沖縄伝統空手のいま~世界に飛翔したカラテの源流 第46回 特別編⑤(最終回) 沖縄県空手振興課長インタビュー

ジャーナリスト
柳原滋雄

 沖縄県の空手振興課長が交代した。「異例」となる4年間の任期を終えた山川前課長からバトンを引き継いだ佐和田勇人課長に、これまでの歩みと展望について聞いた。(取材/2020年4月3日)

2022年までにユネスコ申請まで持って行きたい

インタビューに応じる就任3日目の佐和田課長(2020年4月)

――このたびは課長就任おめでとうございます。空手振興課で2018年4月から2年間仕事をされてきたということですが、この間の一番大きな出来事は何でしょうか。

佐和田勇人課長 2018年8月に開催した「第1回沖縄空手国際大会」です。世界約50の国と地域から延べ3,200人の空手家が沖縄に集結し、8月1日~7日まで沖縄空手会館を中心に先人たちが残した沖縄空手の技を競うと共に、セミナーやフェアウエルパーティー等をとおして交流を深めることができました。また、2018年3月に策定した「沖縄空手振興ビジョン」の具体的な行程等となる「沖縄空手振興ビジョンロードマップ」を2019年3月に策定しました。昨年の4月からスタートしたので、今年で2年目に入ります。ロードマップは5年間の計画をまとめたものですが、いちばん大きな目玉はユネスコの無形文化遺産への取り組み、もう一つは沖縄伝統空手道振興会の法人化になります。

――振興会を法人化するメリットは大きいのですか。

佐和田課長 ご存じのとおり、沖縄伝統空手道振興会は2008年2月に沖縄の4つの空手団体が沖縄県知事を筆頭に一つにまとまった組織です。会長は県知事で、副会長に4団体の会長が就任しています。たとえば10月25日に行われる「空手の日」のイベント事業ですが、「奉納演武」とその直近の日曜日に国際通りにて毎年約2000名以上の空手家が集い、一斉演武や各流派に分かれて演武を行う「記念演武祭」があります。現在は県から委託された民間の事業者が請け負って事業を展開しており、空手家は実演するだけになっています。このような事業を振興会が法人化ししっかりとした組織を確立した上で受託し、それを基に自走化するのが望ましいと考えています。振興会の組織強化が沖縄空手界の発展につながるのです。

――法人化のめどは立っていますか。

佐和田課長 今年度(2020年度)中に振興会と調整を進めて一般社団法人として立ち上げたいと考えています。あとは沖縄空手界の悲願であるユネスコの無形文化遺産の登録に向け、本格的に協議会を立ち上げ、県内の空手家、経済界や有識者と一緒になって県内での気運の醸成を図っていこうと考えています。

――ユネスコの登録問題は、前任の山川課長も「長期戦」と語っていましたが、どのくらいのスパンで考えていますか。

佐和田課長 沖縄の本土復帰50周年となる2022年をひとつの目標にしています。ハードルは高いのですが、この年までには申請ができるところまで持っていきたいと考えています。一つの国から一年に一つしか申請ができないのですが、すでに200~300件が申請を待っている状況と聞いています。そこをどうクリアしていくかという大きな課題があります。

2018年10月に行われた「空手の日」記念演武祭(那覇市・国際通り)

――日本からの申請で、武道が対象になったことはない。

佐和田課長 日本からはこれまで和食を除くと芸能と工芸技術しか推薦されていません。剣道や柔道などいろいろな武道がある中で、沖縄空手を独自の文化としてとらえ、どう持っていくかが最大の課題です。ブラジルのカポエラや韓国のテッキョンは、それぞれユネスコにすでに登録されていることを考えると不可能ではないと考えています。

――集団型演武のギネス登録ですが、来年度(2021年度)がチャンスですね。

佐和田課長 5年に一度の「世界のウチナーンチュ大会」が2021年10月の後半に開かれます。世界のウチナーンチュの中にも多くの空手愛好家がいると聞いているので、一緒になってギネスに再挑戦し、インドの5797人を超えられればと考えています。

「沖縄空手少年少女国際大会」の開催へ

――2018年に行った第1回沖縄空手国際大会ですが、2回目の開催はどうなりますか。

佐和田課長 来年度(2021年)、「第1回沖縄空手少年少女世界大会」を開催する予定です。東京オリンピックが2021年(7~8月)に延期されましたので、時期がかぶらないように、その前後で開催する予定です。前回の大会は15歳以上が対象でしたが、この大会は15歳以下の小学生や中学生が対象になります。それが終わって準備がまとまり次第、2022年か2023年に「第2回沖縄空手世界大会」を開催する予定です。

――上地流から始まった県主導でつくる流派「解説書」の作成が、剛柔流まで終わりました。現在、首里・泊手の作業に入っていると聞いています。

佐和田課長 沖縄空手の歴史研究や人材育成に資するために始まった事業です。沖縄空手の各流派の特徴を調査・研究し、体系的に記録保存します。首里・泊手系については昨年度から作業に入っており、今年度作業を終えることになります。

――課長自身も空手をやってこられたと聞きました。

佐和田課長 学生時代から上地流空手を約30年やっています。もともと父親がやっていたので、自然と同じ流派を学ぶことになりました。空手は奥が深くまだまだ発展途上です。これからも鍛錬を続けていきたいと思います。空手をやっていることもあって、空手振興課に配属されたかもしれませんね。

2017年3月に開館した〝沖縄空手の殿堂〟「沖縄空手会館」(豊見城市)

――空手振興課は4年間でかなり多彩なことをやってこられた印象があります……。

佐和田課長 2016年4月に空手振興課が発足し、その年の10月に空手家による一斉演武で3973人のギネス登録、その翌年の3月4日には空手会館がオープン、2018年3月に沖縄空手振興ビジョンの策定、さらにその翌年には具体的な行程等となる沖縄空手振興ビジョンロードマップの策定。その他にも、沖縄空手を海外で指導する海外指導者派遣事業があります。また、沖縄空手普及・啓発事業では、国内で開催される各種イベントに空手の先生方をお連れして本場沖縄の空手の型等をお見せし、「空手発祥の地・沖縄」を発信してきました。「空手発祥の地・沖縄」の認知度は、本土ではまだ35%程度です。沖縄空手会館も含めて、これからもどんどん「空手発祥の地・沖縄」を発信していこうと考えています。このようにいろいろな空手の保存・普及・発展に資する事業を展開し、最終的にはユネスコに登録できるよう、任期中に申請までぜひ持っていきたいですね。

――それが最大の目標になりますか。

佐和田課長 そうなります。

――日本からユネスコに何を申請するか最終的に決めるのはだれですか。

佐和田課長 文化庁です。沖縄県民や空手愛好家からもユネスコ無形文化遺産への登録を求める機運が出ていますで、県(行政)と民間が一体となって双方向から推進していければと思います。

――東京オリンピックで喜友名諒選手が勝てば、ユネスコ登録の追い風になりますか。

佐和田課長 伝統空手と競技空手は両輪と考えています。空手発祥の地・沖縄出身の空手家が優勝することによって、本場沖縄の空手も世界中から注目されます。お互いに良いところを引き出しながら、進めていければと考えています。

プロフィール●さわだ・はやと 1968年10月、那覇市生まれ。琉球大学法学研究科(修士)修了後、県庁入り。県税事務所、土木建築課、人事課、企業立地推進課、文化振興課などをへて、2018年4月より空手振興課班長、2020年4月から同課長に就任。父親(警察官)の転勤で2歳~小学4年まで宮古島ですごした。上地流空手6段。

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やなぎはら・しげお●1965年生まれ、佐賀県出身。早稲田大学卒業後、編集プロダクション勤務、政党機関紙記者などを経て、1997年からフリーのジャーナリスト。東京都在住。