新局面を迎えた「同性婚訴訟」――有権者の投票行動にも影響

ライター
松田 明

名古屋地方裁判所

さらに踏み込んだ名古屋地裁

 5月30日、名古屋地裁(西村修裁判長)は、同性カップルの結婚を認めていない現行の法制度について「憲法に違反する」とした判決を下した。
 同性婚を認めないことは憲法14条(法の下の平等)と24条(婚姻の自由)に反するとして、13組のカップルが札幌、東京、名古屋、大阪それぞれの地裁に、2019年2月14日、一斉に提訴していた。
 これまで、札幌地裁(2021年3月)は14条に関して「違憲」と判断。大阪地裁(2022年6月)はいずれも「合憲」。東京地裁(22年11月)は24条2項の部分で「違憲状態」との判決を出していた。
 今回の名古屋地裁判決は、これらよりさらに一歩踏み込んで、14条1項と24条2項のそれぞれで「違憲」だとした。
 折しも国会では「LGBT理解増進法」が自民党保守派の抵抗を抑え込むかたちで広島サミット前に提出されたばかり。
 神道政治連盟や旧統一教会など自民党保守派の支持基盤は同性婚に強く反対している。
 一方、同じ与党でも公明党はスタンスが異なる。公明党の高木陽介政調会長は名古屋地裁判決について、

公明党はこの問題に関して、基本的に認める方向性で議論してきたので、今後も党内議論をしっかり深めていきたい。ただ、公明党だけの考えでは解決できないので、与党として、ほかの野党も含めて、議論を深めていければと思う。(「NHK NEWSWEB」5月30日

と記者団に語った。

画期的だった判決内容

 5月1日に共同通信社が実施した世論調査では、71%が「同性婚を認めたほうがよい」と回答。「認めないほうがよい」の26%を大きく上回った。2月にFNNが実施した調査でも賛成は71%。20代では91%が賛成と答えている。
 またFNN調査では、LGBT理解増進法についても64.1%が成立させるべきと回答した。
 今回の名古屋地裁判決は、同性婚の法制化へ向けていくつかの点で画期的だった。
 まず憲法24条は次のとおりである。

1 婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
2 配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。

 判決では、「婚姻」について、

とりわけ重要なのは、両当事者が安定して永続的な共同生活を営むために、両当事者の関係が正当なものであるとして社会的に承認されることが欠かせないということである。(※傍線筆者

としたうえで、

しかしながら、同性カップルは、制度上、このような重要な人格的利益を享受できていないのである。

と指摘した。

「24条は同性婚を禁止せず」

 裁判で原告側は、同性カップルに婚姻が認められないことは24条1項に違反すると主張した。
 同性婚反対論者の多くは、この「両性の合意のみ」という条文をもって、憲法が婚姻を男女間に限定していると主張している。
 地裁判決は、日本国憲法が「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立」と定めたのは、旧民法下での婚姻が「戸主の同意」を定め、家と家の婚姻になっていたことを排除するためだったと述べた。
 そのうえで憲法制定時の議論などを踏まえ、24条1項にある「両性の合意」について、一般には男女間と解釈されてきたし、同性間の結合が議論された形跡はないとした。
 したがって、原告が言うように同性婚が認められていない現状がただちに24条1項に違反するとは言えないとした。
 ただ今回の判決は、憲法制定時に同性カップルの婚姻が「議論された形跡がない」だけであって、それはつまり、

同性間に対して現行の法律婚制度を及ぼすことが、同条1項の趣旨に照らして禁止されていたとまではいえないと解される。

とした。
 24条1項の「両性の合意のみ」が同性カップルの婚姻を禁止していないと明言した点で、今回の判決は画期的である。

婚姻の目的は「生殖」ではない

 LGBTQ+の諸権利や同性婚に否定的な保守派は、婚姻の目的が〝生殖〟にあるとし、それが日本の伝統的な家族観だと主張してきた。
 しかし判決は、約130年前の明治時代の旧民法にさかのぼって、

伝統的な家族観が支配的であった旧民法の起草過程という時期においてさえ、婚姻が両心の和合を性質とするものであるとされ、生殖不能が婚姻障害事由に掲げられなかったとおり、婚姻の意義は、単に生殖と子の保護・育成にのみあるわけではなく、親密な関係に基づき永続性をもった生活共同体を構成することが、人生に充実をもたらす極めて重要な意義を有するものと理解されていたと解される。(※傍線筆者

とした。
 現行憲法どころか明治20年代の旧民法起草時点でさえ、婚姻は特段に〝生殖〟を目的としておらず、むしろ「親密な関係に基づいた永続的な生活共同体」の構成に意義を認めていたと述べたのだ。
 そのうえで判決は、

このような親密な関係に基づき永続性をもった生活共同体を構成することは、同性カップルにおいても成しうるはずのものである。

とした。
 さらに国内外の社会の変化を挙げて、男女間を中核とした伝統的な家族観は唯一絶対のものでなくなっていると指摘。
 法律婚制度から同性カップルを排除していることで格差を生じさせながら、何ら手当てをしていない現状は合理性に欠け、もはや無視できない状況だとした。
 そして、これら不利益は結婚契約の公正証書などで完全に補えるものではなく、多大な数の人々がそのような不利益のもとに置かれてきたと述べた。

同性カップルに対して、その関係を国の制度によって公証し、その関係を保護するのにふさわしい効果を付与するための枠組みすら与えていないという限度で、憲法24条2項に違反するものである。(判決文)

「法の下の平等」に反する

 判決は憲法14条(法の下の平等)に関しても現状を「違憲」とした。
 これまで国側は、異性愛者も同性愛者も等しく〝異性と結婚することができる〟から、現行制度は「法の下の平等」に反していないと主張してきた。
 だが名古屋地裁は、

性的指向が向き合う者同士の婚姻をもって初めて本質を伴った婚姻といえるのであるから、性的指向が向かない相手との婚姻が認められるといっても、それは婚姻が認められないのと同義(※傍線筆者

と鋭く指摘した。
 性的指向という本人が選択・修正できない生来的なものを理由に、一部の国民にのみ事実上「婚姻が認められない」ことは、法の下の平等に反するとしたのだ。
 このように今回の名古屋地裁判決は、いくつもの点にわたって国や反対論者の主張を退けるものとなった。

39歳以下は「同性婚」重視

 同性婚(婚姻の平等)は、今や世界的に見ても社会の人権水準を象徴するものとなっている。
 注目されるのは、自民党支持層でも同性婚賛成が58%(2月の日本経済新聞調査)に達していることだ。だが自民党の萩生田光一政調会長は名古屋地裁判決を受けてもなお、

現行憲法下では、同性カップルに婚姻の成立を認めることは想定されていないというのが政府の立場であり、わが党も同様に考えている(「NHK NEWSWEB」5月30日

という立場だ。

同性婚の法制化に関しては、立民支持層の74.0%、維新支持層の86.9%、無党派層の76.3%が賛成した。反対と答えたのは自民支持層で29.3%、立民支持層で20.5%、維新支持層で10.6%、無党派層で13.5%だった。(『産経新聞』2月20日/《産経・FNN合同世論調査》2月18~19日

 安倍政権時代には若者の支持を集めた自民党だが、前回の参院選では若者の自民党離れが指摘された。より中道的な政策を掲げた野党に流れたのである。

「18歳から39歳」では「40歳以上」よりも、「高等教育の無償化」「選択的夫婦別姓制度の導入」「同性婚の合法化」を重要だと考える人が多かった。(「読売新聞オンライン」2022年8月16日

 公明党の北側一雄副代表は4月30日のNHK討論番組で、同性婚の法制化を検討すべき時期に来ていると発言した。
 法制化にあたって公明党は間違いなく重要な役割を担う。だからこそ「議論を深める」という言葉が消極的と受け取られては元も子もない。党内の議論をできるだけ加速させて、わかりやすい発信をしてほしい。
 次の衆院選では、たとえ主だった争点にはならずとも、「同性婚法制化の賛否」が有権者にとって自分と各政党、自分と候補者の価値観の距離を測るメルクマール(指標)になることは確実だろう。

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シリーズ:「わたしたちはここにいる:LGBTのコモン・センス」(山形大学准教授 池田弘乃)
第1回 相方と仲間:パートナーとコミュニティ
第2回 好きな女性と暮らすこと:ウーマン・リブ、ウーマン・ラブ
第3回 フツーを作る、フツーを超える:トランスジェンダーの生活と意見(前編)
第4回 フツーを作る、フツーを超える:トランスジェンダーの生活と意見(後編)
第5回 社会の障壁を超える旅:ゆっくり急ぐ