立憲民主党を蝕む「陰謀論」――もはや党内は無法地帯

ライター
松田 明

立憲民主党・岡田幹事長

ウクライナ大使館が異例の抗議

 支持率の低迷、党内の不協和音が続く立憲民主党執行部に、新たな〝悩みのタネ〟が出てきた。
 9月14日、立憲民主党は岡田克也幹事長が同党の原口一博衆議院議員を口頭注意したと発表した。
 原口氏は1959年生まれ。東京大学卒業。佐賀県議会議員(自民党所属)を経て1996年に衆議院議員(新進党)。1998年に民主党に合流し、2009年に民主党政権が発足すると総務大臣に就任した。
 2012年には民主党代表選に立候補するも落選。民進党を経て2018年、国民民主党の代表代行。2020年に立憲民主党に参加。2023年4月、悪性リンパ腫であることを公表した。6月の国会質問で「がんが消えた」と発表している。
 さて問題となったのは、9月12日にYouTubeで配信された番組内での原口議員の発言だった。原口議員はウクライナをめぐって「日本はネオナチ政権の後ろにいる」などと発言した。
 翌13日、在日ウクライナ大使館はX(旧ツイッター)で、

在日ウクライナ大使館は、SNS 経由発信された原口一博議員によるウクライナに関する発言につき、強い懸念を表するとともに、日本国会によるウクライナ支持決議に相違するものとして、絶対に受け入れません。(9月13日のウクライナ大使館の投稿

と異例の抗議を表明。
 原口議員は、「ウクライナがネオナチだ」とロシアが言っているという趣旨だと釈明したようだが、岡田幹事長としては「重大な誤解を招きかねない不適切発言だ」と口頭注意した。

「ワクチンを売るためにウイルスを作った」

 というのも、原口議員の危うい発言はこれが初めてではないからだ。わずか3週間前の8月22日にも、岡田幹事長が口頭注意したことが報道されている。
 それは、原口議員が8月20日に佐賀市内で参政党の神谷宗幣議員(現・代表)と一緒に街頭演説をおこない、新型コロナワクチンをめぐる独自の「陰謀論」を展開したことについてだった。
 神谷氏は「反ワクチン」の陰謀論を主張している人物だ。原口議員は立憲民主党の街宣車で、その神谷氏のもとに駆け付けて演説。神谷氏の「反ワクチン」言説を絶賛した。
 そして、自分が「ワクチンを打った後に悪性リンパ腫になった」と発言。さらに、「このワクチンでガンが増えてる」「皆さんの周り、ワクチンでガンになって、あるいは亡くなったという方おられませんか」などと聴衆に向かって問いかけた。
 神谷氏が、「ビジネスのためにウイルスがばら撒かれた」という陰謀論を展開すると、原口氏も賛同して話がエスカレート。「5月3日にEU議会の有志」が報告した話だとして、

ウイルスが先にあるんじゃないんです。ワクチンが先にあって、これを機能獲得実験と言うんですが、ワクチンを売らんがためにウイルスを作っていた、こういったことがわかったんです。(「J-CASTニュース」8月24日

と語ったのだ。
 これには、さすがに同じ立憲民主党内からも批判が噴出した。米山隆一議員は、

「ウィルスが先にあったんじゃない、ワクチンが先にあって、ワクチンを売らんが為にウィルスを作っていたんです」との事ですが、それを裏付ける証拠は皆無で陰謀論が過ぎます。尚新型コロナワクチンにも、他の全てのワクチン同様、一定の副反応は報告されていますが、それ以上の物ではありません(8月21日の米山議員のXへの投稿

と投稿。J-CASTニュースでも「現地報道や欧州議会のウェブサイトでは、こういった調査結果は確認できない」と報じている。

浮かび上がった原口議員の情報源

 原口議員が数年前から「陰謀論」にはまっていることについては、立憲民主党の支持者をはじめ、さまざまな方面から懸念や批判が出ていた。
 精度の高い選挙予測で知られるJX通信社を創業した米重克洋氏は、7月に出版した『シン・情報戦略 誰にも「脳」を支配されない 情報爆発時代のサバイブ術』で、原口氏の名前を伏せながらも〈「陰謀論」にはまったある政治家〉と題した一節を綴っている。

この議員はかつて大臣として入閣した経験もあり、政治の世界にあってメディアやそれを取り巻く情報環境には比較的詳しい人物と見なされていた。だが、数年前から様子が変わってくる。Twitterで、新型コロナウイルスに関する未承認の薬を挙げて不確かな治療法を紹介してみたり、「ディープステート」など陰謀論者の間で頻出するキーワードを含む意見を投稿したりするようになったのだ。(『シン・情報戦略』)

 気になった米重氏は、原口氏の発言の一つひとつについて情報源を調べてみたという。

その結果、この議員は自らが所属する政党とは異なる、ある宗教系の政治団体の関係者が投稿するYouTube動画の主張を繰り返し引用していた他、ある「5ちゃんねる」のまとめブログや、ロシア国営メディアの記事などかなり多様な情報源に触れていたことが分かった。これらはいずれも、多くの人が一般的な社会生活の中でそうそう触れないような情報源であり、おそらく議員自身が好んで見に行っている可能性が高い。(前掲書)

 外交問題になりかねない原口氏の言動がようやく各メディアでも取り上げられたことで、米重氏は自著で紹介した「陰謀論にはまった政治家」が原口氏を指していることをXで明らかにした。

原口一博議員の陰謀論言説が漸く報道でも問題視されているが、実は7月に出した拙著「シン・情報戦略」でも掘り下げて分析していた。

彼の言説をよく調べると普段見ている情報源のサイトなり動画が分かる。放送行政も所管する総務大臣経験者とは思えないリテラシーで、なかなか厳しいものがある。(9月14日の投稿

立憲は「汚染水」発言を容認

 立憲民主党内には、海洋放出されたALPS処理水のことを執拗に「汚染水」と呼び続けて、日本共産党などと歩調を合わせ、風評加害にいそしむ議員が複数いる。
 原口議員は9月1日、自身のXに次のように投稿した。

汚染水を処理したと言っているが、これまでの彼らの答弁を踏まえて
「処理汚染水」とこれから呼ぶことにする。

言葉を抑え込めば、国民は黙るとでも思っているのか?
としそうならとても傲慢な態度だ。(原文ママ。9月1日の投稿

 なお、この投稿には誤情報の拡散を防ぐ機能「コミュニティノート」が付され、デブリに触れた「汚染水」とALPSで処理されトリチウム以外の放射性物質を規制基準以下まで取り除いた「処理水」は明確に異なり、ALPS処理後の水を「汚染水」と呼ぶことはミスリードになる恐れがあると警告されている。
 しかし、立憲民主党は幹部以外の議員が「汚染水」と表現することを容認する方針らしい。岡田幹事長は9月12日の記者会見で、

立民の一部議員が党の公式見解である「処理水」と異なる「汚染水」との表現を用いていることなどに関しては、「党で決まったことはしっかり守ってもらう必要がある」としつつ、「だからといって個々の議員が(意見を)言えなくなるようなことにはしたくないというのが私の信念だ」と語った。「党で重要な役割がある人間は(汚染水との表現を)控えるべきだ」との見解も示した。(『産経新聞』9月12日

「党で決まったことはしっかり守ってもらう必要がある」と言いながら、幹部でなければ「汚染水」と騒いでもOKというのは意味が分からない。
 党の街宣車で他党と一緒に「反ワクチン」の陰謀論をばら撒く議員も野放し。野党第一党でありながら、もはや政党としてのガバナンスがまったく効いていない。いよいよ末期的症状の立憲民主党である。

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