「風評加害者」は誰なのか――〝汚染水〟と騒ぎ続ける人々

ライター
松田 明

「放射線の影響は無視できるほど」

 8月24日午後1時、東京電力は福島第一原子力発電所に溜まるALPS処理水の海洋放出を開始した。
 福島第一原子力発電所では事故によって溶け落ちた核燃料(デブリ)を大量の水で冷やし続けてきた。この冷却水や建屋に入る雨水、地下水など、放射性物質を含んだ水が1日あたり90トン発生する。
 この水は多核種除去設備(ALPS)を使って放射性物質の量を国の基準値以下に下げたうえで、1070基を超える敷地内のタンクに保管されてきた。
 ただ、既に貯蔵可能な容量の限界に近付いていることと、なにより将来の廃炉時点ではこれらタンクもゼロになっている必要がある。
 そこで2021年4月に日本政府は海洋放出を選択した。WHO(世界保健機関)の飲料水基準のさらに7分の1程度にまで希釈して今後30年かけて放出する。
 この決定を受けてIAEA(国際原子力機関)は原子力安全・核セキュリティ局のグスタボ・カルーソ調整官ら6人の職員、アルゼンチン、フランス、米国、ロシア、英国、ベトナム、韓国、中国などの専門家を現地に派遣し、約2年を費やしてALPS処理水について検証してきた。
 2023年7月4日、IAEAのグロッシ事務局長は11カ国の専門家の助言を受けた包括報告書を岸田首相に提出。「ALPS処理水の放出は国際基準に適合して実施されており、人および環境に対し放射線の影響は無視できるほどになる」との評価を公表した(ALPS処理水の安全性に関する「包括報告書」)。
 包括報告書ではさらに、

①放出中・放出後も長年にわたってALPS処理水の海洋放出の安全性確保にIAEAがコミットする。
②東京電力福島第一原子力発電所での活動を継続し、放出に関するデータをリアルタイムで国際社会に提供していく。
③追加のレビューやモニタリングを継続し、国際社会に透明性と安心を提供する。

としている。

排出総量は年間0.06グラム

 多核種除去設備(ALPS)で唯一取り除くことが困難なのがトリチウム(三重水素)だった。性質が極めて水と似ているため、切り離すことができないのだ。
 ただし、そもそもトリチウムは雨水や河川、人間を含むさまざまな生物の体内など自然界に存在する。自然界では、年間あたり約7京ベクレルのトリチウムが生成されており、総量は約100~130京ベクレルと推計されている。
 トリチウムから発生する放射線は非常に弱く、皮膚や衣服を通さないので被曝することもなく、人体に摂取した場合も臓器に蓄積されることがない。

放射線防護を専門とする科学者の中で放出に反対している人は一人も知らない(英ポーツマス大学ジム・スミス教授/『読売新聞』8月24日

 したがって、世界各国の原発でもトリチウムを含んだ処理水の海洋放出が過去数十年にわたっておこなわれている。
 今回の日本の海洋放出に対し、北朝鮮や中国などは強い反発と非難を寄せ中止を求めているが、欧米や韓国、中国の原発は、桁違いに大量のトリチウムを含んだ処理水を海に放出し続けている(資料「世界の主要な原発におけるトリチウムの年間処分量」)。
 中国国内では海洋汚染の不安から食塩の買い占めパニックや、現地の日本人学校への嫌がらせ、日本への無差別な抗議電話などが続いている。多くの中国国民は自国の複数の原発が中国沿岸にトリチウムを含んだ処理水を放出している事実を知らないのではないか。

太平洋の海水にはすでに8400グラムの純粋なトリチウムが存在する。今回、1年に渡って放出される処理水に含まれるトリチウムの総量は0.06グラム。放射線もここまで微量なら、何の影響もない。(豪カーティン大学ナイジェル・マークス准教授(物理学者)/「ニューズウィーク日本版」8月23日

風評を煽る特定政党の支持者たち

 ANNが8月19~20日に実施した世論調査では、海洋放出「賛成」が54%で「反対」33%を上回った。科学的知見に照らして、福島県産を含めて水産物の安全性に問題がないことを、既に多くの人々が理解しつつある。
 海洋放出開始翌日の8月25日も、東京築地の場外市場はいつものように外国人観光客らでにぎわった。
 一方で、科学的な知見を無視してネガティブな「風評」を煽り、不安を拡大させることに余念がない人々もいる。
 計算社会科学者でソーシャルメディアにおける情報拡散研究の第一人者である鳥海不二夫・東京大学大学院教授が、2023年7月のSNS投稿を分析した。その結果は驚くべきものだった(「処理水の放出に反対しているのは誰か」)。
 処理水の放出に反対の投稿をしているのは、突出して「れいわ新選組」「日本共産党」「立憲民主党」の支持者アカウントで、その他の党派アカウントからの投稿はほぼゼロに近かったのだ。
 しかも、これら反対派に「風評」への言及がほとんどないことも判明した。彼らは漁業関係者らが受ける風評被害を理由に反対しているわけではないのだ。IAEAが出した科学的知見も無視し、ひたすらイデオロギー的な思惑で人々の不安を増幅させているのであろう。
 とくに日本共産党とれいわ新選組は、あえて処理水を〝汚染水〟と呼び続ける悪質さだ。「原発汚染水の海洋放出反対!」というポスターを福島県内の道路沿いなどに貼り出したのも日本共産党だった。

〝汚染水〟と騒ぎ続ける立憲議員

 海洋放出が開始された8月24日、立憲民主党は党の復興対策本部の議員らを福島入りさせ、漁業関係者らと意見交換した。このなかで、立憲民主党は「政府に対して万全の風評対策を求めている」と述べたという。
 また同じ日に泉健太代表は自身のXを更新し、

私たち立憲民主党は福島の漁業者を応援していく。(同日午後2時16分の投稿

中国による日本の水産物を全面禁輸。このような措置は全く不当で間違っている。中国には撤回を求める。
ただ日本中の漁業関係者を助けたい。国内では国産の海産物の消費を増やす取り組みを。そして国会議員は世界各国に日本の海産物市場の開拓を。(同日午後7時45分の投稿

などと投稿した。
 しかし、処理水のことを巧妙に「ALPS処理汚染水」などと言い換えて放出に反対し、風評被害を助長し続ける議員らが立憲民主党内にはいる。
 IAEAから包括報告書が出された後も、7月12日には阿部知子衆議院議員ら立憲民主党の議員5人が、れいわ新選組の議員や社民党の福島瑞穂代表らとともに、韓国の最大野党と海洋放出に反対する「共同声明」を発表。阿部議員にいたっては日本外国特派員協会での共同記者会見にまで臨んだ。
 また8月27日、立憲民主党の石垣のり子参議院議員は、社民党の福島代表や日本共産党の小池晃書記局長らとともに、いわき市小名浜での抗議集会に参加。「党を代表して伺わせていただいた」「海洋汚染を広げていく可能性も否定できない」などと挨拶した。
 立憲民主党は「日本中の漁業者を助けたい」「中国には撤回を求める」などと白々しいことを言う前に、まず自分の党内で悪質な「風評加害」に加担してきた議員に対し、きちんとした撤回と謝罪をさせるべきではないのか。
 日本政府は国際社会に対し正確な情報発信と忍耐強い交渉を重ねてきた。
 5月の広島サミット首脳宣言にも、処理水の海洋放出に関しIAEAの検証を支持すると明記した。こうした外交努力の結果、EUが日本産食品の輸入規制を8月3日に撤廃したことをうけて、ノルウェー、アイスランド、スイス、リヒテンシュタインなども輸入規制を撤廃した。
 陰謀論者さながら科学的知見すら無視し、「風評」を煽り続ける日本共産党やれいわ新選組、立憲民主党の一部議員たち。報道に名を借りて、売るために人々の不安を煽り立ててきた一部メディアや記者。情報リテラシーを欠き、こうしたデマに踊らされて「風評加害」を拡散してきた一部の著名人やインフルエンサーたち。
 日本社会を分断し、今なお意図的に被災地の人々や水産業関係者らを苦しめているのは誰なのか。原発事故を引き起こした者たちの責任がいかに大きくとも、そのことで「風評」を煽ってよいわけがなく、こうした悪質な「風評加害者」たちの責任を不問に付されてよいわけもない。
 なお環境省は8月25日に周辺海域11地点で海水を採取したが、全地点でトリチウムは検出下限値を下回った。セシウム137などのガンマ線核種もすべて下限値未満だった
 また水産庁は26日、周辺海域で採取した魚類に含まれるトリチウム濃度が、検出下限値さえ下回っていたと発表した。

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