災害に便乗する政治家たち――悪質な扇動と迷惑行為

ライター
松田 明

元日の能登半島を襲った地震

 元日に発生した最大震度7の「令和6年能登半島地震」は、能登半島の一帯に壊滅的な被害をもたらしている。石川県によると11日午前9時時点で県内の死者数は213人となり、安否不明者も依然52人いるとしている。
 能登半島は能登山地や多数の段丘から成っており、低平地が非常に乏しい。従来から日本でも有数の交通の難所であった。
 今回の地震では、もともと限られていた道路が各地で崩落・寸断されたうえ、海岸線も隆起して多数の港湾が使用不能になっている。発災直後に日没を迎えたことに加え、電気や通信網が寸断された地域も多く、被害状況の把握を困難にしてきた。
 政府は地震発生(16時10分)の1分後には首相官邸の危機管理センターに官邸対策室を設置。岸田首相は16時15分に、情報提供や被害状況の把握などの「総理指示」を発出した。

 地震発生を受けて同日午後5時16分ごろ、首相は官邸入り。政府は古賀篤副内閣相をトップとする内閣府の調査チームを編成し、自衛隊のヘリで石川県に派遣した。首相も坂口茂・輪島市長や泉谷満寿裕・珠洲市長から電話で被害状況などを聞き取った。(『毎日新聞』1月2日

 首相は1月3日の会見で、現地からの要請を待たずに先回りしてさまざまな手立てを講じる「プッシュ型」の支援をすると発表した。

「事実ではない」と台湾外交部が声明

 一方で、今回もさまざまなデマや被災者を装った詐欺行為などが、発生直後から出回っている。また残念ながら野党のなかにも、党利党略で震災に便乗したとしか思えないような対応が見られた。
 地震多発地域である台湾では、各県の消防当局が輪番制で国際緊急援助チームを常に準備している。能登半島地震でも、発災から3時間後には医療チームも含めて、いつでも日本に派遣できる態勢を整え待機していることをSNS等で発信した。
 ところが3日午後、日本側にニーズがないとして待機解除したことが発表されると、日本国内では「申し出を断った」という言説が飛び交った。
 じつは防災基本計画では、在日米軍を含む災害時の海外等の支援受け入れについて方針が定められている。即座に移動が可能であること、被災地に負担をかけない完全自己完結型であることなどだ。
 それでも到着した空港から被災地への移動手段は日本側が準備する必要があり、消防当局との連携や、通訳業務も含め各国に詳しい外務省職員が同行する必要がある。当然ながら、混乱する災害現場で外国の組織が勝手に判断して移動したり救援活動をおこなったりすることは不可能なのだ。
 東日本大震災の際も、消防庁が被災各県の災害対策本部と連絡を取り、さらに現場では全国から派遣されている緊急消防援助隊が活動場所の割り振りをして、各国救助隊の活動を支援している。
 阪神淡路大震災や東日本大震災と異なり、今回は能登半島というきわめてアクセスの困難な地域であり、もともと限られていた空港からの移動手段が各所で寸断されている。しかも、いつ大きな余震が起きて津波警報が発令されてもおかしくない状況だった。
 そこで日本政府は発災当初の時点では海外からの援助隊を受け入れられる状況にないこと、必要な段階になったらあらためて支援を求める可能性もあることを各国に伝えたのだった。
 日本国内で政府を批判する誤情報が広まったことで、台湾の外交部は報道官を通じて声明を発出した。

外交部(外務省)の劉永健(りゅうえいけん)報道官は4日、「台湾を断った」との言い方は「台日間の調整の事実とは合致せず、公平性を欠いている」とし、日本政府からは台湾の申し出に対して感謝が表明されたと明らかにした。(「フォーカス台湾」1月4日

徒歩で入っている自衛隊員

 さらに阪神淡路大震災や東日本大震災、熊本地震などと比較して「自衛隊の投入が遅い」「自衛隊の派遣規模が小さい」等の誤った批判も続いている。
 立憲民主党の泉健太代表も5日、「自衛隊が逐次投入になっており、あまりに遅く小規模だ」などと批判した。
 これも実情を無視したもので、野党第一党の党首としてきわめて無責任な発言だといわざるを得ない。
 たとえば熊本地震の際は、熊本市内に1万人の隊員が常駐する陸上自衛隊第8師団があった。被災地も平野部であり、大規模に人員を投入する人海作戦が有効だった。能登半島はほとんどが山間部で、航空自衛隊のレーダーサイトがあるのみ。自衛隊は外部から投入するしかない。
 防衛省は発災翌日の1月2日には1万人規模の統合任務部隊を編成し、実際には移動手段を確認しながら逐次投入とした。

 自衛隊は、地震発生翌日の2日までに2000人態勢を構築し、ヘリによる人員や物資の輸送、救助活動を実施。3日は4600人態勢で、重機を使った陸路の修復や給水・給食など生活支援にも活動を広げ、6日までに5400人規模に拡充した。(『毎日新聞』1月7日

 実際、7日の時点でもとくに珠洲市など北部地域は車両での移動ができず、自衛隊員らは二次災害の危険性があるなか、崩れた山の斜面を徒歩で移動して救援活動にあたっている(「防衛省・自衛隊(災害対策)」の投稿)。

立憲議員たちの悪質な扇動

 岸田首相は5日には、被災地支援のために2024年度予算の予備費を積み増すよう財務相に指示した。既に23年末に災害対応などに充てる予備費は5000億円と閣議決定していたが、異例の措置として再度の増額を指示したのだ。
 同日には国会内で与野党5党首と会談し、変更後の予算の早期成立に協力を要請した。

16年4月の熊本地震でも発災直後は一般予備費から支出した。政府はおよそ1カ月後に補正予算を編成し、地震からの復旧にあてる予備費として7000億円を用意した。
 首相は5日夜、首相官邸で記者団に「今回は熊本の例を超える財政需要も想定しなければならない」と語った。(『日本経済新聞』1月5日

 9日には、新年度予算案に盛り込まれた予備費について、現状の5000億円から1兆円に倍増させる方向で検討に入った。
 こうした大規模災害やパンデミック対応の初動において、政府が国会決議不要で使える「予備費」と、本格的な対応に使用するため国会で決議する「補正予算」はまったく別だ。
 ところが4日に「予備費40億円」という数字が報じられると、こうした初歩的なことさえ理解しない人々が、SNSなどで見当はずれな政府批判を展開した。
 悪質だったのは学者や政治家までそれに加勢したことだ。たとえば慶應大学名誉教授で経済学者の金子勝氏は、自身のXで、

【裏金キシダメ政権のカネの使い方】能登沖地震でキシダメは予備費に40億円支出ってどうなんだろう。裏金政治家たちが欠陥カード強制に2兆円も出し、軟弱地盤のプレハブ万博の建設費800億円に、警備費だけで200億円増額。辺野古は何兆円かかるかわからず。(1月5日の金子氏の投稿

と投稿。経済学者でありながら、もし本当に予備費と補正予算の違いを理解していないのであれば論外であるし、知っていて大衆を煽ったのであればとんでもない話だ。
 TBS記者出身で立憲民主党の杉尾ひでや参議院議員も、

能登半島地震の予備費使用がわずか40億円とは。大阪万博の、わずか半年使用されるだけのリングに344億円が投じられるのと比較してもありえない額。被災地への誤ったメッセージでもある。(1月4日の杉尾氏の投稿

と投稿した。
 翌日には、同じく立憲民主党の蓮舫参議院議員が、この杉尾氏の投稿を引用するかたちで、

建物倒壊による人的被害を鑑みてもなぜ予備費使用がこの額なのか。積算根拠を確認しています。(1月5日の蓮舫氏の投稿

とさらに煽るポストをした。
 TBS記者だった杉尾議員や野党第一党の党首を務めた経験のある蓮舫議員が、予備費の意味を知らないはずがない。災害に乗じて意図的に国民の不安と不満を煽るため、こうした発信をするのが今の立憲民主党なのだ。

迷惑でしかないパフォーマンス

 交通網が寸断されたことで、被災地域では各地で渋滞が発生し、救急車など緊急車両の通行に大きな支障が生じるなどしていた。石川県も馳知事も、「被災者の命にかかわる」として、能登半島への移動を控えるよう要請する発信を繰り返している。

石川県と北陸地方整備局は被災地での人命救助や復旧作業を進めるため、4日、能登地方への一般車両の移動を控えるよう協力を呼びかけました。(「NHK NEWSWEB」1月4日

 与野党党首らが被災地訪問を当面見合わせる申し合わせをしたのも、行けば随行スタッフや警備、報道関係者などの帯同、現地での受け入れ態勢が避けられないからだ。
 ところが、れいわ新撰組の山本太郎代表は、こうした地元の要請を無視してレンタカーで現地入り。1月5日に「電話ではなく、現場のNPOから直接話を聞くため、本日、能登半島は能登町に入った。」などとSNSに投稿した。
 自己完結型で行くどころか、炊き出しのカレーまでご馳走になったと本人が書いており、さすがに批判が殺到している。
 山本代表はその後も、政府や石川県に対してあれこれと「要請する」等と発信しているが、いずれも報道などで県や政府が把握していること以上のものは見当たらない。
 自分の行動を棚に上げ、1月7日夜になって、

外的要因(外部からの流入)が
様々な搬入のネックと考えるならば、
一刻も早く入り口から制限する以外ない。(1月7日夜の山本議員の投稿

などと投稿していたが、既に石川県は緊急車両の通行を優先するため、この日の午前中に一般車両通行止めを発表している。
 1月9日19時からのNHK「ニュース7」にオンラインで出演した坂口茂・輪島市長も、今後の生活再建に向けて国の支援や義援金などが必要だと述べたうえで「個人的なサポートは、今現在、交通状況が非常に悪くて渋滞となっていますので、今は来ていただくことはご遠慮いただきたい」と発言している。
 政府の委託を受けた製パン会社や大手コンビニチェーン、スーパーなどのほか、災害支援のノウハウがあるNPOなどは、県や関係省庁と連携しながら救援活動にあたっている。売名系ユーチューバーや、それらと大差ない政治家の派手なパフォーマンスは、現場の救援活動を混乱させる迷惑行為でしかない。
 災害に乗じて国民の不安や不満を増幅させようとするだけの人々。こうしたデマや扇動に釣られることのないリテラシーを持ちたい。

「立憲民主党」関連記事:
「立憲共産党」の悪夢ふたたび――立憲民主党の前途多難
立憲民主党を蝕む「陰謀論」――もはや党内は無法地帯
手段が目的化した立憲民主党――信頼を失っていく野党①
立民、沈む〝泥船〟の行方――「立憲共産党」路線が復活か
民主主義を壊すのは誰か――コア支持層めあての愚行と蛮行
旧統一協会問題が露呈したもの――宗教への無知を見せた野党
憲法無視の立憲民主党――国会で「信仰の告白」を迫る
枝野氏「減税は間違いだった」――迷走する野党第一党
2連敗した立民と共産――参院選でも厳しい審判
まやかしの〝消費減税〟――無責任きわまる野党の公約
ワクチン接種の足を引っ張る野党――立憲と共産の迷走

「日本維新の会」関連記事:
野党それぞれの「お家事情」――「連合政権構想」も立ち消え
万博でアタマを抱える維新――国への責任転嫁に批判強まる
維新の不祥事は平常運転――横領、性的暴行、除名、離党
維新「二重報酬」のスジ悪さ――まだまだ続く不祥事
やっぱり不祥事が止まらない維新――パワハラ・セクハラ・カネ
維新、止まらない不祥事――信頼を失っていく野党②
「維新」の強さ。その光と影(上)――誰が維新を支持しているのか
「維新」の強さ。その光と影(下)――〝強さ〟がはらむリスクと脆さ

民主党政権とは何だったのか――今また蘇る〝亡霊〟

「日本共産党」関連記事:
それでも「汚染水」と叫ぶ共産党――「汚染魚」と投稿した候補者
「風評加害者」は誰なのか――〝汚染水〟と騒ぎ続ける人々
共産党VSコミュニティノート――信頼を失っていく野党④
孤立を深める日本共産党――信頼を失っていく野党③
日本共産党と「情報災害」――糾弾された同党の〝風評加害〟
「革命政党」共産党の憂うつ――止まらぬ退潮と内部からの批判
共産党「実績横取り」3連発――もはやお家芸のデマ宣伝
暴走止まらぬ共産党執行部――2人目の古参党員も「除名」
日本共産党を悩ます〝醜聞〟――相次ぐ性犯罪と執行部批判
書評『日本共産党の100年』――「なにより、いのち。」の裏側
日本共産党 暗黒の百年史――話題の書籍を読む
日本共産党と「情報災害」――糾弾された同党の〝風評加害〟
日本共産党と「暴力革命」――政府が警戒を解かない理由
宗教を蔑視する日本共産党――GHQ草案が退けた暴論
宗教攻撃を始めた日本共産党――憲法を踏みにじる暴挙
西東京市長選挙と共産党―糾弾してきた人物を担ぐ
「共産党偽装FAX」その後―浮き彫りになった体質
北朝鮮帰国事業に熱心だった日本共産党の罪


まつだ・あきら●ライター。都内の編集プロダクションに勤務。2015年から「WEB第三文明」にコラムを不定期に執筆している。著書に『日本の政治、次への課題』(第三文明社)。