公明党が激怒した背景――自民党都連の不誠実と傲慢

ライター
松田 明

自公の幹事長・選対委員長会談後に取材に応じる公明石井幹事長と西田選対委員長(5月25日)

 5月25日、公明党が「東京における自民党との選挙協力を解消する」というニュースが駆け巡った。
 同日昼、石井啓一幹事長と西田実仁選対委員長が、自民党の茂木敏充幹事長と森山裕選対委員長と国会内で会談。公明党は、この日の党常任役員会で決定した方針を伝えた。

①「東京28区」で公明党として候補者を擁立しない
②公明党が候補を公認した「東京29区」で自民党の推薦を求めない
③東京の小選挙区で公明党は自民党候補を推薦しない
④今後の都議選や首長選などで自公の選挙協力をしない
⑤都議会における自公の協力関係を解消する

というもの。
 石井幹事長は記者団に、会談のなかで「東京における自公の信頼関係は地に落ちた」と伝えたことを明かした。
 茂木幹事長は「持ち帰って検討させてほしい」としたが、石井幹事長は「党の最終方針なので、この方針を変えることはない」と応じた。
 なお公明党は、これは東京に限定した話であり、連立に影響させるつもりも、他の46道府県に影響を及ぼすつもりもないとしている。
 この件に関して、公明党側が「欲をかいている」「恫喝まがい」等の態度に出ているかのような一部報道は、あきらかに取材不足でありミスリードさせるものだろう。
 西田選対委員長はよほど腹に据えかねたのか、26日に自身のツイッターを更新して交渉の経過を明らかにした。

本日の公明新聞にも掲載されましたが、「10増10減」に伴うここ最近の報道やコメントを見ていると、わが党が「強引だ」とか、あたかも欲をかき、自民党を脅しているかのような表現は、甚だ心外なので、交渉に携わってきた当事者として、一言申し上げたい。(西田議員のツイート/5月26日

「5月まで待ってほしい」

 ことの発端は、いわゆる1票の格差を是正し衆議院の小選挙区を「10増10減」する改正公職選挙法が昨年11月18日に成立したことだった(12月28日施行)。
 全国に289ある小選挙区のうち、公明党が議席を持っているのは9議席のみ。全体の3%でしかなく自民党の189議席と比べてあまりにもバランスが悪い。
 公明党は長年、このことで自民党と協議してきたが、自民党の現職がいるところに候補者を立てることはせず、与党としての議席の最大化を優先して自民党候補を推薦してきた。かわりに近年では「比例区は公明」を求めてきたものの、誠実に相互協力する自民党候補者もいれば、公明の比例票獲得に消極的な候補者もいる。
 そんななか、自民党衆議院議員が政治資金規正法で略式起訴され辞職したことに伴う4月の千葉5区補選で、公明党は候補者擁立を自民党に打診した。
 だが自民党は公明党に候補者擁立を断念するよう強く求め、「東京28区を調整・説得するので、5月まで結論を待ってほしい」とした。
 公明党は千葉5区での候補擁立を断念し自民党候補を推薦。結果は、4943票差で自民新人が立憲新人に辛くも競り勝った。1小選挙区あたり1万~2万以上といわれる公明票がなければ、自民党候補が落選していたことは明白である。
 ちなみに同じく補選で自民候補が勝った山口2区は野党候補と5768票差、参議院大分選挙区に至っては341票差だった。
 この折、自民党が公明党に提示した「東京28区」は「10増10減」によって新設された選挙区だ。西田選対委員長もここに自民党の候補者がいないことを確認し、自民党からも28区での公明党候補擁立を「自民党本部としても最大限努力する」との話を得ていた。
 ところが5月23日になって自民党は「東京都連としてすでに候補者を決定していることもあり、党本部が地元を説得して全面的に協力することは困難」と伝えてきたのだ。
 代替案として自民党が示したのは東京12区(新規編成)、東京15区だったが、両選挙区とも自民党の現職がいる。公明党が望んだ選挙区でもなく、とても吞める話ではない。

都連幹事長の信じがたい発言

 自民党側の不誠実な対応はさらに重なった。「10増10減」で旧東京12区は分割され、一部が荒川区などと合わせて新東京29区となった。
 これに伴って、旧東京12区選出の岡本三成衆議院議員は新29区を選択した。もともとの選挙区が分割されたので一方を選択しただけの話で、この点〝国替えした〟という一部報道がそもそも間違っている。
 これまで自民党議員が選挙区を「選択」する際、公明党に相談したことはない。それでも公明党は自民党との協調関係を尊重して、事前に茂木幹事長らにも相談。了解を得たうえで、本年1月25日に公認を発表した。
 この際も自民党側は「地元の反発があっても、しっかり説得していく」と応じている。
 だが5月の大型連休が明けて岡本議員が高島・都連幹事長にあらためて挨拶したところ、高島氏から「今回の公明党のやり方は強引だ」「自民党の現場は応援しない」「自民党の公認がなくても出馬したい人がいる。その人を応援する」との信じがたい発言があった。
 信義を重んじ礼を尽くしてきた公明党に対し、東京都連の首脳が今さら「強引だ」と筋違いの非難をし「応援しない」とまで言い切るのだから、公明党側も東京の自民党候補を応援する義理はない。
 つぶさに経緯を見れば、日頃は抑制的な公明党が「東京における自公の信頼関係は地に落ちた」と表明したこともうなずけるだろう。

「政治の安定」のための信頼関係

 しばしば、公明党は政権に就くことが最優先であるかのような訳知りの話が出される。だが2009年に民主党が政権を獲った際、民主党は公明党にも連立参加を幾度か求めたが、公明党は応じていない。
 2012年の暮れに再び自公への政権交代が起きた折も、公明党の山口那津男代表は〝民主党が自ら転落した選挙結果であって自公が積極的に信任されたわけではない〟とし、安倍総裁との党首会談では「真摯な積極的な姿勢と謙虚な姿勢の両方を併せ持って対応しなければならない。(両党の)互いの持ち味の違いをいい方向に協調的に生かしていく」と強調した。
 民主党政権下では内政・外交にわたり、政治が不安定化することの代償の大きさを国民は痛感した。公明党が再び連立政権に参画したのは、政治の安定を最重視したからだ。
 自民党と公明党は連立政権を発足するにあたって合意文書を交わした。そこには、

決して驕ることなく、真摯な政治を貫くことによって結果を積み重ね、国民の本当の信頼を取り戻さなくてはならない。(「自民・公明連立政権合意」

と明記されている。
 この10年余り、欧米の先進諸国でも政治の不安定化とポピュリズムが顕著になっている。一方で〝強権国家〟と呼ばれる国々では政権が長期化している。
 こうしたなかで日本の政権が極端に振れず、世界でも例外的に安定していることについては、欧米の政治学者やエコノミストも高く評価してきた。政治学者で中央大学教授の中北浩爾氏は、

誤解を恐れずにいえば、自公連立は現在の日本政治で唯一の安定的な政権の枠組みになっている。(中北浩爾『自公政権とは何か』ちくま新書)

と綴っている。
 菅義偉・前首相は今回の問題について、

大変残念な現状だ。自公の信頼は政治の安定につながる。まして、自民党はいま、参議院で単独過半数を持っていないのでお互いが配慮して、意思疎通を図っていく必要がある。(「NHK NEWSWEB」5月27日

と述べた。
 自民党とりわけ東京都連の不誠実で傲慢な姿勢は、きわめて問題だと言わざるを得ない。

関連記事:
公明党、次への課題――SNSは宣伝ツールではない
なぜ公明党が信頼されるのか――圧倒的な政策実現力
公明党を選ぶべき3つの理由――地方議員「1議席」の重み
物価高騰へ政府の本気――発揮された公明党の底力
大阪の中学生がいちばん支持した政党は?――ネットワーク政党ならではの力
日韓関係の早急な改善へ――山口代表が尹大統領と会談
2023年度予算案と公明党――主張が随所に反映される
都でパートナーシップ制度が開始――「結婚の平等」へ一歩前進
書評『今こそ問う公明党の覚悟』――日本政治の安定こそ至上命題
若者の声で政治を動かす――公明党のボイス・アクション
雇用調整助成金の延長が決定――暮らしを守る公明党の奮闘
G7サミット広島開催へ――公明党の緊急提言が実現
核兵器不使用へ公明党の本気――首相へ緊急提言を渡す
「非核三原則」と公明党――「核共有」議論をけん制
避難民支援リードする公明党――ネットワーク政党の本領発揮
高まる公明党の存在感――ウクライナ情勢で明らかに
公明党〝強さ〟の秘密――庶民の意思が議員を育てる
ワクチンの円滑な接種へ――公明党が果たしてきた役割