沖縄伝統空手のいま 特別番外編⑧ 印刷会社として〝空手発祥の地〟をPRする 池宮商会社長・池宮城拓さんインタビュー

ジャーナリスト
柳原滋雄

沖縄で聖教新聞を印刷する会社

印刷会社として空手に貢献する池宮城社長

 沖縄空手4団体の1つ、沖縄県空手道連盟でパンフレットの作成(大会事務局兼務)を長年担当する印刷会社・池宮商会。1950年に祖父が新聞の輸入販売業の会社として創業し、現在、3代目として社長業務にあたる。
 モノレール「県庁前」駅から徒歩2分。久茂地交差点の沖縄タイムス本社ビルの手前を右折すると屋上に「SEIKYO SHIMBUN」の看板が出た池宮商会久茂地ビルが見える。5階建てビルの1階で毎日県内で宅配される聖教新聞が印刷されている。
 沖縄が本土と切り分けられて米軍政下にあった時代。外国である日本本土から朝日、毎日、読売などの邦字新聞を輸入し、沖縄で売る資格を得てスタートしたが、本土復帰(1972年)のころ新聞の印刷に関心のあった創業者が新聞印刷機を購入した。いずれ新聞を刷る機会があるかもしれないという淡い考えからだったというが、その後、米軍基地の新聞印刷などを手掛けた。
 聖教新聞との縁は本土復帰後まもない時期。沖縄の県紙に印刷を委託していた聖教新聞が、革新系労組の反対で印刷が続けられなくなり、地元の沖縄創価学会は印刷してくれる業者を探していた。そこに偶然の縁があり、それ以来の付き合いとなった。いまは県内向け聖教新聞、公明新聞を印刷するほか、ほかにもポスターなどの一般印刷、さらには各種出版物を取り扱う。
 現在社長を務める池宮城拓(いけみやぎ・たく)氏は本土復帰と同じ年に生まれた50歳。祖父や父が経営した会社を7年前に引き継いだ。

1950年に創業して間もないころの社屋

 もともと幼少期から剣道少年で、中学の途中まで竹刀を振る生活だったが、剣道部の先輩とそりがあわず剣道を止めたころ、先に道場に通っていた妹の勧めで近くにあった空手道場に1、2年ほど通った。それが当時、久茂地にあった長嶺空手道場だった。松林流開祖の長嶺将真氏がつくった道場で、当時も存命だった。
 高校でも空手部に入部し、競技空手に没頭した。型ではなく、組手に精を出し、3年生最後のインターハイでは県大会で個人優勝。「ベストキッド」などの映画の影響もあり、空手全盛期の時代だったという。いまでいえば青少年がサッカーや野球に熱中するのと似たようなものだったろう。
 県大会優勝の恩恵から大学は入学試験なしで沖縄国際大学に推薦入学。そこでも空手を続け、九州大会の常連に。卒業後も30歳くらいまでは国体に出場するなど「競技人生」を謳歌した。
 現在、直接稽古をみるわけではないが、出身大学の沖縄国際大学で監督を務める。池宮城氏は「大会を引率するときのマネージャーのようなもの」と語るが、中学生のときに通った長嶺道場との関わりのある競技空手が縁となって、沖縄県空手道連盟の若手の理事を務める。
 もともとこの連盟は1981年に松林流の長嶺将真氏がつくった体育協会加盟の団体であり、現在同連盟会長を務めるのは同じ松林流の平良慶孝会長という縁もある。
 家業が印刷業ということもあり、県空連の大会パンフレット、さらに大会申し込みの窓口などの裏方として支えてきた。

和英両記で沖縄空手家の歴史史料を書籍化

希少本となった県発行書籍『空手発祥の地 沖縄』

 沖縄県肝いりの沖縄空手会館が2017年3月に供用開始されるのに合わせ、「空手発祥の地・沖縄」をアピールする書籍づくりの企画が持ち上がった。名乗り出たところ採用の運びとなった。
 知り合いの紹介で、米国ロサンゼルスに居住する空手専門雑誌のイギリス人編集者デイビット・チェンバースと知り合い、まず英文で原稿の作成を進めた。米国にも沖縄空手に関する英文書籍は大量に存在し、信ぴょう性の高いものから低いものまでさまざまあるという。その編集者はそれらの中から比較的信頼できる記述を抽出し、沖縄空手の黎明期に外すことのできない空手家のライフストーリーをまとめていった。
「沖縄空手の先駆者」として佐久川寛賀、松村宗棍、安里安恒、糸洲安恒のほか、「近代空手の流祖たち」として8人の武人が章別に取り上げられている。順に、知花朝信、喜屋武朝徳、摩文仁賢和、船越義珍、本部朝基、屋部憲通、宮城長順、上地完文(掲載順)。人選と順番は編集者の判断によるものだ。
 ただし、ライフストーリーを描くことに重点を置いたため、細かな史実の真偽については学術的な見地からは多少の正確性を欠く面があったが、それも当初からの想定内であったという。
 左側に日本語、右側に英語という外国人にも読ませることを念頭においた作りで、特徴といえば、沖縄県内だけならあまり取り上げられてこなかった船越義珍(日本本土に渡り空手普及に努めた人物)を取り上げたことだろう。
 タイトルはその名のとおり『空手発祥の地 沖縄』。190ページの書籍は空手会館がスタートした2017年3月、「発行 沖縄県」「印刷 池宮商会」の奥付で1200冊ほど印刷された。県内で把握されている数百の空手道場をはじめ、本土の支部道場などに無償配布されたほか、マスコミ関係者などにも配布することで「空手発祥の地・沖縄」を示す書籍として認識されたという。現在は希少価値が生じ、高値で売り買いされることもあるようだ。
 この本のレイアウトやデザインを手がけたのは社長の池宮城氏だった。「印刷屋といっても、もともとそうしたデザイン関係の仕事を含むことも多かった」と語る池宮城氏は、「当初の目的は達することができたのではないか」と自身の仕事を振り返る。

WEB第三文明で連載された「沖縄伝統空手のいま~世界に飛翔したカラテの源流」が書籍化!

『沖縄空手への旅──琉球発祥の伝統武術』
柳原滋雄 著
 
 
定価:1,600円(税別)
2020年9月14日発売

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やなぎはら・しげお●1965年生まれ、佐賀県出身。早稲田大学卒業後、編集プロダクション勤務、政党機関紙記者などを経て、1997年からフリーのジャーナリスト。東京都在住。