沖縄伝統空手のいま 特別番外編⑨ 沖空連主催「空手道古武道演武大会」

ジャーナリスト
柳原滋雄

今年の男子団体組手は上地流が優勝

 1981年、松林流の長嶺将真(1907-1997)によって設立された「沖縄県空手道連盟」(全日本空手道連盟の下部団体、以下「沖空連」)が主催する恒例の「空手道古武道演武大会」が3月3日、沖縄県立武道館アリーナ棟で開催された。
 毎年1回定期開催されるこの大会は、コロナ禍により2020年から22年まで中止を余儀なくされたものの、昨年、沖縄空手会館で再開。今年はさらに広い会場の県立武道館に戻った形となった。大人から子どもまで総勢1000人近いメンバーが関わる演武大会としても知られる。

団体組手の様子

 午前中は競技空手団体の象徴ともいえる組手団体戦が行われ、男子では初めて編成出場した「沖縄県上地流空手道連盟」が優勝、「拳龍同志会」が準優勝の結果となった。昨年大会では東京オリンピックの男子形部門で金メダルを獲得した喜友名諒も所属する「劉衛流龍鳳会」が流派全体としてチーム編成し、好成績(優勝)を収めた。それに触発される形で今年は実践空手で知られる上地流が各道場の垣根をこえて流派として初の選抜チームを編成した。蓋を開くと沖縄市の名門・拳龍同志会との決勝戦となった。
「上地流」は先鋒、次鋒とも上段突きを連取されていずれも敗退するも、中堅、副将が連続勝利し、最後の大将同士の対決に持ち越された。上地流の大将は元アジアチャンピオンで沖縄尚学空手部顧問の国吉洋一郎(沖空連事務局長)。一方、拳龍同志会は新城孝弘会長(沖空連理事)の5男の新城志(つかさ)。最初の2本を素早い動きで新城が連取し、奇跡を起こすかに見えたが、後半、キャリアで勝る国吉が4-4で追いつき、残り1分を6-4で振り切った。拳龍同志会にとっても初優勝がかかった決勝戦となったが、「上地地流空手道連盟」に軍配が上がる形となった。
 一方、組手女子部門の決勝戦は常連の「沖縄県警察空手道クラブ」と、「凛道場」が1-1でこちらも大将戦にもつれこんだ。最後の一戦は前半・中盤とも凛道場が優勢で、残りラスト1秒で県警クラブ選手の上段回し蹴りが決まり、劇的な県警クラブ側の逆転勝利となった。

恒例の演武大会

 午後は恒例の演武大会(こちらは競技空手ではなく沖縄伝統空手)。現沖縄県知事で、沖縄空手4団体を束ねる沖縄伝統空手道振興会(以下振興会)会長を兼務する玉城デニー知事が昨年に引きつづき祝辞を述べた。
 演武1番手はいつものように沖縄尚学高等学校。学校全体で空手を義務づけ、卒業までに多くの生徒が黒帯を取得する国際貢献の武器としての空手を全校で練習する私立学校(中・高)だ。今年も163人の高校生徒が普及型Ⅰを一斉演武し、その後は上地流、剛柔流、小林流、松林流の各流派に分かれ、それぞれカンシュウ、サイファ、ピンアン3段、アーナンクーの型を披露した。

沖縄県警クラブの力強い演武(サンチン)

 その後は剛柔流、松林流、本部御殿手(もとぶうどぅんでぃ)の演武などがつづいたほか、少年少女団体で統率のとれた演武の光る2つの団体が目についた。
 1つは琉球武術研究同友会・真形館空手道場。子どもたちが平安初段とワンシュウを演じると、師範席からは「よく練習している」などの声がもれた。指揮者の下地英作は松林流や山根知念流棒術で知られる大城利弘師範の直弟子にあたる。
 もう1つは五輪金メダルで脚光をあびた劉衛流龍鳳会のSKW(サクモト・カラテ・ワールド)強化選手の中から選抜された小学生33人によるサンセールとクルルンファだった。現在、劉衛流会員は県内866人を数え、県内最多団体に成長。オリンピックで空手はパリ(2024年)、ロサンゼルス(2028年)ともに正式種目から外れたが、その先どうなるかはわからない。空手が正式種目として復活した際は、これらの子どもたちが有力選手に成長している可能性がある。

劉衛流の統率のとれた少年少女演武(クルルンファ)

 一方、型の集団演武に加え、沖縄県警察空手道クラブ(上地流)や上地流空手道拳優会による恒例の「試し割」(板割り、角材折りなど)も行われた。さらに各団体から棒やサイ、トンファー、ヌンチャクを使った古武道が活発に披露された。特に昨年、金城政和会長(上地流久場川修武館長)が逝去した琉球古武道保存会総本部は、長男の金城憲(さとし)の指揮で久場川のトンファーを勇壮に演じた。
 全16本の演目の最後は、上地流空手道協会・新城清秀会長(沖空連副会長)による個人演武(サンセーリュー)が行われた。
 沖空連では平良慶孝会長が3期6年の1つの区切りを迎え、春の理事会で新会長が選出される可能性がある。さらに沖縄空手全体としては、県と振興会が主催する「第2回沖縄空手少年少女世界大会」が8月8~12日の日程で開催予定。4年に一度開催される大会でこれまで県内予選会が行われてきた。
 記者が沖空連の演武大会を取材したのは2018年から数えて4回目となる。取材のたびに、小林流、松林流、剛柔流、上地流の沖縄4大流派のほか、劉衛流や各種古武道など沖縄空手の多様性に胸を打たれてきた。ちなみに玉城デニー知事は、公務の傍ら上地流空手の稽古を続け、知事就任後、黒帯を取得したことでも知られる。空手は沖縄を代表する最重要の無形文化財として定着して久しい。

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やなぎはら・しげお●1965年生まれ、佐賀県出身。早稲田大学卒業後、編集プロダクション勤務、政党機関紙記者などを経て、1997年からフリーのジャーナリスト。東京都在住。