「空手の日」制定20周年記念イベント

ジャーナリスト
柳原滋雄

平和祈念公園内で行われた恒例の「奉納演武」

 沖縄県議会で「空手の日」を制定する決議が採択されたのは2005年3月29日。沖縄空手4団体の一つ、沖縄県空手道連合会の陳情で始まったこの動きは、2000年ごろ、具体的な取り組みが始まり、1936年10月25日、「琉球新報」主催の空手家座談会で表記や呼称がバラバラであった名称を「空手」に統一することを合議した日にちなみ、「10月25日」を空手の日として制定したものだ。「空手の日」と定める決議に関する提案理由を説明したのは前公明党沖縄県代表の金城勉県議(当時)だった。以来20年。

演武者8人と沖縄県議会関係者。前列右から4人目が上原章副議長、最後列右から3人目が松下美智子県議(いずれも公明党)


 この日に合わせて「奉納演武」が行われ、直近の日曜日には国際通りで毎年2000人以上の空手家が集い、一斉演武や各流派に分かれて演武を行う「記念演武祭」が開催されてきた。今年は戦後80年の節目に重なり、通常は沖縄空手会館(豊見城市)の別棟で行われる「奉納演武」が、〝沖縄戦終焉の地〟である沖縄県営平和祈念公園(糸満市)内で行われた。
 10月25日土曜日の午後1時、平和祈念公園内の平和の丘で献花と黙祷を行ったあと、演武を行ったのは沖縄空手4団体の各会長と、県指定無形文化財「沖縄の空手・古武術」保持者4人の計8人の空手家である。演武者順に列記すると次のとおり。

【4団体会長】
 仲里 稔 (沖縄県空手道連合会) クーサンクー小
 池宮城政明(全沖縄空手道連盟)  セーパイ
 平良 慶孝(沖縄県空手道連盟)  泊パッサイ
 嘉数 嘉昌(沖縄空手・古武道連盟)ウンスー

【県指定無形文化財保持者】
 喜久川政成(剛柔流) クルルンファ
 眞栄城守信(小林流) 松村のパッサイ
 仲本 政博(古武道) 2丁ヌンチャク
 高良 信徳(上地流) サンセーリュウ

奉納演武を行った4人の県指定無形文化財「沖縄の空手・古武術」保持者。左から眞栄城守信、高良信徳、仲本信博、喜久川政成の各氏

 奉納演武に先立ち、3人の関係者があいさつを行った。最初に主催者挨拶を行った沖縄県の池田竹州副知事が、玉城デニー知事のメッセージを代読。「本日10月25日の『空手の日』は、沖縄伝統の空手が今後ますます発展し、世界の平和と人びとの幸福に貢献するという願いを込めて、2005年3月に沖縄県議会において制定され、今年で20年目を迎えます」と紹介した。
 2人目の主催者挨拶は沖縄県議会の上原章副議長(公明党沖縄県代表)で、沖縄を発祥の地とする伝統空手が世界190カ国あまりに1億3000万人もの愛好家がいるといわれていること、沖縄の空手が「空手に先手なし」という偉大な哲理と生命尊重の思想を根本理念とする〝平和の武〟であること、奉納演武が世界の恒久平和を願う心の表れであることなどを述べた。さらに80年前、未曾有の戦禍に見舞われた節目の年にあたり、「空手発祥の地・沖縄における奉納演武を通じ、平和の希求を世界に発信する光になることを期待します」と結んだ。
 3人目の地元糸満市の徳元弘明副市長は、糸満市が激しい地上戦の舞台となったこと、空手が沖縄の歴史と深く結びついていることを述べ、問題は武力ではなく、話し合いで解決すべきという智慧を、空手を通じて世界に平和のメッセージとして発信する意義に期待を寄せた。
 印象に残ったのはいずれも沖縄伝統空手を〝平和の武〟とのフレーズで強調していることだった。さらに沖縄戦で亡くなった人びとのことを「御霊(みたま)」と表現し、日本本土で見られるような「英霊」という言葉を使わないことだった。
 終了後、上原章副議長は私の取材に、「沖縄の空手は歴史的に世界に大きく広がった。『空手に先手なし』という沖縄空手の精神と沖縄県民の本当の平和の思いが、戦後80年と『空手の日』制定20年の節目に世界へ広がっていければなという思いで参加させていただきました」とコメントした。
 当日は秋のトンボが時折舞い飛ぶ中で行われ、終了後、フォトセッションの時間も設けられた。なお10人ほどの県会議員が参加した中、上原副議長のほか公明党からは松下美智子県議が参加した。

「記念演武祭」で3100人の一斉演武

上地流の普及型Ⅲを演じる玉城知事(最前列左から2人目)

 翌日の日曜日(10月26日)は「記念演武祭」として一斉演武が午後3時すぎから恒例の国際通りを使って行われた。新型コロナ禍以降では最多の3100人が参加。それに先立ち、県庁前の県民広場では「試し割り体験」や「空手道場案内」などさまざまな企画が午前11時から午後6時まで行われた。
 演武祭は空手着に黒帯を締めた玉城デニー県知事のあいさつから始まる。玉城知事は「平和の心を世界へ発信していきましょう!」「空手発祥の地・沖縄から平和の武の世界へ!」と呼びかけた。さらに中川京貴・県議会議長、新垣邦男・沖縄伝統空手道振興会理事長(衆議院議員)、知念覚・那覇市長の順であいさつが進んだ。いずれも沖縄空手を〝平和の武〟と紹介する姿が印象的だった。特に振興会の新垣理事長は次のように語る。

 今年は、二度と戦争の惨禍を繰り返してはならないという強い決意を新たにする年でもあります。そのような節目に〝平和の武〟である空手演武を空手発祥の地・沖縄で行う意義は極めて大きいものがあると思っております。はるか昔、先人たちは世界に誇る伝統文化、沖縄空手を築き上げました。平和と共生の理念を、未来へとつないでいかねばなりません

演武祭最後の世界平和祈念正拳50本突き(号令は全沖縄空手道連盟・池宮城政明会長)

 記念演武祭は、沖縄県空手道連合会の仲里稔会長の掛け声で、普及型Ⅰ(しょうりん流)、普及型Ⅱ(剛柔流)、普及型Ⅲ(上地流)を3000人以上が一斉に行ったあと、各団体のエリアで個別の演武を行った。1時間後、全沖縄空手道連盟の池宮城政明会長の号令で「世界平和祈念正拳50本突き」を全員で行い、幕を閉じた。(了)

奉納演武風景。2丁ヌンチャクを披露する仲本政博・範士10段

記念演武祭で主催者挨拶する玉城デニー知事。後列左から知念那覇市長、中川県議会議長、新垣振興会理事長

普及型Ⅰを一斉演武する参加者(号令は沖縄県空手道連合会・仲里稔会長)

シリーズ【沖縄伝統空手のいま 道場拝見】:
①沖縄空手の名門道場 究道館(小林流)〈上〉 〈下〉
②戦い続ける実践者 沖拳会(沖縄拳法)〈上〉 〈中〉 〈下〉
③沖縄空手の名門道場 明武舘(剛柔流)〈上〉 〈下〉
④上地流宗家道場 普天間修武館(上地流)
⑤喜舎場塾田島道場(松林流)〈上〉 〈中〉 〈下〉
⑥上地流空手道拳優会本部(上地流)〈上〉 〈下〉
⑦沖縄空手道拳法会拳武館(剛柔流)〈上〉 〈下〉

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やなぎはら・しげお●1965年生まれ、佐賀県出身。早稲田大学卒業後、編集プロダクション勤務、政党機関紙記者などを経て、1997年からフリーのジャーナリスト。東京都在住。