27年ぶりの「閣外協力」政権
10月20日、自由民主党と日本維新の会が〝連立政権〟を樹立することで正式に合意し、両党首が「連立政権合意書」に署名した。
従来、閣僚を出さない場合は国際的にも「連立」とは呼ばない。これまでの教科書とも整合性がとれなくなる。それでも両党が「連立」という呼称にこだわっているのは奇妙な話である。
ともあれ、これによって本日21日に臨時国会が召集され、首班指名選挙の結果、自民党の高市早苗総裁が内閣総理大臣に指名された。
憲政史上初めての女性の内閣総理大臣の誕生であり、女性の社会進出を不当に阻んできた〝ガラスの天井〟が国政の場で破られたことは意義深い。
初の女性首相の登場によって、社会のあらゆる場面で今以上に女性リーダーが登用され、活躍しやすくなる社会になることを願っている。
その意味でも、国民の1人として、まずは高市氏の首相就任に率直な祝意をお贈りしたい。
今回、日本維新の会は閣僚や政務官を出さない「閣外協力」にとどまった。これはじつに27年ぶりの出来事である。
1994年6月に自民党と社会党、新党さきがけによる「自社さ政権」が誕生した際、当初は社会党もさきがけも閣僚を出していた。
だが、1996年10月の第41回衆議院選挙の結果、自民党は28議席増となったが依然として過半数には届かず。
一方、連立を組んだ社会党は30議席から15議席へと半減。さきがけも9議席から2議席へと惨敗した。
その後、第2次橋本内閣の組閣にあたっては、社会党も新党さきがけも「閣外協力」に撤退している。
1998年5月に一部議員の復党などで自民党が単独過半数に達すると、6月1日をもって社会党と新党さきがけは「閣外協力」を解消。
翌7月の第18回参議院選挙で自民党は、東京、埼玉、神奈川、愛知、大阪、京都、兵庫など大都市圏で軒並み全滅するなど大敗し、橋本内閣は退陣に追い込まれた。
自民党の要請で公明党が連立に参画するのは、その翌年である。
「全面禁止」が公約だった日本維新の会
その公明党が足掛け26年におよんだ連立に区切りをつけたのは、ひとえに自民党の「政治とカネ」の問題への姿勢に変化が見られなかったからだ。
政策を遂行するためには、国民の政治への信頼こそが大前提となるのだが、2023年秋に噴出した「政治とカネ」の問題が、国民の大きな政治不信を招いてきた。
とりわけ焦点になっていたのは政党への企業団体献金で、この「政治とカネ」が表面化すると、立憲民主党や日本維新の会は企業団体献金の〝全面禁止〟を主張した。
一方、自民党は〝禁止ではなく透明化〟と主張し、双方の隔たりは埋まる気配がなかった。
結果として、2024年10月の第50回衆議院選挙で自民党は大敗。連立与党の公明党はクリーンさが信条だっただけに、より大きなダメージを受けて党代表まで落選する大敗北を喫した。
斉藤鉄夫新代表は同年11月の自公党首会談で「政治とカネ」の決着を要求。この問題は自民党こそ当事者として巻き込まないと意味がない。その自民党には、地方議員個人や候補者にまで紐づいた政党支部が7700以上もあって、実態が不透明だった。
そこで、年が明けた2025年3月には、公明党と国民民主党で、政治資金の受け皿となる政党支部を政党本部と都道府県連に限定する折衷案を提示。
それでも自民党が難色を示したため、3月末にはさらに譲歩して、政党支部が政治資金収支報告書をオンライン提出し、インターネット上で公開することを条件に、政党支部への献金を継続させることで、自民・公明・国民の実務者では合意していた。しかし、自民党内では反対論が起きる。
7月の第27回参議院選挙で、ふたたび自民・公明が大敗。衆参ともに与党が過半数を割るという、きわめて不安定な政権運営に直面した。
8月に入ると、立憲民主党が「全面禁止」を取り下げ、3月の公明・国民の案をベースに協議することを自民党に提案。この際は石破首相も応じる姿勢を示したが、党内から〝石破おろし〟が強まり、9月に入って石破首相は退陣表明をする。
今回、公明党が高市総裁が選出された10月4日のうちに、あえて「政治とカネ」を連立合意の条件として出したのも、このまま態度を鮮明にしない自民党と連立を組むことは、もはやできないと判断したからだ。
NHKが10月13日までの3日間に実施した世論調査でも、「高市総裁に最優先で取り組んでほしいこと」の第1位は「物価高対策」だが、第2位は「政治とカネ」で、第3位の「社会保障・少子化対策」、第4位の「外国人に対する政策」、第5位の「外交・安全保障」を大きく上回っている。
さらに「自民党の役員や閣僚の人事で、政治資金収支報告書に不記載があった議員を起用することへの賛否」では、69%が「反対」と回答した。
このように依然として「政治とカネ」の解決が国民の重要な期待であるなか、日本維新の会が自民党との「連立合意」に踏み切った。
日本維新の会は企業団体献金について、自民党とはもっとも距離がある「全面禁止」を公約に掲げて参院選を戦った政党なのだ。
維新幹部「論点をずらす思惑がある」
ところが両党の連立合意文書では、この「企業団体献金の廃止」については、あれこれ言い訳を並べた挙句、
協議体を令和七年臨時国会中に設置するとともに、第三者委員会において検討を加え、高市総裁の任期中に結論を得る。(『日本経済新聞』「自民党と日本維新の会、連立政権合意書の全文」/10月20日)
としか書かれていない。
つまり、相変わらずの「これから検討する」であり、期限も高市総裁の任期が切れる2年後の2027年9月までと後退させ、事実上の棚上げをした。
そして、連立への協議が進んでいた10月17日になって、日本維新の会の吉村洋文代表は唐突に「議員定数の削減」を連立への〝絶対条件〟に加えてきた。
朝日新聞は「維新、急に持ち出した議員定数削減 『絶対条件』が3つに増えた思惑」との見出しで、次のように報じている。
1回目の政策協議が行われた16日まで「絶対条件」は副首都構想と社会保障改革の二つだけだった。定数削減を突然訴え始めた理由について、維新幹部は「献金禁止は厳しいから」とし、論点を「献金禁止」から「定数削減」にずらす思惑もあると打ち明ける。
維新は献金禁止を訴えるが、自民は重要な資金源の減少につながるとして否定的。高市氏周辺は定数削減について「協議体を立ち上げて少しずつ進めればいい」と語る。(「朝日新聞デジタル」2025年10月17日)
自民党には「企業団体献金の禁止」に合意する気配がない。このまま日本維新の会として連立に踏み切ると、自民党の「政治とカネ」を温存させたと国民の批判を招く。
そこで論点をずらすために「議員定数の削減」を急に〝絶対条件〟にしたというのである。
議員定数の削減は、自民・立憲・維新・国民・公明・共産・れいわ・参政・有志・こどもの10会派が参加する「衆議院選挙制度に関する協議会」で、2025年も8回の会議を開催。令和7年(2025年)の国勢調査の結果を待って、26年春に結論を出すことで各党各会派が合意していた。
「衆議院選挙制度に関する協議会」座長である自民党の逢沢一郎衆議院議員も、自身のⅩで、
今与野党で「衆議院選挙制度に関する協議会」で議員定数を含めて、あるべき制度を議論中。この状況のなか、自民・維新でいきなり定数削減は論外です。(10月16日の逢沢議員のポスト)
と、連立パートナーとなる維新の強引な動きを牽制した。
ダメージを受けるのは挑戦する若者
吉村氏はテレビ番組などで、「議員定数削減」を「身を切る改革の1丁目1番地」と語り、これが合意できなければ自民党との連立はあり得ないと豪語した。
しかし、そもそも「議員定数の削減」については、各方面からその有効性や意義に疑問が出ていたものだ。
たとえば2016年に有識者による「衆議院選挙制度に関する調査会」(座長・佐々木毅元東京大学長)が衆議院議長に提出した答申では、
現行の衆議院議員の定数は、国際比較や過去の経緯などからすると多いとは言えず、これを削減する積極的な理由や理論的根拠は見出し難い。(「衆議院選挙制度に関する調査会答申」)
と、衆議院議員の定数削減に合理的な理由が見出せないことを述べている。
また、「チームみらい」の安野貴博代表は自身のXに【議員定数削減のデメリット】と題して、むしろ国民・有権者にとってデメリットのほうがはるかに大きいことを示した。
政治不信の中、「ロクに仕事をしない議員なんか減らすべき!」と思われる方がいらっしゃることは理解できます。しかし私は議員定数削減は政治の新陳代謝を悪化させ、むしろ議会への信頼度を落とす可能性があると考え、反対の立場です。
理由は3点です。
1)国会議員の新陳代謝がより悪化する
2)諸外国と比較して日本は国会議員の数がそもそも少ない
3)定数削減によって得られるコストメリットは限定的
(10月18日の安野代表のポスト)
安野代表はこのように綴り、データを示して、大要次のようにデメリットを示している。
①よりダメージを受けるのは、今後政治を変えたいと思ってチャレンジをしようとする人たち、若者たちであること。
②「人口あたりの議員の人数」が多ければ多いほど、緊密に政治家と有権者の間でコミュニケーションをとることができ、結果として議会の信頼度が上がっている可能性があること。
③地方自治体の場合と異なり、国家予算100兆円と比較すると、定数削減で得られるコストメリットは限定的であること。
斉藤代表「特定政党間で決めるのは乱暴」
公明党の斉藤鉄夫代表は10月20日の外国人記者クラブでの講演の質疑応答で、「公明党としては衆院の定数削減の議論そのものには反対しない」としたうえで、自民と維新が「比例区のみ50削減」という案で話を進めていることに言及。
現行の小選挙区比例代表並立制について「小選挙区だけではすくいきれない民意の反映を目的とするのが比例区だ」と強調。小選挙区3、比例区2の配分が基本理念だと語った。維新が自民と進める議員定数削減を巡り「特定の政党間だけで決めるのは極めて乱暴だ」(『産経新聞』10月20日)
として、これまで同様に全党での協議会で丁寧に議論を続けるべきという見解を示した。
さらに記者とのやり取りのなかで、
今回、いわゆる企業団体献金をどうするのか、いわゆる「政治とカネ」の問題が大きなテーマだったはずだが、いつの間にか定数削減という方に関心が移るような感じになっている。それは、今回のもっとも国民が関心を持っていることに対してのすり替えではないか。(斉藤鉄夫 公明党代表 記者会見 生中継 主催:日本外国特派員協会/ニコニコニュース)
と疑問を呈した。
「政治とカネ」と「不祥事」の政権
公明党の斉藤代表は20日の会見で、「政治とカネ」に向き合おうとしない自民党と日本維新の会の姿勢を批判した。
斉藤氏は自民と維新の合意文書について「自民派閥のパーティー収入不記載問題についての国民の疑念の払拭を図るという努力、姿勢がなんら示されていない」と批判。企業・団体献金の廃止をめぐっては、高市氏の総裁任期である令和9年9月までの合意を目指すとしたことについても「進展のないもので、大変残念だ」と述べた。(『産経新聞』10月20日)
その目くらましが「国会議員の定数削減」なのである。
有識者による「衆議院選挙制度に関する調査会」が答申に明記したように、衆議院の定数を削減することそのものに、何ら合理的な理由は見いだせない。
チームみらいの安野代表がデータで示したように、むしろ削減されることでダメージを受けるのは「政治を変えたい」とチャレンジする若者たちであり、国民1人当たりの議員数が減るだけ「政治への信頼」は下がり、コスト的にもほとんど意味は見いだせない。
憲法第43条は「両議院は、全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する」と定めている。
国会議員の定数削減は、人口の少ない地方の民意や少数意見が国政に反映されにくくなり、代表制が不十分になる可能性があると指摘されてきた。
憲法が保障する問題に絡むからこそ、すべての会派が参加して議論を進めるべきである。
政治的信条は異なるといえ、筆者は今でも初の女性首相が日本に誕生したことは画期的だと思っているし、50歳と44歳の若い共同代表の政党が連立のパートナーになることも、「若さ」という点ではやはり日本社会にとって好ましいことだと期待している。
とはいえ、「政治とカネ」の解決を後回しにし続けている自民党と、何年にもわたって、時にはまるで〝日替わり〟のように議員の不祥事を連発させてきた日本維新の会が政権を担うことには、有権者として厳しい目を向けざるを得ない。
その連立合意の絶対条件が、目くらましのインチキ手品のように「政治とカネ」からデメリットだらけの「議員定数削減」にすり替わったのではたまったものではない。
維新と連立しても少数与党であることに変わりはなく、これからも厳しい国会運営が続く。だからこそ、自民党と日本維新の会には、もっと謙虚な姿勢で、有権者に誠実な振る舞いを期待したいのだ。
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