとする「いわゆる敵の出方論」を採用し、暴力革命の可能性を否定することなく、現在に至っています。
こうしたことに鑑み、当庁は、共産党を破壊活動防止法に基づく調査対象団体としています。(公安調査庁「共産党が破防法に基づく調査対象団体であるとする当庁見解」

 2021年9月、当時の加藤勝信官房長官は記者の質問に答えるかたちで、政府として現在も、日本共産党は暴力革命の方針に変更はないと認識している旨を答えた。
 これに対し、日本共産党は「デマにデマを重ね」たものと猛反発した。
 佐藤氏は本書で、ほかならぬ日本共産党の重要な論文等を用いて、同党が〝暴力革命〟の方針を今も捨てていないことを論証する。
 さらに、佐藤氏は日本共産党が革命への方途として綱領に掲げる「統一戦線」に言及。「統一戦線」とは、同党が革命の第一段階である「民主主義革命」を達成するために、体制転覆へ他の政党や勢力と共闘すること。2015年以来、同党が進めてきた「野党共闘」こそ、この「統一戦線」戦術なのだ。
 格差是正を熱心に訴え、ジェンダー平等や気候問題にも積極的な姿勢を見せる。「なにより、いのち」と掲げ、権力に対して異議申し立てをする。こうした姿に、日本共産党を〝弱者の味方〟というイメージで見る人もいる。
 しかし、それはこの政党の一側面に過ぎないと佐藤氏は言う。あくまでも「革命」を目的とし、その途上である今は戦略的にソフト路線を打ち出しているのだ、と。
 佐藤氏は、

日本共産党員には真面目な人が多い。問題はその真面目さをこの政党が何のために用いているかということだ。(本書)

と綴る。
 そして、たとえばキリスト教の人間観が性悪説であるのに対し、日本共産党は性善説に立っていると見る。それは、共産党員のなかにもあるはずの権力欲や嫉妬心などネガティブ要素を過小評価し、人間的弱点は党の活動を通して克服されるというような人間観だ。

ソ連のスターリン体制の原理も性善説だった。そこから生まれたのは収容所群島に示されるような抑圧的体制だった。善意の人々が、巨悪の支配する社会を作り出したのだ。(本書)

「なにより、いのち。」の裏にある、もう一つの姿。封印された恐ろしい歴史や革命政党の戦略を知らず、日本共産党に期待やシンパシーを抱いてしまう人々へ、インテリジェンスの専門家からの警告の書である。

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