「立党精神」から60年――公明党の新たな出発を願う

ライター
松田 明

55年体制の傲慢と腐敗を破る

 創価学会は戸田城聖・第2代会長時代の1954年に会内に文化部を設置し、そこから候補者を擁立して、翌55年4月の統一地方選挙を皮切りに独自の議員を輩出してきた。
「55年体制」という言葉があるとおり、この1955年は自由民主党と日本社会党が結成された年。大企業の利益を優先する自民党と、官庁・大企業の労組の利益を代弁する社会党。日本の政治は東西冷戦の対立構造をそのまま反映したものになっていたのだ。
 国会は不毛なイデオロギー対立に明け暮れ、料亭で与野党幹部が賭け麻雀や宴会に興じて賄賂が飛び交う〝夜の国対政治〟が常態化。国民の大多数を占める庶民は置き去りにされていた。そこに庶民が立ち上がった。
 1960年に池田大作・第3代会長が就任。池田会長は「宗教活動をする宗教団体」と「政治活動をする政治団体」の分離の必要性を挙げて創価学会文化部を解消し、61年11月に公明政治連盟を結成した。公明政治連盟は、あくまでも全国民に奉仕する立場であるからだ。
 62年7月の参院選で公明政治連盟は改選・非改選あわせて15議席を獲得。自民党、社会党につぐ第3党に躍り出た。
 この躍進を毎日新聞は、

学会が党利党略による国会運営を排撃する方向へ、まじめな努力をかたむけるなら、それだけでも創価学会の進出には意味がある(7月4日付「社説」)

と評している。

党創立者が託した願い

 そして1962年9月13日。公明政治連盟の第1回全国大会が東京の豊島公会堂で開催された。
 全国から2000人の代表が集まったこの会合で、来賓挨拶に立った池田会長は議員への期待をこう語った。

 最後の最後まで、生涯、政治家として、そして指導者として、大衆に直結していってもらいたい。偉くなったからといって、大衆から遊離して、孤立したり、また組織の上にあぐらをかいたりするような政治家には絶対になっていただきたくないのであります。大衆とともに語り、大衆とともに戦い、大衆の中に入りきって、大衆の中に死んでいっていただきたい。どうか公政連の同志の皆さん方だけは、全民衆のため、大衆のなかの政治家として一生を貫き通していただきたいと、切望するものであります。(『大衆とともに――公明党50年の歩み』)

 公明政治連盟はさらに発展する形で、2年後の64年11月、「公明党」の結成に至る。結成大会に池田会長は出席せず、創立者として祝電を寄せた。
 公明党の党綱領には、党の根本精神として次の指針が明記された。

大衆とともに語り、大衆とともに戦い、大衆の中に死んでいく

 あの公明政治連盟の第1回全国大会での創立者の言葉であることは言うまでもない。
 2022年9月13日は、この公明党の永遠の指針が示されて60年の節目に当たる。人間でいえば干支十干の60通りの組み合わせが一巡し終えた「還暦」だ。
 池田会長と親交深かった松下幸之助氏は、会長が還暦を迎えた1988年に会長への祝詞のなかでこう述べている。

 いよいよ真のご活躍をお始めになられる時機到来とお考えになって頂き、もうひとつ〈創価学会〉をお作りになられる位の心意気で、益々ご健勝にて、世界の平和と人類の繁栄・幸福のために、ご尽瘁とご活躍をお祈り致します。(『新たなる世紀を拓く』読売新聞社)

 実際、90年代に入ると創価学会は日蓮正宗という権威化し腐敗堕落した葬式仏教の鉄鎖を断ち切り、人類の繁栄・幸福のための世界宗教として急速に発展する。ICANのノーベル平和賞授賞式(2017年)にノルウェーのノーベル賞委員会が列席を招聘したのは、ヒバクシャ代表とSGI(創価学会インタナショナル)代表だった。
 今、60年の節目を迎えた公明党もまた、生まれかわった決意で、新たな出発と発展を期すべき時なのではないか。そのためにも立党精神である「大衆とともに」について、「支持者」「無関心層」という2つの観点から公明党に期待したい。

求められる〝内発の規律〟

 先日の公明新聞の投稿欄「波紋」に、62歳主婦の声が掲載されていた。
 投稿者は、参院選前の6月半ばに奈良市から十津川村を通って和歌山県新宮市に行った際、対向車も少ない山道に公明党の比例区候補ポスターが「何枚も何枚も」貼られているのを目にした。

1枚1枚、こんなところまでという場所にも貼られていました。
公明党議員の皆さん、陰で支えてくださっている方々のことを忘れずに頑張ってください!(『公明新聞』9月7日「波紋」)

 たった1人の友人や知人に公明党を語るため、往復数百キロ、ときにはそれ以上の距離を訪ねていく真剣な支持者は数えきれない。
 そうやって苦労に苦労をかさねてなされた対話の数は、実際の得票数の何十倍にもなるだろう。公明党の政策や議員の資質を評価して応援してくれる人もいるが、多くの人は、なにより支持者の熱意と言葉に共感し信頼して一票を投じてくれている。
 だからこそ、万が一にも公明党から不祥事が出れば、これら支持者たちは、自分が声をかけ足を運んだその一軒一軒の相手に謝罪をせずにはいられない。
 山奥まで1枚のポスターを貼りに行き、またお礼を述べて丁寧に剥がしに行く人の労苦。相手に冷ややかな反応をされるとわかっている時でさえも、1日を潰して遠路を訪ねて対話に行く支持者の真剣さ。何の見返りも求めずに、公明党を愛して、同じようにより良い社会を願って、無償の行動をかさねてきた幾百万の名もなき人々。そして1票を投じてくれた人。
 その方々への感謝を瞬時も忘れないことこそ、「大衆とともに」の大前提であり本質であるはずだ。
 札幌農学校の初代教頭に就いたクラーク博士は、ただひとつ「紳士たれ」というモットーを学生たちに贈った。単に外形的な規範に従うのではなく、どんな場面でも自分の振る舞いが「紳士」にふさわしいか否かを自身に問うて、内発的に規律せよと。
 議員と党関係者は公私のいかなる瞬間も、自分と公明党を支えてくれている人に恥じるところだけはないように、月々日々に自己を鍛錬し続けていってもらいたい。

自ら共感して投票したい人々

 公明党は先の参院選で、昨年の衆院選比例選から約93万票を減らした。これをどう総括し、目標の800万票にするには何が必要だと考えるのか。
 ボイス・アクションの実施、ゆるキャラ、SNSや動画等の活用を含め、公明党も時代にあわせたさまざまな取り組みを以前からはじめている。新しい挑戦は試行錯誤も含めて大いにやってもらいたい。
 ただ重要なことは、それらが誰に向かって発せられ、支持層の拡大にどこまで結実していくかだ。もしも党勢拡大を支持者に依存し、支持者を介する前提で何かを仕掛けているなら、その発想は時代からズレていると思う。
 実際には公明党の政策こそもっともマッチ度が高く、議員の人柄や能力にも共感するだろう潜在的な層でありながら、最初から公明党を選択肢に入れていないという有権者はまだまだ多い。
 30代半ば以下の世代からすれば、公明党は物心ついた頃から〝連立与党〟の政党だ。政治の重要な局面では、公明党の反応が必ずメディアの関心事になる。前世紀の野党時代には想像もつかなかった。
 だが、「公明党は何をめざし、何を実行している政党か?」と問われて、人々はどう答えるだろうか。いまだに「よくわからない」とか、およそ見当違いの回答が返ってくるとすれば、それは誰の背負うべき課題なのだろうか。
 時代は刻々と変化している。今やとくに若い世代ほど、そもそも他人から(それが近しい関係からであっても)依頼されて投票するということに、もはや概して抵抗感が強い。自分で見聞きして共感するから投票行動を起こす。共感しなければ投票所に行かない。
 人々は自分のささやかな自発的意志が政治にコミットできている手応えを求めているのだ。

あらためて〝大衆〟とともに

 もちろん、党員・支持者が家族や友人に語って公明党への理解者や支援者を拡大していく姿そのものは、民主主義のひとつの尊い理想形であることは論をまたない。とはいえ、語り切れないほど多くの実績を持ちながら、支持者が語りに行くまで誰も知らないのでは困る。
 今、第一に求められるのは、公明党自身、議員自身の手で新しい共感層を掘り起こし拡大していくことだろう。
 公明党はこのような理念と価値観を持って、このような社会をめざしている。この問題について、われわれはこう考えている。公明党の実績と政策は、あなたの望む社会の実現にこのように貢献できる。さらに課題を解決し、より良い社会に近づけるために、公明党はあなたの理解と力を必要としている――。こうした誠実で明確なメッセージを、すべての国民なかんずく無党派と呼ばれる層に力強く届けていってもらいたい。
 支持をお願いする側とされる側ではなく、「一緒に社会を変えていこう」という対等な関係の共感。それを、これまで公明党を選択肢から外していた層のなかに拡大していって、はじめて公明党の獲得票は増えていく。
 その意味では、「大衆とともに」の「大衆」を考える際、あらためて従来の支持層の外にいる人々のことをしっかり念頭に置いてほしい。
 公明党に関心も理解もなかった人々の気持ちに立って、その人たちに届く言葉で情報を発信し、心を動かし、正視眼で公明党を見て知ってもらう。そして、無関心層を「ともに語り」「ともに戦う」共感層へと変えていく。議員がその先頭に立つ。
 最近の選挙では、いわゆる〝ポピュリズム政党〟が一定の支持を集め議席まで獲得している。政策の是非はともあれ、彼らは組織も機関紙も動員力もないなか、新しい支持層を着実に獲得した。仮に危うく拙い政策であったとしても、議席獲得に至るだけの共感層を生み出したという点では大いに成功しているのだ。
 既存の支持基盤がないだけ、彼らは誰に向かって何をどう伝えるか真剣に見定め工夫してきた。インターネットの時代は、出版物の物量の格差を既に打ち消しつつある。

 かつて公明党の登場は、日本の有権者の投票行動に大きな変化をもたらした。政治に希望を見いだせず投票から遠のきつつあった層を、ふたたび投票へと動かしたのだ。

創価学会員が、同等の社会階層に属する非会員と比較して、顕著に強い政治参加志向を持っていたことは、1960年代の調査データからも明らかである。(蒲島郁夫/境家史郎『政治参加論』東京大学出版会)

 公明党の結成は文字どおり〝大衆〟とともに、日本の民主主義を底上げさせた。
 今ふたたび公明党は、新たな〝大衆〟の支持を獲得してもらいたい。本来は公明党に共感して一緒に社会を変え得るポテンシャルを持ちながら、それに気づかずにいる〝大衆〟にこそ、みずからの言葉を届けていってもらいたい。
 コロナ禍で、公明党が迅速に繰り出した幾多の政策は、国民の生命と暮らしを大きく守った。テイクアウトの需要が急増したなか、軽減税率があったことで、総額どれほど日本の家計が救われてきたことか。これほど実務能力と合意形成能力のある政党は他にない。
 国内外にいくつもの危機が押し寄せている時代に、公明党には「日本の柱」として立つ責任がある。
 立党精神60年の節目に、公明党が人々に信頼を広げ、力強く再生していくことを願う。

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