LGBT法の早期成立を――与野党の合意形成を望む

ライター
松田 明

「差別が許される国などありません」

 G7広島サミットを目前にした5月12日、LGBTQ+コミュニティの権利を支持し差別反対を訴える在外公館のビデオメッセージが公開された。
 登場したのは米国、アルゼンチン、アイルランド、デンマーク、スウェーデン、オーストラリア、フィンランド、オランダ、イギリス、ノルウェー、ベルギー、カナダ、ドイツ、アイスランド、EUの15カ国・地域の駐日大使ら。
 4月におこなわれた「東京レインボープライド2023」には、25の在外公館が参加。公明党の谷合正明参議院幹事長(LGBT超党派議連事務局長)ら、与野党の国会議員もパレードに加わった。
 ビデオメッセージを公開したエマニュエル米国大使は声明文を発表している。

先月、25の在日外国公館が何千人もの日本人と共に「東京レインボープライド2023」に参加し、婚姻の平等、普遍的人権、そして日本や世界中のLGBTQ+の人々に対する国際的な支持を表明しました。
差別が許される国などありません。全ての人々が平等であると信じるのであれば、私たちは国内外で声を上げ、立ち上がる義務があります。「東京レインボープライド2023」は閉幕しましたが、全ての人々の平等を実現する私たちの取り組みは続きます。(ラーム・エマニュエル米国大使の声明の一部

若い女性の9割超が同性婚に賛成

 世界ではすでに5大陸34の国と地域で同性婚が法制化されている(「世界の同性婚」公益社団法人Marriage For All Japan)。
 これは「Marriage Equality(婚姻の平等)」と表現されていることからもわかるように、特定の人についての問題ではない。「婚姻」という基本的な権利をすべてのセクシャリティの人に認めるべきだという意識の潮流だ。
 結婚は愛し合う2人が人生を共に歩むための一つの選択であり、必ずしも子供を産むためだけにするものではない。異性間の結婚でも子供が授からないことは珍しくないし、子供を産まない選択をするカップルや高齢者同士の結婚もある。
 そうした結婚の権利が異性間にだけ認められて、同性のパートナーには与えられないというのは、基本的な人間の権利に反するだけでなく社会の脆弱性につながる。この認識が今や先進諸国に広がっているのだ。
 広島サミットに参加するG7諸国も、議長国の日本以外はすでに同性婚とLGBTQ+に対する差別禁止を法制化している。
 日本社会でもこの数年で変化は起きており、5月1日に共同通信が実施した最新の世論調査では、同性婚を認めるほうが良いが71%に達し、認めないほうが良いの26%を大きく上回った。
 同じ日に発表されたJNN世論調査では、18歳以上30歳未満の女性の91%が同性婚に賛成(反対は4%)している。
 少なくとも同性婚に対する日本社会の理解は、すでに機が熟したと言えるのではないだろうか。

2022サミットの共同声明

 岸田首相も署名した前回2022年のG7エルマウサミット(ドイツ)の首脳コミュニケには、

LGBTIQ+の人々の政治、経済及びその他社会のあらゆる分野への完全かつ平等で意義ある参加を確保し、全ての政策分野に一貫してジェンダー平等を主流化させることを追求する。(「G7首脳コミュニケ」

と明記されている。
「あらゆる分野への完全かつ平等で意義ある参加を確保」であるから、婚姻も当然そこに含まれる。個別の政策は各国の内政の問題とはいえ、差別禁止法制化や同性婚の実現は日本が国際社会と合意したことも同然なのだ。
 2023年の議長国が前年の首脳コミュニケさえ履行しようとしないのであれば、広島サミットの首脳コミュニケの意義と信頼性に疑問符がつく。日本の信用も大きく損なわれてしまうだろう。
 与党でも公明党は、これまでも当事者たちの声を聞き、パートナーシップ制度を推進するなどLGBTQ+の人権擁護に積極的にかかわってきた。
 東京レインボープライドの直後、4月30日には北側一雄副代表がNHKの討論番組で、同性婚の法制化に向けてこう発言をした。

同性婚について「法制度として認めていくことを検討すべき時期に来ているのではないか」と述べ、前向きな姿勢を示した。婚姻は「両性の合意のみに基づく」とする憲法24条は「決して(同性婚を)否定していない」と強調した。(「朝日新聞デジタル」4月30日

 与党内から同性婚の法制化検討の時期が来ていると明言された意義は大きい。

大局観で幅広い合意を目指すべき

 じつは先の在外公館によるメッセージが公開された5月12日、自民党は「LGBT理解増進法案」についての合同会議を開いていた。
 2021年5月の時点で、自民党を含む超党派の議連は法案をまとめていた。ところが国会提出の直前になって、自民党保守派の一部から反対論が出て提出が見送られていた経緯があった。
 今回、自民党はその法案をもとに議論をしたが、保守派からまたしても反対論が噴出。「性自認を理由とする差別は許されない」という文言を「性同一性を理由とする不当な差別はあってはならない」などと修正して、幹部一任というかたちに持ち込んだのだ。
 日本国憲法の第14条には、

すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。

とある。超党派議連の法案にあった「差別は許されない」は、この14条の文言に沿ったものである。
 それでも岸田首相としてはなんとかG7の前に国会提出をすべく、保守派への配慮は示したうえで、党内の異論を抑え込んででも法案成立へ道筋をつける覚悟を見せた。
 公明党の山口代表も、日本の現状を変えることが先決だとして、

「法制的な意味が変わらない範疇(はんちゅう)で文言をいろいろと検討することは否定すべきものではない」と、一定の理解を示した。(「朝日新聞デジタル」5月11日

 ちなみに自民党の修正案では「性自認」を「性同一性」と書き換えたが、本来はどちらも「gender identity」の訳語である。
 日本維新の会は自民党の修正案を受け入れる構え。立憲民主党や日本共産党は自民党の修正案に反発しているが、ここにきて「100かゼロか」の原理主義を持ち出して法案成立に反対するようなことはすべきではない。
 もとより理解増進法は罰則のない理念法であり、社会を変えていく第一歩に過ぎない。世論はすでに同性婚賛成にまで大きく傾いている。国際社会も期待をもって見守っている。だからこそ大局観に立って、国会で幅広い合意を取りつけながら堀を一つずつ埋めていくことが大事なのだ。
 正義という名の杖を振り回せば魔法のように何かが完璧に変わるわけではない。いかに煩わしくとも、社会を改善していくとはそういうことだろう。
 支持者へのアピールで政局化して「対決」し、法制度を全否定するような愚だけはやらないことを願いたい。

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シリーズ:「わたしたちはここにいる:LGBTのコモン・センス」(山形大学准教授 池田弘乃)
第1回 相方と仲間:パートナーとコミュニティ
第2回 好きな女性と暮らすこと:ウーマン・リブ、ウーマン・ラブ
第3回 フツーを作る、フツーを超える:トランスジェンダーの生活と意見(前編)
第4回 フツーを作る、フツーを超える:トランスジェンダーの生活と意見(後編)
第5回 社会の障壁を超える旅:ゆっくり急ぐ