沖縄伝統空手のいま 特別番外編⑥ 沖縄県空手振興課長・桃原直子さんインタビュー㊦ 「コロナ後を見据えて仕切り直す」

ジャーナリスト
柳原滋雄

「空手発祥の地」認知度アップの課題

空手振興課の3人目の課長・桃原直子さんと班長の仲間直樹さん

――沖縄が「空手発祥の地」である認識は県内ではそれなりに定着していますが、国内の県外にどう広げるかというのは前々からの課題ですね。現状はいかがですか。

桃原直子課長 令和4年度に新たに調査した結果では、県内の認知度は88.5%、県外は30.8%、海外は初めて調査して49.1%という数字でした。前回とった調査では、県内96%、県外34.6%でしたので、いずれも少し低下しています。おそらくコロナなどで道場が閉まったことなどが影響していると考えています。

――意外ですね。調査方法が変わったとか。

桃原課長 いえ、方法は同じです。2021年に東京オリンピックがあって、沖縄の喜友名選手が金メダルをとったのでその影響で伸びると思ったのですが、コロナ禍で空手関連のイベントが大きく減ったことも影響したのかもしれません。

――海外の数字はどのような調査によるものですか。

桃原課長 これは沖縄空手世界大会に参加する人数が多い国を中心にランダムに調査を行っていまして、対象国はアメリカ、オーストラリア、フランス、ドイツ、インド、アルゼンチンの6カ国です。

――そうしますと、沖縄が「空手発祥の地」であるという認知度は、県外より、この6カ国のほうが高いわけですね。

桃原課長 空手会館の認知度でも似たような傾向が出ていまして、県内の認知度は6割、県外ですと1割、海外が3割(上記6カ国で調査)となっています。

――コロナ禍もほぼ終息に向かいつつある状況の中で、10月の「空手の日」記念演武祭も通常に戻りますか。

桃原課長 ことしは10月25日に奉納演武(沖縄空手会館)、10月29日に一斉演武(那覇市・国際通り)で2000人の規模をめざして準備を進めているところです。一斉演武の後、団体ごとに演武会をしまして、最後に参加している全員で平和を祈念する50本正拳突きを行う予定です。

――一斉空手演武のギネス記録は、インドに奪われたままの状況ですが…。

桃原課長 インドが持っているのが5000人台の記録ですので、沖縄としてチャレンジするなら6000人。時期をみて挑戦したいと思っています。「空手の日」の一斉演武はすでに沖縄の〝風物詩〟になりつつあります。

――国際通りではもう6回ほどの開催実績になりますか。

桃原課長 そうですね。今年度で7回目となります。このほか世界大会については、今年度は第2回沖縄空手少年少女世界大会の準備の年で、本大会は来年2024年の開催をめざしています。また、15歳以上の大会である第3回沖縄空手世界大会は2026年と、大人と子どもの大会を2年ごとに実施できるよう、定期開催の定着を目標にしています。

――ちょっと疑問だったのですが、第1回は「国際大会」と銘打ち、2回目から「世界大会」に名称が変わったのはなぜですか。

桃原課長 もともとあった沖縄空手振興ビジョンにおける表現との整合性を図るために「国際大会」の名称でスタートしたのですが、「国際」では世界の一部というイメージがあるため、世界中にいる空手愛好家による大会という意味を明確にするため、「世界大会」という名称に変更させていただいた経緯があります。

――そうですか、それは知りませんでした。

桃原課長 毎年1回行われる10月の「空手の日」記念演武祭と、2年に1回開催する世界大会を定例化していくことで、空手ツーリズムの取組みにも活かしていくとともに、沖縄の「空手発祥の地」の認知度を上げていければと考えています。

課員全員で普及型を行う

2026年に完成をめざす首里城(2023年7月)。現在は基礎工事部分を屋内で作業中。首里城は歴史的に空手との関わりが深い。)

――課長職は通例2、3年の任期かと思いますが、今後2、3年における最大の課題は何でしょうか。

桃原課長 道場の基盤整備と、空手ツーリズム受入れ体制の構築が課題と考えています。
 コロナ禍の影響だと思われますが、各道場の門下生が減る傾向にあります。平成28年度の調査で31.5人だったのが、令和4年度では21.1人になっています。

――ずいぶん減っていますね。道場生を増やすのは難しいことではないですか。

桃原課長 そうですね。県の取組みとして、県内普及促進事業の中で、子ども向けには、保育園や小学校・中学校に空手指導者を派遣し、そこで興味をもった子どもたちに地元の空手道場を紹介し、大人向けには、県の警察学校で空手の歴史を講義し、実技指導をしています。もし県内の団体や企業から希望があれば、空手家を派遣して指導することができますので、子どもだけではなく、大人が関心をもつきっかけをもっと幅広く作っていければと思っています。

――いよいよコロナ後の再スタートということですね。

桃原課長 コロナ時代に新しくできた習慣として、オンライン指導が取り入れられるようになりました。もちろん対面での稽古が一番ですが、今後は対面とオンラインの併用方式が遠隔地での稽古や交流に上手く溶け込んでいくのではないかと感じています。

――最後に県外の「空手発祥の地」の認識向上のために改めて何をしていきますか。

桃原課長 ホームページやSNSを使った広報に力を入れていきたいと思います。実際に空手の稽古をしているヘビー層だけでなく、家族連れや空手経験のない方などライト層にも興味を持ってもらえる発信の仕方を考えているところです。

仲間直樹班長 既存の取り組みではありますが、YouTubeで空手振興課の公式ホームページを設け多くの人に見てもらえるような動画を掲載していますし、今年の3月に沖縄空手のメタバース(=インターネット上の仮想空間)をつくりまして、県外の方にも新しい話題も提供しているところです(「「沖縄空手メタバース」の配信について」)。

桃原課長 空手ツーリズムが成熟していくと民間の創意工夫で受入体制が整っていき、多様な人々が伝統文化の継承に関わり支える仕組みづくりや空手の振興発展を目指す行政の施策との相乗効果が生まれるのではないかと期待しています。
 沖縄空手会館では、空手体験教室のほか、空手着の貸出しや瓦割り体験などもあり、空手未経験者にも好評のようです。空手家向けでは、特別道場の前庭で型演武のドローン撮影などがあります。瓦割り体験は県外の普及・啓発事業でも行列ができるほど好評でしたので、どなたでも気軽に体験できると思います。

仲間班長 瓦はプラスチックなので、小学校の低学年くらいのお子さんでも安心して割ることができます。

2026年に完成をめざす首里城(2023年7月)

――班長はスポーツは何をされましたか。

仲間班長 見た目は空手をやっているのではないかと言われることが多いのですが、まだ何もしておらず、周囲からはいつ始めるのと言われ続けています。あと、桃原課長の発案で、空手振興課では昼休みの後、空手関係普及業務補助員の職員を中心に普及型Ⅰ、Ⅱ、Ⅲのうちひとつを月替えで行っています。

桃原課長 昨年度までは終礼として行っていました。時差出勤で退勤時間が揃わないので、午後1時開始で、1回1分程度、全員で型をやって午後の業務に入っています。

――どこの部屋でやるのですか。

桃原課長 この執務室内です(通常の業務場所)。場所を取らないことも空手の利点のひとつです。

――いずれにせよ、3年半のコロナ禍が明けて、いよいよ新しいスタートとなりますね。

桃原課長 できるだけ早くコロナ前の水準に戻して、そこからさらに伸ばしていきたいと考えています。

(取材・2023年7月7日)

プロフィール●とうばる・なおこ 南風原町出身。琉球大学法文学部卒業後、1995年沖縄県入職。2014年文化振興課主幹(空手担当)、2016年空手振興課班長、その後、港湾課、人事委員会事務局をへて、2022年再び空手振興課班長、23年4月から同課課長。

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やなぎはら・しげお●1965年生まれ、佐賀県出身。早稲田大学卒業後、編集プロダクション勤務、政党機関紙記者などを経て、1997年からフリーのジャーナリスト。東京都在住。