沖縄伝統空手のいま 特別番外編⑤ 沖縄県空手振興課長・桃原直子さんインタビュー㊤ 「コロナ後を見据えて仕切り直す」

ジャーナリスト
柳原滋雄

4年以上空手業務を経験

空手振興課の3人目の課長・桃原直子さん

――縁ありまして、初代の山川課長(4年間)、2代目の佐和田課長(3年間)にも取材をさせていただきました。この4月から3人目の課長として桃原直子さんが就任されました。行政職として空手関係の仕事をされるのはそれなりに長いのですね。

桃原直子課長 2016年4月に空手振興課が設置された際、班長として1年間、関わりました。その直前の文化振興課時代には主幹として2年間空手を担当していました。空手振興課の班長時代は沖縄空手会館の共用開始が最大の課題でしたので、展示室に何を置くかなど、直前まで検討を重ねました。もともと空手は無形の文化ですので、それをいかに展示するかという難しさがありました。さらに沖縄空手会館の管理とともに、第1回沖縄空手国際大会(2018年)の準備を行っている段階で、別の部署に異動になりまして、昨年4月、再び班長として戻ってきました。トータルで課長就任以前に4年間、空手と関わっています。

――山川課長は少林寺拳法、佐和田課長は上地流空手をやっていらしましたが、桃原課長は何をなさっていますか。

桃原課長 学生時代はソフトボールをしており、武道とはまったく関係なく過ごしてきました。空手との関わりは仕事で担当したことがきっかけです。精緻な技と「平和の武」の理念を持つ伝統文化に誇りを感じます。

――課長に就任されて3カ月以上になりますが、もう慣れましたか。

桃原課長 専門的な内容が多く、分からないこともあります。県内空手団体の統一組織である振興会(一般社団法人沖縄伝統空手道振興会)という団体がありますので、そちらと連携・相談しながらやらせていただいています。

――昨年(2022年)4月に2度目の班長として空手振興課に戻ってこられたとのことですが、昨年一番大きな仕事は何でしたか。

桃原課長 8月の世界大会が一番大きかったです。新型コロナウイルス感染症の影響で延期され、本来なら14歳以下の第1回少年少女大会を2年前の2020年に行う予定でしたが、予選も本戦も2022年度(令和4年度)に延期となり、15歳以上の第2回沖縄空手世界大会と同時開催となりました。

――2018年に第1回沖縄空手国際大会を開催されていますので、1回目よりは楽だったのですか。

桃原課長 新型コロナウイルス感染症がありましたので、その対策には苦労しました。選手のワクチン接種証明や選手の当日の抗原検査の確認、検査用テントの設置、安全な動線の確保、海外選手の受入事務、入場者制限に伴うオンライン同時配信の実施などが特に気を遣うところでした。

――通常の開催形態とはかなり異なっていたわけですね。

桃原課長 はい、大規模なイベントにまだ不安もある中で、海外から選手を受け入れるということで、安心・安全な大会の開催に気を遣いました。通常は最後にフェアウェルパーティーという懇親会を開催し、国際的な交流の場を設けますが、コロナ禍のため、昨年はそれもできませんでした。

――大人の大会と子どもの大会の運営はやはり違う部分がありますか。

桃原課長 少年少女大会の場合、小学校1年生から対象となりますので、時間どおりに移動・整列してもらえるようきめ細かい案内が必要でした。また、事務局だけでなく、子どもたちが日頃の稽古の成果を出せるよう、空手関係者も様々な配慮を行っていました。

7年以上蓄積された県の空手事業

――空手振興課の設置(2016年)、沖縄空手会館の共用開始(2017年)、沖縄空手案内センターの設置(同年)、沖縄空手振興ビジョンロードマップの策定(2018年)、第1回沖縄空手国際大会の開催(同年)、第2回沖縄空手世界大会・第1回沖縄空手少年少女世界大会の開催(2022年)と、空手振興課としてこれまで多くの実績を残されてきました。最近、力を入れていることは何でしょうか。

桃原課長 2020年度(令和2年度)に沖縄空手ユネスコ登録推進協議会を設置しまして、ユネスコ無形文化遺産登録に向けた取り組みを始めています。令和5年度の事業では、沖縄空手ユネスコ登録推進事業のほか、沖縄空手会館の指定管理事業、沖縄空手指導者を海外・県外へ派遣する事業、県外で沖縄空手を普及・啓発する事業、県内の小中学生や希望する団体に指導者を派遣する事業、空手会館展示施設の企画展や資料収集などを行う沖縄空手ミュージアム事業、空手ツーリズム受入体制構築事業などです。さらに多言語で沖縄空手を案内できる人材を育成する沖縄空手ガイド養成事業を令和3年度から始めて、今年度で3年目になります。これまでは英語だけでしたが、今年度は中国語、スペイン語も募集しているところです(「令和5年度 聖地・沖縄空手ガイド養成研修について」)。

桃原課長が1回目の班長時代に力を入れた沖縄空手会館

――国籍はいろいろですか。

桃原課長 条件としては日本語が話せる方ということで、ほとんどが日本人です。

――空手家とは限らない?

桃原課長 すでに通訳案内士としてガイドの仕事をされている方とか、もちろん空手をやっている方もいます。

――どういうガイドを行うのですか。

桃原課長 沖縄県の空手ゆかりの地というのがあります。流派ごとにコースを決めて、剛柔流だったらこのルート、上地流だったらこのルートと、解説をしながら案内します。海外から来た人に説明することを想定しています。

――すでに稼働しているのですか。

桃原課長 はい、令和4年度からインバウンドが少しずつ戻ってきまして、実際ガイドを行った方からも報告を受けています。約1週間案内し、ある程度まとまった収入になったとのことでした。

――日当も出るんですね。

桃原課長 有償契約の方でした。観光だけでなく、道場でも、これまで門下生などにお願いしていた通訳を有償ガイドにお願いすることで負担感なく受入れられ、より詳しい情報提供と交流ができるようになります。空手ツーリズム受入体制構築事業(2023~)の一環として、沖縄空手ガイドの活用も周知していきたいです。
 そのほかに流派研究事業では流派の歴史や型を冊子にし、4流派(主要な3流派と古武術)を一巡したところです。その後継事業として、昨年、指導体制構築事業において、道場で若手の方が初心者に教える前提での参考となる体系書を作成しました。これは、4流派別に各道場に共通する指導法を1冊にまとめたもので、各道場に配布しました。

――当初から懸案になっているユネスコの無形文化遺産登録の動きはどのようになっていますか。

桃原課長 いま登録に向けての必要な調査を進めておりまして、空手が沖縄県の生活にいかに深く関わっているかを調査しています。

――申請のめどはまだ立っていない段階ですか。

桃原課長 はい、これからです。長期的な取組みが必要だと考えています。

(取材・2023年7月7日)

プロフィール●とうばる・なおこ 南風原町出身。琉球大学法文学部卒業後、1995年沖縄県庁入職。2014年文化振興課主幹(空手担当)、2016年空手振興課班長、その後、港湾課、人事委員会事務局をへて、2022年再び空手振興課班長、23年4月から同課課長。

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やなぎはら・しげお●1965年生まれ、佐賀県出身。早稲田大学卒業後、編集プロダクション勤務、政党機関紙記者などを経て、1997年からフリーのジャーナリスト。東京都在住。