選挙における「見え方」問題――ポイントは清潔感と笑顔

ライター
松田 明

「ルックス」と得票率の研究

 今回は、選挙における候補者の「見え方」の話である。
 ルッキズムという言葉をご存じの方も多いだろう。「外見至上主義」とも言われ、容貌や外見で人を評価したり差別したりすることだ。SNSの普及とともに、人々は自分や他人の外見を消費することに熱心になり、同時にそのことで息苦しさを感じている人も多い。
 外見や年齢で人を公然と揶揄するようなことは、日本でも社会通念として許されなくなりつつある。

 そもそも何に「美醜」「好悪」を感じるかは、時代や文化、個々人によって違いがある。そのうえで、私たちは視覚情報として入ってくる他者の〝イメージ〟によって、親しみや信頼感を覚えることもあれば、なんとなく好感を抱けなかったりもするのも事実である。
「見た目」のイメージで自分の感情が影響されることは、程度の差はあれ往々にして避けがたい。

 そして、じつは芸能界に匹敵するほど外見にこだわる世界が、政治の世界ではないだろうか。さまざまな職業があるなかで、一部の政治家の外見への執着は、ちょっと他とは比べものにならないのではないかと、かねて思っていた。
 多くの政治家が、選挙にとって「外見」の印象が少なからぬ影響を持っていると考えている証左でもある。

 さる6月6日、朝日新聞に興味深い記事が出た。選挙で候補者のルックスが得票に大きく影響していることを、政治学のデータ分析が示し続けているというものだ。
 記事が取り上げたのは、横浜市立大の和田淳一郎教授が学術誌に発表した論文。

 タイトルは「候補者の顔貌(がんぼう)が得票に与える影響について」。2023年の横浜市議選に立候補した138人の「顔面偏差値」を、人工知能(AI)で算出。得票との関係を調べた。
 すると、顔面偏差値が1上がるごとに、得票が少なくとも50票程度増えるとの結果になった。偏差値70の人は50の人より1千票以上も多くの票が得られることになる。
 議会での実績がない新人候補だとルックスの「効果」はとくに高く、偏差値が1上がるごとに少なくとも約100票の得票増が期待できるとわかった。このときの横浜市議選では、100票未満の得票差が当落を決した区もあった。顔面偏差値による当落への影響は「全くもって無視できない」と指摘した。(「朝日新聞デジタル」2025年6月6日

 記事にも紹介されていたが、候補者のルックスと得票の関係についての研究は、米国などでいくつもの先行研究がある。
 外見や振る舞い方の魅力を発信して選挙を有利に戦った先駆的な例は、おそらくケネディ大統領だろう。テレビが家庭に普及した時代、洋の東西を問わず、政治家は自分の見せ方に関心を払わなくてはならなくなった。
 中曽根首相が著名な演出家をブレーンの1人にしていたことは有名だ。

3割以上が「ポスターを重視」

 日本でも小選挙区が導入されると、現職に対抗馬を立てるうえで、とりわけ実績のない新人候補者の場合、「見た目」イメージは軽視できなくなった。
 実際、今世紀に入ったあたりから、なにやらキラキラした外見の新人候補者を担ぎ出す政党は日本でも増え始めた。元祖はかつての民主党であり、それ以降の新しい政党も、どちらかというとそうした傾向にある。

 政治家は本来、政策を練り上げて遂行する能力、合意形成力、有権者の声を拾う能力、なによりも高い倫理観をもって自分を律するモラルが求められるはずで、容姿がいかに美しかろうと、これらを欠いた人物では意味がない。
 とはいえ、すべての有権者が各候補の掲げる政策や、その能力まで評価して投票できるかというと、そこもなかなか難しい。

 特段の支持政党を持たない無党派層のなかには、それこそ投票所の前の掲示板で各候補のポスターを眺め、好印象を持った候補に投票するという人が、決して少なくないといわれる。
 2016年に実施されたある調査では、「投票先を決める際に選挙ポスターをどれくらい重視するか」という問いに、全体の25%強の人が「とても重視」「やや重視」と回答している。しかも「毎回必ず行く」「できるかぎり行く」人ほどポスター重視の割合は高く、30%を超える(「第37回政治山調査(読売IS合同)」2016年4月22日「政治山」)。

 その結果、見かけだけのキラキラ候補が、当選するなり不祥事を起こすような例は、男性も女性も枚挙にいとまがない。
 しかし一方で、政治家が選挙戦を戦ううえで視覚的イメージに無関心でいては厳しいというのも、是非はともかく動かしがたい事実なのである。
 では、選挙戦において留意すべき「イメージ」「見た目」とは、どういうものなのだろうか。

絶対不可欠なのは「清潔感」

 多くの政治家が見た目の若々しさにこだわるのは、若々しいイメージのほうが選挙に有利だと考えているからだろう。
 ここで、ちょっと興味深いデータがある。ビデオリサーチが年2回実施している「タレントイメージ調査」(2025年1月度)というものだ。
 この調査で男性部門の人気ランキング13連覇の1位をキープし続けているのはサンドウィッチマンである。
 2025年1月の調査でも、大谷翔平を抑えて1位になっている。

 ご存じのようにサンドウィッチマンの2人は既に50代で、いわゆるイケメン系とは対照的なキャラクターで売っている。
 その2人が、並み居るイケメン系の俳優や若手タレントらを抑えて、13連覇しているのである。彼らの好感度の秘訣は何なのだろうか。彼らの人柄や話し方などのほかにも、好感度を支えている何かがあるはずだ。

 じつは、お笑い芸人の世界で売れる人には、絶対的に不可欠な共通要素があるのだという。それが「清潔感」なのだ。
 先のイメージ調査では、博多華丸・大吉が6位、千鳥が7位、チョコレートプラネットが11位、ナイツが18位、秋山竜二とバカリズムが19位。
 どのタレントもお世辞にも「若さ」「イケメン」系ではない。しかし、たしかに共通してあるのは、徹底して意識的に準備された「清潔感」である。(NEWS PICKS「【完全版】M1グランプリに見る「売れる人」の印象術」2023年12月25日

 政治家の場合も、もちろん若々しく見えることも大事かもしれないが、絶対的に必要な要素は「清潔感」ではないか。人が「若さ」に惹かれるのは、そこに「清潔感」を感じる要素も大きいのだと思う。
 たとえばこの9月で85歳になる麻生太郎氏が若い世代にも根強い人気があるのは、単にマンガ好きを公言しているからだけではないはずだ。姿勢や歩き方など立ち居振る舞いが若々しいという面もあろうが、なによりも外見に清潔感があるからだろう。

 やや余談だが、とくに男性の服装では若いほど肌を露出することでプラスの印象が高まり、逆に年齢を重ねるほど露出を減らし、衣装を重ねていくほうがプラスの印象になるという専門家の話を読んだことがある。
 たしかに10代なら健康的に見えるタンクトップ姿も、中高年がやればたいていは清潔感のない印象になる。

「笑顔度」と「得票率」

 選挙において、もう一つ重要な要素になるのが「笑顔」であるという。これについても、国内外でいくつもの研究がある。
 たとえば人間の主観によらず、自動顔認証技術を用いて候補者のポスターの「笑顔指数」を弾き出した2012年の日本のある研究(ジャーナル「Political Psychology」掲載)では、笑顔指数0%のポスター候補に対して100%の候補は、得票率で2.3%上回るというデータが示されている。

 もっとも、選挙の種類などによっては、笑顔と得票率の因果関係に有意差が出ない研究もあるので単純ではない。
 笑顔と選挙の研究で知られる拓殖大学の浅野正彦教授は、2017年の衆議院選挙の選挙ポスターに関して、以下のような見解を示している。

候補者が2~3人の選挙区では笑顔度と得票は無関係だったが、候補者が4人以上だと笑顔度が高いほど得票が増えた。(『毎日新聞』2019年1月14日

 また、浅野ゼミの学生による2024年衆議院選挙についての共同研究では、20代の新人候補者にかぎっては「真顔」のポスターが得票率に優位だが、候補者の年齢が高くなるにつれて「笑顔」が得票率にプラスの影響を与えるというデータが示された(「選挙ポスターの表情が得票率に与える影響について ー2024年衆議院議員総選挙ー」)。

 もちろん、これらは特定の選挙でのポスターに限った調査ではある。選挙活動中の表情にそのまま当てはめることはできないし、選挙戦の序盤、中盤、終盤で、どの場面で笑顔を見せ、どの場面で真顔を見せるのがふさわしいかも変わってくるのだろう。
 ただ、近年はアスリートの世界でも明るい「笑顔」の選手が好成績を収める傾向が見られ、それに伴って人々が真剣勝負の場に求める表情も変化してきているように感じられる。

「北多摩3区」の勝因

 先の都議選で公明党が大逆転劇を果たした「北多摩3区」の陣営関係者に取材してみたが、いくつかの数字を照らし合わせると、やはり今回は従来の支持層の外に、新たな票を1割程度は獲得した可能性がきわめて高いことがわかった。
 従来の地道な〝どぶ板〟選挙戦に加え、候補はSNSや動画配信を駆使して、できるかぎり双方向のコミュニケーションが生まれるように心がけた。そこから新しい「ネット地盤」が生まれた。

 最終盤で若者たちが候補と一緒に街宣に立ち、自らマイクを握って言葉を発した場面も、予定原稿など一切なし。その場の本人たちの意思に任せたことで、予定調和ではないライブ感の高揚が生まれたそうだ。
 あきらかに従来の公明党支持層とは異なる若い世代が足を止め、積極的な好感が示されたという。候補者が意識して最終盤まで笑顔で語り続けたことへの、共感の声も聞かれた。
 清潔感のある若者たちが楽しそうに集まったことで、おそらく候補者の若さと清潔な印象、力強さや信頼感が視覚イメージとして増幅され、道行く人々に印象づけられたのだ。

 7月3日に公示の参議院選挙は、4日から期日前投票が始まり、20日には投開票日を迎える。
 すでに各地で梅雨明けも始まり、酷暑のもとでの過酷な選挙戦になる。
 公明党の各候補者も、従来の支持層だけでなく、無党派の現役・若者世代の新たな共感を得る戦いをしなければ勝てない激戦だ。そして、公明党はこの層への浸透が圧倒的に足りない。
 2週間余りの選挙戦、有権者の目にどのようなイメージで認識されるか。最後まで「清潔感」と「笑顔」の発信を心がけて勝ち抜いてもらいたい。

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まつだ・あきら●ライター。都内の編集プロダクションに勤務。2015年から、「WEB第三文明」で政治関係のコラムを不定期に執筆。著書に、『日本の政治、次への課題』(第三文明社)がある。