重要さを増す公明党の能力――「対話の場」と「調整能力」

ライター
松田 明

半数近くが「自公」基盤の枠組み望む

 自民党総裁選挙が目前の10月4日に迫っている。現状では、衆参ともに野党が多数とはいえ、野党の統一候補を首班指名するとは思えないので、おそらく自民党の新総裁がそのまま次の内閣総理大臣に指名されることになる。
 ただ、少数与党のままでは安定した政権が作れない。それぞれの総裁選候補者も、表現の濃淡はありつつ異口同音に新たな連立拡大の可能性に言及している。誰が新総理になっても、おそらくいずれかのタイミングで自公にプラスするかたちで、野党を連立政権に迎える公算が強いというのが衆目の一致するところだろう。

 FNNが9月20日と21日に実施した世論調査(「FNNプライムオンライン」9月22日)では、今後期待する政権の枠組みについて「自公に野党の一部が加わった政権」と答えた人が46.9%に達した。多くの国民が現在の「自民党+公明党」の枠組みの政権担当能力を、やはり基本的には信頼していることがうかがえる。

 一方で、なぜ政権の枠組みにこれほどまで公明党が必要不可欠とされるのか理解できず、不審に思ったり不満に感じたりしている人もいるのではないか。
 折しもこのほど、評論家の八幡和郎(やわた・かずお)氏が『検証 令和の創価学会』(小学館)という著作を出した。タイトルには「創価学会」と付いているが、読んでみて、むしろこの本は「公明党」を〝客観的に〟理解するためにこそ適しているかもしれないと思った。

 八幡氏は浄土真宗大谷派を家の宗旨としており、そのうえでフランス国立行政学院に学んだことなどもあって「カトリックと創価学会にシンパシーをもっている」と自身の宗教信条を正直に記している。
 八幡氏は公明党が連立政権で果たしてきた役割について、

 自民党が単独で過半数をもっているときも、公明党が連立に加わることによって、広く国民が納得できるように調整し、また、かゆいところに手が届く政策体系が実現してきました。(『検証 令和の創価学会』

 公明党が支持してきた都政において、長年はたしてきた良識をもってキャスティングボートを行使する姿勢は、これからも高く評価されるべきだと期待します。さらに国政においても、公明党が連立パートナーとして政治を安定させる一方、与党独善にならないようにはたしてきた役割を昨今の混乱のなかで再評価し、大事にすべきだと思います。(同)

 公明党の政策立案能力で最大の強みは、永田町の政治村のなかではなく、全国津々浦々に張り巡らされたネットワークを活用しての情報収集力です。とくに、国から地方へ、地方から国へ、地方同士の議員によるネットワークが重要です。(同)

 八幡氏はこのように、公明党が特定の地域や特定の集団・階層に偏ることなく、幅広い国民の声を拾い上げる機能をもっていることを評価している。

公明党だからこそ実現できた多くの政策

 加えて言えば、コロナ禍のさまざまな施策のように、国で決めたものを各地の地方議員が現場の隅々まで混乱なく行き渡らせるというような点でも、公明党は強みを発揮してきた。
 こうした全国津々浦々に張り巡らされた議員のネットワークを持ち、なおかつ都政や国政で長年にわたって「与党」を経験してきた政党は、じつは公明党以外にない。

 八幡氏はこうした公明党の〝小さな声を聴く〟能力の成果の実例として、まず公明党主導で始まった「児童手当」を挙げている。
 これは公明党が1968年に千葉県市川市と新潟県三条市で初めて実現させ、1972年に国の政策にした。それが発展して、国政与党になってからは一段と加速。2024年10月から高校卒業までの対象拡大、第3子以降の児童手当の拡充(月3万円)にまで発展したことを記している。

 2022年からの不妊治療への保険適用も、公明党が各地での署名運動や自治体の政策としての採択を進めてきたのが国の政策となりましたし、最近では、帯状疱疹ワクチン接種への助成がそうです。「AED」は医師などしか使えなかったのを、公明党が国会で一般人への解禁を訴え、地域での公共施設への設置運動を進めました。
 医療では、高額医療対策のほか、多くの人が要望していながら対策がとられていなかった「アレルギー疾患」、「白血病患者へのさい帯移植」、「子宮頸がんなどのワクチン接種」、「ドクターヘリの配備」や更年期障害、生理など女性の悩みへの対策も進めています。
 能登半島地震では、現地に全国から議員が入り、現場からの要望を吸い上げたり、石川県の地方議員と熊本など被災を経験した地方議員がオンラインで連絡を取り合い、対策に取り組みました。公明党の議員は現地で何を見るべきかスキルとバックアップ体制を持っているから被災地で歓迎されるのです。
 税制では、軽減税率の導入が公明党らしい提案でした。(『検証 令和の創価学会』

「年収の壁」も公明党案に沿って動いた

 7月の参議院選挙で自公が大きく議席を減らした結果、3年後の参院選で自公が過半数を回復できる可能性さえも、かぎりなく低くなった。いよいよ日本もヨーロッパ型の「多党制の時代」に入ったと多くの人が指摘している。
 今後は、どのような組み合わせであれ、3党以上の政党が連立を組む政権のかたちが日本でも常態化していくのかもしれない。

 どの政党が新たに政権に参画するにしても、野党の立場で無責任に好き放題言えたことが、いざ与党になると簡単にはいかないことを実感するだろう。
 もちろん、与党に加わることで掲げてきた政策実現に近づけるというメリットはある。他方で、野党だからこそ支持されていたが、与党になることで〝絵に描いた餅〟を語れなくなり、支持を失っていくリスクも十分にある。

 いずれにせよ、これまで自公の2党だけの協議でことが進んだものが、今後は3党以上になるとなれば、合意形成はさらにハードルが上がるだろう。
 国民からはあまり見えないことだが、与党内でも与野党間でも、政党間での協議にあって、公明党の「調整能力の高さ」は定評がある。

 所得税負担が発生して年収が減る所得税の非課税控除枠「103万円の壁」も、国民民主党は178万円を主張しながら恒常的な安定財源については自ら示さず「与党で見つけてくれ」とした。
 当初の政府案では123万円が限界という話だったが、結局、現時点で実現可能なぎりぎりのラインとして公明案に沿った160万円にまで枠を引き上げ、それでも合意せずに協議を打ち切った国民民主党に代わって日本維新の会の賛成を取り付けた。
 これによって、ともかく大きく一歩前進したのである。

 この間の公明党の提案については、一般紙も「公明が「年収の壁」新案提示 年収850万円以下で控除額4段階」(『毎日新聞』2025年2月21日)と報道。
 同じ日の日本経済新聞は「「103万円の壁」、公明が年収制限の拡大案850万円に」との見出しで、

公明党は21日、自民党や国民民主党との協議で所得税の納付が必要になる「年収103万円の壁」の引き上げを巡る新たな修正案を提示した。非課税枠を広げる対象の年収上限を500万円から850万円に上げる。自民党と国民民主は週明けに党内で議論し、対応を決める。
公明党案は年収に応じて基礎控除の上積み額を変える。具体的には①年収200万円以下は政府案から37万円②200万〜475万円は30万円③475万〜665万円は10万円④665万〜850万円は5万円――をそれぞれ上乗せする。
課税最低限の「壁」は160万円になる。(『日本経済新聞』2025年2月21日

と詳しく報じている。

どんな政権枠組みになっても必要な能力

 仮にいずれかの野党が新たに連立政権に参画した場合、とりわけ当初は支持層や国民の目を意識して、自分たちの党の主張をことさら声高に主張するに違いない。
 思えば1999年1月に、当初は自民党と小沢一郎氏の自由党が連立し、10月になって公明党が参画して自自公連立となった。このときも、自由党の主張と自民党の折り合いがつかず、自由党はわずか1年4カ月後の2000年4月に連立を離脱している。

 政治学者で現代政治分析と国際関係論が専門の藪野祐三・九州大学名誉教授は、公明党が2025年5月に発表した「平和創出ビジョン」を高く評価。
 なかでも国連の機能回復を目指した改革をビジョンに掲げた点について、

対話の重要性を理解している公明党ならではの政策です。私も国連に関しては、公明党の意見に賛成です。(『第三文明』2025年9月号)

と述べている。そのうえで、

 公明党の〝対話重視〟の姿勢は、国内政治においても貫かれています。時には連立与党の一角として自民党の背中を押したり、歯止め役になったりする。また別の時には野党の主張を受け止めて自民党にぶつける。そうした調整役は、極端な主張によって世論を喚起したりする政党や政治家とは異なり、極めて地味で目立たない役割です。しかし同時に、政治を着実に前に進めるためには必要不可欠な存在なのです。公明党は、日本の政治に〝対話の場〟を構築してきたと言ってもいいかもしれません。(同)

と公明党の果たしてきた重要な役割に言及している。
 また、「選挙ドットコム」編集長の鈴木邦和氏も、

 例えば自公にいろんな形で政党が加わって、あるいはもっと違う枠組みになるかもしれないですけど、そうなった時に、最終的にいろんな意見があるなかでの着地点を見出して、そこに向けて官庁も巻き込んで、政策を前に進めていけるのって、一番は公明党さんなんじゃないかなって思っているんです。
だから私はどんどんどんどん多党化して、連立の枠組みが選挙のたびに変わるようになった時にも、公明党さんの〝かなめ〟としての役割って、おそらく輝くんじゃないかなと思ってるんです。(「公明党のサブチャンネル」

と公明党ならではの強みへの期待を率直に語っている。

 多くの学識者ら〝政治のプロ〟が一様に評価する公明党の能力が、ほとんどの一般有権者に伝わっていないことは、公明党の損失であるだけでなく、有権者にとっても損失である。
 今まで以上に「対話のかなめ」「調整役」としての役割が大きくなるであろう公明党だけに、こうした第三者も評価する公明党の強みや重要性を、さらに積極的に発信していってもらいたい。

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まつだ・あきら●ライター。都内の編集プロダクションに勤務。2015年から、「WEB第三文明」で政治関係のコラムを不定期に執筆。著書に、『日本の政治、次への課題』(第三文明社)がある。