首相「所得税減税」を指示――公明党の提言受け入れる

ライター
松田 明

 岸田首相は10月20日、税収の増加分の一部を国民に還元するため期限付きの所得税減税を検討するよう指示した。
 これに先立つ10月17日午後、公明党の高木陽介・政調会長らは首相官邸に岸田首相を訪ね、政府の総合経済対策に盛り込む内容を提言していた。
 同日、自民党からも提言が出されており、これらを受けて首相は政府案を検討。与党に示したうえで11月2日に閣議決定する予定だ。
 今、世界全体で半世紀ぶりといわれるような物価高騰が続いている。アジアでは2020年初頭から物価が上昇傾向を強め、2021年初頭から欧米などでその傾向が顕著になっていることを考えると、要因はウクライナ侵攻ではなく、むしろパンデミックの影響が指摘されている。
 日本に関しては、燃料はじめ多くを輸入に頼っていることから円安の影響が大きく、加えて労働力不足が深刻だ。パンデミック後に各国で経済活動が一気に再開すると、鋼鉄など建築資材が高騰している。

不動産経済研究所によると、2023年4月から9月の上半期の東京23区の新築マンションの平均価格は、1億572万円となり、バブル期を超えて、初めて1億円を突破した。超高級物件の売り出しや、資材費・人件費の高騰などが要因。(「FNNプライムオンライン」10月18日

 本来は、賃金が持続的に上昇していくことで所得向上を図ることが望ましいが、現状は物価高のスピードに賃上げが追い付かず実質賃金はマイナスのままになっている。
 賃上げの流れが国民に幅広く波及するまでは一定の時間が必要であり、公明党の提言では「税収増の国民への還元策」が3点に渡って盛り込まれた。

公明党は所得税減税を要望

 第1は、物価高だけでなく社会保険料の増加などで負担感が増している現役世代、とりわけ中間所得層が可処分所得を増やせるよう、「思い切った施策」として具体的には「所得税減税」を求めた。
 直近の共同通信の世論調査でも、現役世代からの所得税減税を求める声は高く、40代では70.4%。30代以下の若年層でも67.9%が期待している。
 一方、与党でも同じ日に提言を提出した自民党案では所得税減税は見送られた。
 なお、NHKはじめ多くのメディアが「公明党も所得税減税を見送った」と報道したが、これは事実ではない。
 実際、17日に首相に提言を渡したあと官邸で高木政調会長が各社のインタビューに答えているなかで、

公明党としては具体的に所得税の減税ということを意識をしてやっていただきたいと総理には申し上げました。(「公明党チャンネル」10月17日

とハッキリ発言していることは動画で確認できる。山口代表も同日の官邸でのぶら下がり会見で、報道を否定した。
 また、翌18日の『公明新聞』は1面トップで「所得税減税を」と大見出しを打っている。
 これを受けて岸田首相は20日に所得税減税の検討を与党に指示した。

公明党のネットワークが生きる

 提言では第2に、物価高で特に大きな影響を受けている低所得世帯への重点的な支援が盛り込まれた。これは、住民税非課税世帯などでは賃上げの恩恵が及びにくいことが大きい。具体的にはこれまでにも実施したような給付金を迅速に支給して生活を支えるよう提言した。
 第3は、エネルギー価格高騰への対策である。燃料価格の高騰が顕著になった昨年、既に公明党は岸田首相に直談判する形でガソリン・灯油などの燃油代補助を実現。2023年1月使用分から電気と都市ガス料金でも政府の補助が実施された。
 これらは当初2023年9月までだったが、公明党の要求で年末まで延長が決まっている。これから冬場に入り、とくに寒冷地では春先まで暖房が不可欠だ。今回の提言では、さらに来春までの延長を求めている。
 なお、この電気・都市ガスへの補助にあたって、地方の多くの地域ではLPガス(プロパンガス)が使われており、補助の恩恵から外れることが懸念された。
 こうした地域差がある問題について、公明党は国と地方の議員ネットワークを生かし、国政レベルでは自治体の財源となる地方交付金の増額を求め、各自治体レベルでは地方議員が首長に具体策を提言するなどしてLPガス料金の引き下げや給食費の低減を実現してきた。

LPガスの価格高騰対策は、公明党が生活者の目線に立って国会質問で取り上げてくれた。最終的に政府が動いたこともあり、非常に支援してくれたと感じている。(全国LPガス協会・村田光司専務理事/『公明新聞』2023年5月11日

中小企業賃上げプランも提出

 公明党は10月13日に、政府に対して「中小企業等の賃上げ応援トータルプラン」を提出している。
 主な内容は、労務費の価格転嫁「指針」の公表、保育士給与の公定価格の大幅引き上げ、賃上げした企業に対する各種補助金の上乗せと資金繰り強化などだ。

提言では、中小企業が労務費などを適正に価格転嫁できるよう、転嫁の指針を策定し公表することや、独占禁止法上の優越的地位の濫用を防ぐため、関係事業者に対して立入調査を行う「優越Gメン」を増員することなどを盛り込んだ。
さらに、医療・介護・障害福祉分野における処遇改善の手続き簡素化や、保育士給与の公定価格大幅引き上げなど、処遇の大幅改善を検討することとした。(「FNNプライムオンライン」10月12日

 とくに下請けや孫請けの取引環境が改善されるよう、法違反等が多く認められる27業種については、関係省庁が連携して取組強化の実態把握をおこなう。独占禁止法や下請法に違反する事案については、命令や勧告など事案に応じた法的措置に基づき厳正に対処することを盛り込んでいる。
 また、フリーランス新法の施行に向けた周知・広報の取組みを着実に進めるなど、フリーランスの所得向上につながる取引適正化や相談体制の強化も挙げている。
 20項目にわたってきめ細かい提言になっており、生産性の向上や労働力不足への支援を強化しながら、中小企業でも適正な価格転嫁を促して賃金アップにつながるよう施策の実現を政府に求めるものとなっている。

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