共産党新執行部の憂鬱な船出――党の内外から批判が噴出

ライター
松田 明

批判が公然と噴出した党大会

 静岡県熱海市で開催されていた日本共産党の第29回党大会が1月18日に閉幕した。
 2000年11月から23年間にわたって党中央委員会幹部会委員長を務めてきた志位和夫氏が退任して、新たに議長に就任。副委員長だった田村智子参議院議員が、第6代委員長に就任した。
 田村氏はまだ50代であり、しかも日本共産党の100年の歴史で初となる女性党首の誕生である。既に昨年秋ごろから田村氏の登用がささやかれていたこともあり、女性党首の誕生には党派を超えて期待の声もあがっていた。
 あるいは他の与野党のなかからも、共産党が女性党首になれば同党への従来のイメージも変わり、選挙を戦う上では脅威になるだろうという声も漏れ伝わっていた。
 ところが、この党大会では党の内外から田村氏に対する猛烈な批判が公然と噴出。イメージチェンジどころか、日本共産党の閉鎖的な体質をさらに色濃く示すものになり、党内の亀裂が大きく露呈する結果となった。

大きく退潮した志位氏の23年間

 志位氏が党首を務めていた23年間、日本共産党は大きく退潮した。ピーク時の1990年には約50万人いた党員も、現在では25万人にまで減少。しかも高齢化が著しい。
 機関紙の「しんぶん赤旗」も部数が激減して、発行それ自体が危機的状況にあると認めざるを得ない状況になっている。
 志位氏が委員長に就いた時点で衆参あわせて43人いた国会議員も、今では半数以下の21人。自社さ政権が解消した反動で行き場をなくした不満票が集中した98年の第18回参院選では819万票を超えた比例票が、22年の第26回参院選では361万票台まで激減した。
 おまけに平和安全法制の成立を契機に2015年暮れから日本共産党が実質的に主導してきた〝野党共闘〟も失敗。共産党との共闘に失望した議員らが次々に離反して旧民主党勢力は完全に解体し、今に至る〝まとまれない野党〟の状況を作り出してしまった。
 かろうじて野党第一党になった立憲民主党も、日本共産党との「政権協力」が取り沙汰されたことで大敗し、枝野幸男氏ら党の創業執行部が総退陣することになった。
 ここまで党勢の凋落と選挙戦略の失敗を招きながら、それでも志位氏が党首の座に居座り続けたことについて、近年、さすがに党内から公然と批判の声があがっていたのである。
 2023年に入ると、かつて全学連委員長から日本共産党専従職員になった経歴を持つ松竹信幸氏が書籍を出版。非現実的な安全保障政策の転換と、党首の公選制を訴えた。
 また、党員歴60年を超え京都の同党の基盤を築いてきた重鎮である鈴木元氏も著書を出版し、党の改革と執行部の刷新を求めた。
 すると、日本共産党は〝分派活動〟だとして彼らを相次いで除名。これには同党に親和的だった論者らからも失望の声があがり、『朝日新聞』『毎日新聞』も〝異論を許さない体質でよいのか〟と社説で疑義を呈した。
 同党は朝日や毎日にさえ〝大軍拡反対への連帯の分断〟などと反発。こうした体質に党内外から批判と失望の声があがり、4月の統一地方選挙では135議席を失うという大敗北を喫したのだった。

「共産党は怖い」と言われた

 志位氏がようやく委員長を辞し田村氏を起用するという観測が出たことで、日本共産党も少しは民主的で開かれた党に変わるのではないかという期待感があった。
 ところが、この党大会はこうした内外の期待を見事に粉砕する結果となったのだ。
 まず大会2日目の16日、除名処分の再審査を要求していた松竹氏の申し立てが党から却下された。
 同じ日におこなわれた「討論」で、神奈川県議団の大山奈々子氏は、松竹氏らが相次いで除名処分となったことについて、次のように周囲からの率直な声を伝えた。

昨年地方選前に松竹氏の著作が発刊され、その後まもなく彼は除名処分となりました。私は本を読んでいませんが、何人もの人から「やはり共産党は怖い」「除名はだめだ」と言われました。将来共産党が政権をとったら、国民をこんなふうに統制すると思えてしまうと。問題は出版したことよりも除名処分ではないでしょうか。(『しんぶん赤旗』1月18日

 大山県議は、かつて希望の党が急速に人心を失ったのは小池都知事による「排除します」発言だったことを挙げ、あのときに国民が感じた失望が今は共産党に向けられていると率直に述べた。そして、党が民主的である証左として、排除の論理ではなく包摂の論理で除名を撤回するよう求めたのだった。
 大山氏の危機感と具申は、きわめてまっとうである。

大山発言をつるし上げた田村氏

 ところが、18日に討論の「結語」に立った田村氏は、インターネット中継までされている満座の席で、この大山発言を次のように〝糾弾〟した。

 党大会での発言は、一般的に自由であり、自由な発言を保障しています。しかし、この発言者の発言内容は極めて重大です。私は、「除名処分を行ったことが問題」という発言を行った発言者について、まず、発言者の姿勢に根本的な問題があることを厳しく指摘いたします。発言者は、「問題は、出版したことより除名処分ではないか」と発言しながら、除名処分のどこが問題なのかを、何も示していません。発言者は、元党員が、綱領と規約にどのような攻撃を行ったかを検証することも、公表している党の主張、見解の何が問題なのかも何一つ、具体的に指摘していません。
 発言者が述べたのは、ただ、「党内外の人がこう言っている」、ということだけです。党内外の人が言っていることのみをもって、「処分が問題」と断じるのは、あまりにも党員としての主体性を欠き、誠実さを欠く発言だといわなければなりません。(『しんぶん赤旗』1月20日

 大山氏ら希望の党の話を持ち出したことについても、

反共分裂主義によって野党共闘を破壊した大逆流と並べて、党の対応を批判するというのは、まったく節度を欠いた乱暴な発言というほかありません。(同)

 さらに除名は対話の拒否だと述べたことについても、「発言者は、批判の矛先を百八十度間違えている」とし、「この政治的本質をまったく理解していないことに、発言者の大きな問題がある」と斬って捨てた。

「田村発言は人格攻撃でハラスメント」

 この田村発言には、現職の共産党地方議員らからも非難と落胆の声があがった。今宮ゆうき相模原市議は自身のXで、

この糾弾はハラスメントであると考えます。謝罪と撤回が必要。市民の理解は得られない。(1月18日の今宮議員のポスト

と投稿。愛知県東郷町の門原武志町議も、

「発言者の姿勢に問題がある」とか「節度を欠いた」と衆目がある中で言うのはハラスメント。視聴してた私も被害者。すぐ党本部に電話し、閉会までに是正するよう求めた。(1月18日の門原議員のポスト

あれを聞いてて胸が締め付けられるような感じがした。吊し上げを食らったときのフラッシュバックかな? 会場であれをされ周りで万雷の拍手だった大山氏の気持ちは想像を絶する。もう反論できないのに後で何人にもされるって。(1月21日の門原議員のポスト

 他にも同様の投稿をした議員がいたが、糾弾されたのか削除している。
 共同通信(1月21日)は「共産・田村氏、出席者の発言糾弾 党大会、パワハラ指摘相次ぐ」「党内からは、田村氏の言動を疑問視する声が上がる」と報道。
 産経新聞も、

 党大会の様子はインターネット配信されており、田村氏の発言は党員に波紋を広げた。
 共産党のある地方議員は産経新聞の取材に「明らかなパワハラだ。見ていて気分も悪くなった。田村氏の結語について、地方組織で事後採決する際には一言言おうと思う」と語る。(『産経新聞』1月19日付

と、党内の声を伝えた。
 小池晃書記局長は19日の会見で、「田村氏の結語は『叱責』ではなく発言内容への批判です。発言者の人格を傷つけるようなものではありません」「理を尽くした言葉で語っています」「パワハラという指摘は違います」などと釈明した。
 だが、中央大学の中北浩爾教授は、

田村氏の「誠実さを欠く」「節度を欠く」などという指摘は、人格攻撃ではないでしょうか。
小池氏によると、あれで「打撃的な表現は避け」たそうです。そうだとしたら相当、一般社会の感覚から乖離していると思います。また、小池氏は「結語の案は中央委員会総会で真剣に集団的に議論したもの」とも。なおさら怖いと思います。(1月21日のヤフーコメント

とコメントを寄せた。
 党内から〝独裁〟と批判を浴びる中、志位氏が議長に昇格し、新たに田村氏が委員長に就任したわけだが、県の代表として意見を述べた議員をつるし上げる恐怖政治。しかもそれがパワハラだと党内から指摘されても、「パワハラではない」と開き直る体質。
 党外へのイメージ刷新の前に、党内の多くの人びとから悲鳴にも似た落胆の声が公然と上がった新執行部の船出となった。

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