政治資金規正法改正案のゆくえ――公明党がやれたこと、やれなかったこと

ライター
松田 明

不透明な「政策活動費」

 政治資金規正法改正案をめぐり、自民・公明の両党は「与党案」をめざして実務者協議を続けてきたが、自民党は公明党の合意を得ることができず「単独」で「自民党案」としての法案提出となった(写真は、公明党の実務者を務める中野ひろまさ衆院議員)。
 これまで議員立法においては自公で足並みをそろえるのが常だった。与党内でまとまらなかったのは異例だ。
 読売新聞は、

公明党の強硬姿勢も見誤り、自公間の隔たりを残したまま与野党協議に臨むことになる。(「読売新聞オンライン」5月16日

と報じている。
 この問題は、昨年末に発覚した自民党の政治資金問題に端を発している。安倍派など一部の派閥内で、政治資金パーティーのノルマ超過分がキックバックされ、それが政治資金規正法に定められた収支報告書への記載のないまま、議員の政治団体などに移されていた。
 加えて、現行では政党から議員に「政策活動費」として支給された資金に使途公開の義務がないことも見直すべきとの声が上がり、今国会での焦点の一つになってきた。
 政治資金規正法では、政治家個人への寄付は原則として不可だが、政党から各議員に寄付することは認められている。そこで、自民党はもちろん主要野党でも、名称はさまざまだが党から議員個人に資金が供与されてきたのだ。
 2022年の政治資金収支報告書では、立憲民主党では泉健太代表に5000万円、幹事長だった西村智奈美氏に5000万円など総額1億2000万円、日本維新の会では藤田文武幹事長に5057万円、国民民主党では榛葉賀津也幹事長に6600万円が支給されている。
 本来なら議員個人の雑所得として課税対象となるが、

国税庁は23年11月の国会で「政治活動のために支出した費用の総額を差し引いた残額が課税の対象となり、残額がない場合は課税関係は生じない」と答弁しており、実質的には非課税のカネとして運用されている。(『毎日新聞』1月26日

 自民党と額の大きさは異なるといえ、主要野党も一般国民の年収の10年分以上にあたるような巨額の資金を、使途非公開のうえに非課税で幹部に渡してきたのである。

公明党には「政策活動費」はない

 じつは、さる5月15日、この「政策活動費」報道に関して、フジテレビのチーフプロデューサーが公明党本部を訪れ謝罪する出来事があった。
 5月12日に放送された「日曜報道THE PRIME」が、各党の政策活動費の一覧を示したフリップで、公明党が684万2854円を支出していると報じたのだ。
 公明党は、他党のように党から所属議員個人にお金を支給することは一切おこなっていない。フジテレビが報じた金額は、党の政務調査会の活動費であり、内訳はすべて公開されている。同番組は、それを問題となっている使途非公開の各党の政策活動費と混同して報道したのだった。
 公明党からの抗議に対し、番組側は誤報を認めて謝罪。公明党広報部は次回の放送で謝罪と訂正をするよう求めた。
 自民党の不祥事によって政治への信頼が大きく損なわれたことを重く受け止めた公明党は、今年(2024年)1月18日、他党に先がけるかたちで政治資金規正法の改正等を盛り込んだ「公明党政治改革ビジョン」を発表した。
 そして、4月19日には「連座制」による政治家の監督責任強化などを柱とする政治資金規正法改正案の要綱をまとめた。
 要綱のポイントは、

①政治団体代表者への罰則の強化(いわゆる連座制)
②政治資金パーティー対価の支払い方法の制限と支払者の公開基準額引き下げ
③「政策活動費」使途公開の義務化
④国会議員関係政治団体から寄付を受けたその他の政治団体の透明性確保
⑤国会議員関係政治団体の収支報告書のデジタル化の促進
⑥外部監査・第三者機関に関する検討条項

 まず①では、政治資金収支報告書に虚偽記載などがあった場合、「会計責任者の『選任』または『監督』のいずれか一方に相当の注意を怠ったときは罰金に処する」と明記。収支報告の際、代表者による「確認書」の提出を求める制度の創設も盛り込んだ。
 次に②では、政治資金パーティーの対価の支払いを「預貯金口座への振り込み」に限定した上で、支払者の公開基準を「パーティー1回当たり5万円超に引き下げる」とした。
 ③では、使途に関して「明細書が作成されなければならない」とし、収支報告に合わせて提出させる仕組みにする。
 また、④~⑥では、国会議員関係政治団体から寄付を受けた「その他の政治団体」について、寄付が「年間で一定以上」の場合、使途の公開基準を広げることにする。
 収支報告書について、オンラインによる提出を義務付けるほか、外部監査の充実強化や第三者機関の活用など政治資金の透明性を確保する措置の検討、記載された個人寄付者などの個人情報・プライバシー保護を明記した。

法改正から逃げ続けた民主党政権

 この公明党が出した要綱を注意深く見ると、同党が「罰則の強化」と同時に、とりわけ「透明性の確保」を重視し、実効性のある改革をしようとしていることがわかる。
 というのも、こうした〝政治とカネ〟の問題の再発防止には「透明性の確保」がなによりも不可欠だからだ。「罰則」だけであれば、なんらかの抜け道を考える不逞の輩が出てくる可能性がある。
 公明党がどの政党よりもいち早くこれらの仕組みを提示できたのには理由があった。
 2009年に当時の民主党が選挙で圧勝し、政権交代が起きた。国民の多くは古い政治が変わるものと期待を高めていた。
 ところが、この民主党政権でも総選挙前から取りざたされていた鳩山由紀夫首相をめぐる〝政治とカネ〟が噴出した。2009年11月、東京地検特捜部の捜査が進むなかで、すでに故人となった人物からのものや匿名で処理された9億円もの金が、実際には鳩山首相の母親からの資金提供であることが判明したのだ。公設第一秘書が在宅起訴されたものの、鳩山氏は関与を否定し議員辞職さえ拒否した。
 2010年には、小沢一郎幹事長(当時)の秘書や元秘書ら3人が、政治資金規正法違反容疑で逮捕・起訴された。同年、小沢氏は幹事長を辞任。この件では、2014年9月に二審の有罪判決が確定している。
 民主党政権になっても続く〝政治とカネ〟の問題について、公明党は「秘書がやった」では済まされない罰則付きの政治資金規正法改正案を国会に提出した。ところが、民主党の歴代首相は3年3か月のあいだ、前向きな答弁だけは繰り返しつつ、結局は法改正に手をつけようとはしなかったのだ。

〝政局化〟したい野党の思惑

 さて、4月19日に公明党が規正法改正の要綱まで示しても、自民党は独自案を示そうとしなかった。そもそも自民党が引き起こした問題で国民が大きな政治不信を抱き、国会が荒れているというのに、である。
 4月22日の衆議院予算委員会で、公明党の赤羽一嘉衆院議員は自民党総裁でもある岸田文雄首相に厳しく迫った。

先週から与党協議が開始をされ、そしてこれからいよいよ与野党会議も、という段階において、自民党案がまとまらないという現状、本当に総理が先頭に立って取り組んでいると言えるのでしょうか。真剣に法改正を実現する覚悟があるのなら、私はすぐにでも自民党案を提示すべきであると思います。(「衆院予算委員会」4月22日 公明党・赤羽一嘉衆院議員

 この翌日になって、自民党はようやく独自案を出した。ただし、かろうじて「連座制」を含めていたものの、「透明性の確保」については手つかずで、およそ国民の納得を得られるようなものではなかった。
 一方の野党は、この問題を政権攻撃の〝政局〟にすることに終始していた。立憲民主党の蓮舫氏は、自民党の独自案を「なんちゃって連座制」と批判した。だが、蓮舫氏はあの法改正から逃げ続けた民主党政権で閣僚を歴任していたのではなかったか。
 政治資金規正法は、すべての政党と議員にかかる法律である。それだけに、この法改正を政局化して与野党対立にしてしまっては、衆議院の過半数を持っている自民党を頑なにさせてしまうだけなのだ。
 野党のなかには、あえてそうしたほうが国民の憤懣を自分たちに引き寄せられると考えている者もいるのだろう。しかし、政権の枠組みが変わる可能性が常にあることを考えれば、今国会において与野党でできるだけ幅広い合意形成をして改正すべきというのが公明党の姿勢だった。

最後まで譲らなかった公明党

 自公の実務者協議を通して、公明党はときに語気強く、ときに忍耐強く、自民党を説得し続けた。
 大型連休明けの5月9日、自公は政治資金規正法改正案の概要を取りまとめた。全部で9項目あるうち、7項目は公明党が1月に示した「公明党政治改革ビジョン」と4月に発表した「要綱」を踏まえた内容が、ほぼ反映されたといえる。
 まず、いわゆる連座制。収支報告書の「確認書」の作成義務を議員に負わせ、会計責任者が不記載などで処罰された場合、確認が不十分であれば議員も罰則の対象となり公民権停止となる。
 第三者監査の強化では、収支報告書の監査対象を政治団体の「収入」にも広げる。また、政治資金は金融機関の口座で管理することを義務付ける。
 透明化の点では、政治資金収支報告書をオンライン提出とし、インターネット公開を義務付ける。
 政治団体間の資金移動についても、国会議員の関連政治団体から年間1000万円以上の資金移動を受けた政治団体については、収支報告書の公開基準を厳格化する。
 一方で、2つの項目については意見の相違が埋まらなかった。
 政治資金パーティー対価の支払い者の公開基準をめぐり、公明党は公職選挙法にある「寄付」の基準である5万円を上限とすべきだと主張した。しかし、自民党は現在の20万円から下げることに党内の抵抗が強く、10万円超までの引き下げにとどまった。したがって、「とりまとめ」では「20万円から引き下げる」という表現になった。
 また、政策活動費についても、公明党は受け取った議員の側が使途明細を明らかにすべきだと主張した。自民党は政党から政治活動に関し1件50万円超を受け取った国会議員は、支出について総務省令で定める項目別の金額を党に報告し、党は収支報告書に記載するという線を譲らなかった。
 法案の性質が性質だけに、支持者がどこよりも〝政治とカネ〟に清廉潔白を求める公明党としては、妥協したかたちで「与党案」を共同提出することはできない。さりとて独自の公明党案を出してしまえば、与党内での決裂が印象付けられ、野党の政局に利用されかねない。
 そこで独自案の提出はせず、むしろ与野党間での合意形成に努める道を選択した。

公明党の山口那津男代表は15日午前、国会内で開かれた党参院議員総会であいさつし、自民党派閥の政治資金問題を受けた政治資金規正法改正を巡る協議について「与野党でできるだけ幅広い合意形成を図っていくのが立法府の基本的なあり方だ。あらゆる対話の機会を生かしながら、合意形成に、しっかり努力していきたい」と強調した。(『公明新聞』5月16日

「大衆とともに」への期待

 今回の〝政治とカネ〟をめぐる悪質な不祥事で、国民がどれほど失望し憤慨しているか。自民党は感覚のマヒを正して、切迫感を持って真摯に向き合わなければならない。
 5月の世論調査では政権の継続を望む声より政権交代を望む声が上回っている。5月11日、12日に選挙ドットコムとJX通信社が共同でおこなった世論調査(ネットと電話のハイブリッド)では、次の衆議院選挙の比例代表の投票先に自民党と答えた人が、電話調査に限って5ポイント以上下がり、逆に立憲民主党が6ポイント以上上げて、10ポイントほどの差が開いた(「全国意識調査」5月11~12日)。
 以前から立憲民主党と共産党は支持層が高齢化しているとはいえ、やはり高齢層を中心に自民党にお灸をすえてやろうという空気が高まっているのだ。
 一般財団法人情報法制研究所の上席研究員・事務局次長をつとめるクリスチャンで作家の山本一郎氏は、最近のnoteで公明党への思いを次のように記している。

公明の立党の精神として、絶対的な平和主義と並んで故・池田大作氏が語った「大衆」の概念こそ、分断されがちな我が国の社会をまとめ直し、自民党政治ではおこぼれに預かれない人たちと、労働組合の傘の下にはいない非正規就労者や高齢独身者、シングルマザーなどの属性を包み込むものなのではないのかとも思います。

政治不信の根幹も、これら自民党政治や労働組合、各種業界団体などの庇護下になく、いい目を見ることなく暮らしている人々になかなか光が当たらないまま人口減少で経済縮退に至ってしまった怨嗟があるのではないか、と強く感じます。一人ひとりは一隅を照らすように立派に人生を慎ましく送っていても、拠って立つ大樹もなく希望も持てない社会ってマズいんじゃないでしょうか。

これらの状況を綺麗事ではなく現実のものとして受け入れてどうにかするには、人間愛というか人類愛のようなものをベースにした絶対的平和の希求は重要なテーマとして、世界に日本がいかに平和を担う存在であるかを考えていく必要があります。いま世にある安全保障・外交問題も、世界における日本の役割を示し、機能を果たすことに軸足が置かれており、これこそが与党自公政権における公明党の効能でもあろうと思います。(note「月刊『公明』24年6月号に「退縮する地方で取り組む撤退戦」について寄稿しました」

 まさに、自民党や労組だけではカバーできなかった人々に光を当て、同時に安全保障や外交でも平和と安定への役割を果たしてきた公明党に、今こそ真価を発揮し「分断」の危機にある日本社会をまとめ直してもらいたい。

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まつだ・あきら●ライター。都内の編集プロダクションに勤務。2015年から、「WEB第三文明」で政治関係のコラムを不定期に執筆。著書に、『日本の政治、次への課題』(第三文明社)がある。